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今度は鉄道路線を廃止? どこまで続くウクライナ・ロシアの泥仕合

迷宮ロシアをさまよう
ウクライナ東部ハリコフの鉄道駅。2011年の風景であり、翌2012年のサッカー欧州選手権の開催を控え、まだ希望に溢れていた(撮影:服部倫卓)。
ウクライナ東部ハリコフの鉄道駅。2011年の風景であり、翌2012年のサッカー欧州選手権の開催を控え、まだ希望に溢れていた(撮影:服部倫卓)。

飛行機に続き鉄道も?

ご存知のとおり、現在ロシアは隣国のウクライナと厳しい対立関係にあります。2014年にウクライナで政変が起きて、同国の欧州統合路線(ロシア離れを意味する)が決定的に。ロシアはこれへの対抗措置として、ウクライナ領クリミアの併合を強行し、また南東ウクライナ・ドンバス地方の内戦にも介入して揺さぶりをかけました。

その後ウクライナは、脱ロシア路線を鮮明にしています。その一環として、2015年10月には、ウクライナ当局がウクライナ・ロシア間の航空便の運航を全面的に禁止する措置をとり、以降、両国間では直行便が飛べない状況が続いています。

こうした不毛な対立関係が、このほど、新たな局面を迎えました。ウクライナ鉄道が、ロシアとの間の旅客列車の運行を廃止する方針を打ち出したのです。最終的な判断はウクライナの政権当局に委ねられており、近日中に廃止の決定が下される可能性が出てきました。

ウクライナの首都キエフと、ロシアの首都モスクワの間は、直線距離で758キロメートル。旧ソ連圏の人たちは、このくらいの距離は、夜行列車で移動することが一般的です(飛行機と比べ夜行列車は宿代が浮くし、街中の駅の方がアクセスも便利と考えらえれている)。したがって、2015年10月に両国間で飛行機が飛ばなくなっても、鉄道があるので、影響は軽減されていました。それが、もしも鉄道までもがストップしたら、影響は大きそうです。

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ウクライナ領を走るロシア鉄道の車両。今後はこのような光景も見られなくなるのか(撮影:服部倫卓)。

切っても切れないウクライナとロシアの関係

今日の政治関係こそ最悪ですが、元々ウクライナとロシアは切っても切れない関係にあります。ウクライナ人とロシア人はともに東スラブ系の民族であり、ウクライナ領内には多数の民族的なロシア人や、ロシア語を母語とするウクライナ人が居住しています。お互いの国に親戚や友人がいたりするのは、ごく当たり前のことです。

これだけ関係がこじれても、ウクライナにとって最大の貿易相手国は、いまだにロシアです。また、ウクライナ経済が低迷し、仕事を求めて外国に出る国民が多い中で、最近でこそポーランドなどのEU圏に出稼ぎに出る人々が多くなりましたが、依然としてロシアは重要な出稼ぎ先となっています。ウクライナ国民が、やむにやまれずロシアに出稼ぎに行く際に、一番手軽な鉄道を使えなくなるとしたら、二重に切ない話です。

2017年にウクライナ・ロシア間の鉄道便を利用した旅客は90万人で、両国の関係がまだ正常だった2013年に比べると5分の1に減ったということです。それでも、ウクライナ鉄道にとってロシア路線は依然としてドル箱の収入源であり、それを失うことになったら経営面の打撃も大きいはずです。

どうも、最近のウクライナを見ていると、「ロシアと激しく対決すればするほど、我々はヨーロッパに近付くのだ」といった勘違いをしているのではないかと思われてなりません。

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地味な存在だったミンスク国際空港が、今やウクライナ・ロシア間のトランジット・ハブ空港に(撮影:服部倫卓)

漁夫の利をむさぼるベラルーシ

すでに述べたとおり、2015年10月から、ウクライナとロシアの間で飛行機が飛べない状況が続いています。しかし、これには抜け穴があります。直行便は飛べなくても、お隣のベラルーシのミンスク国際空港で乗り換えて、それほどストレスなく、ウクライナ・ロシア間を飛行機で行き来することが可能だからです。ベラルーシのフラッグキャリアであるベルアヴィア航空は、ロシア便、ウクライナ便を増便して、このビジネスチャンスをがっちり掴んでいます。ミンスク国際空港は一躍、この地域のトランジット・ハブ空港になり、旅客増や施設拡充などに成功して、2017年には旧ソ連地域の最優秀空港賞を受賞してしまいました。

