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ロシア鉄道博物館で実感した日本との文化差

迷宮ロシアをさまよう
1956年に製作されたソ連最後の旅客列車用SL(撮影:服部倫卓)。
1956年に製作されたソ連最後の旅客列車用SL(撮影:服部倫卓)。

新装開店したロシア鉄道博物館

日本では、2007年10月にさいたま市に誕生した「鉄道博物館」が、大人気を博しています。それからちょうど10年後の2017年10月、ロシアのサンクトペテルブルグで、「ロシア鉄道博物館」が開館しました。筆者は早速このロシア鉄道博物館を見学してきたのですが、日本の鉄道博物館と比べてみて、ロシアならではの文化的な特質が見えてきたような気がしました。

なお、正確に言えば、ロシア鉄道博物館には前史があります。元々サンクトペテルブルグの別の場所に、「10月鉄道博物館」というものがありました。その主な展示車両を、現在の場所に移設して、2017年10月に装いも新たに「ロシア鉄道博物館」としてオープンしたというわけです。博物館は、ロシアの国鉄である㈱ロシア鉄道の直営。展示面積はサッカーフィールド5面分くらいあるそうです。住所は、Bibliotechny Pereulok 4/2, Saint-Petersburgで、地下鉄バルチースカヤ駅を降りてすぐなので、アクセスは良好です。毎週水曜日から日曜日までの10:30~18:00に開館しています。入館料は300ルーブルで、現在のレートだと500円ちょっと。ウェブサイトは、こちら(英語ページあり)。

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貴重な車両が多数展示されている様子は、一見すると日本の鉄道博物館に似ているのだが(撮影:服部倫卓)。

日本と比べると物足りない展示

ロシア鉄道博物館を、日本の鉄道博物館と比較すると、やはり工夫が足りず、アミューズメント性が低いという印象を否めませんでした。

日本の鉄道博物館は