現在取り沙汰されているウクライナ・ロシア間の鉄道路線の廃止が、仮に現実のものとなっても、需要がある限り、代わりの交通手段やルートが開拓されるでしょう。ベラルーシのゴメリ駅あたりで列車を乗り継ぐことが盛んになり、またぞろベラルーシが漁夫の利を得るかもしれません。また、乗り心地は最悪ですが、長距離バスの利用が増えるかもしれません。ウクライナとロシアの国境域では、未許可のバスも走っているそうで、そうした闇経済化に拍車がかかる恐れもあります。

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東ウクライナのハリコフ駅でロシア行きの列車に乗り込む乗客たち(撮影:服部倫卓)

ウクライナ・ロシア越境の体験談

筆者は、ウクライナ・ロシア間は基本的に飛行機で移動していますが(最近では上述のとおりミンスク経由で)、一度だけ鉄道で両国国境を越えたことがありますので、その時の様子をレポートしてみたいと思います。

2011年に、東ウクライナのハリコフ(ウクライナ語読みではハルキフ)という街から、南西ロシアのベルゴロドというところに、鉄道で移動しました。11:05ハリコフ発の列車は、北に向かって1時間ほど走ると、ウクライナ側の国境駅であるカザチャ・ロパニ駅に到着。同駅に30分くらい停車し、そこでウクライナ側の税関検査と出国審査が行われました。係官が各コンパートメントに来てくれるので、乗客は自分のコンパートメントで待っていればよく、楽な手続きでした。

ただし、これがロシア・ベラルーシ間の列車であれば、両国は同盟関係にあるので、国境では何のチェックもありません。夜行列車でも、到着駅まで安眠できます。それに対し、ウクライナ・ロシア間の夜行列車では、出入国手続きのために夜中にたたき起こされるので、大変です(2011年に私が利用したのは昼間の列車だったので、その点は楽だった)。

ところで、国境駅での出国手続きの際に、ウクライナの国境警備員が、「日本円は持っているか?」と訊いてきました。もちろん持ってはいましたが、筆者は本能的に、「これは外貨の持ち込み・持ち出しに関し、何らかの規制があるのだな」と感じ、「ない」と答えました。ただ、国境警備員は、「本当にないのか? ほんの小銭でも?」と、妙に食い下がります。当方は、勝手が分からず、面倒になりそうだったので、「ない」の一点張りで通しました。国境警備員は、「そうか」と言って、やや残念そうな表情で去って行きました。あとで冷静に考えれば、あれは日本のコインを記念に欲しいということだったのでしょうね。珍しい国の乗客がいたら、その国のコインをねだっているのでしょう。初めて陸路でウクライナ・ロシア国境を越えるということで、筆者もそれなりに緊張しており、そこまで頭が回りませんでした。

かくして、出国手続きも終わり、列車はウクライナの国境駅を発車。出発後すぐに国境を越えたはずですが、「ここが国境」と分かる物理的な境界は両国間には設けられていなかったようで、具体的にどこがボーダーなのかは分からずじまいでした。このあたり一帯はウクライナもロシアも農村地帯で、国境を挟んだ姻戚関係なんかもあるはずですから、地元民は自由に行き来したりしていたのかもしれません。

国境を越えた列車は、ロシア側の国境駅では停車したりせず、そのままベルゴロド駅まで走りました。そして、ロシアに入ってから初めての停車駅であるベルゴロド駅で、入国検査が行われました。ここでの手続きも、ウクライナを出国する際とほぼ同じ。麻薬犬と思しき犬が乗り込んできたりもしたけれど(可愛い子犬だった)、緊張感などはほとんどありませんでした。というわけで、私としては身構えていたところがあったけれど、2011年に一度だけ体験した鉄道によるウクライナ・ロシア国境越えは、思いのほか牧歌的なものでした。

もうあの平和な風景は、失われてしまうのでしょうか。ウクライナ政権当局が鉄道の運行に関しどのような結論を下すのか、非常に気がかりです。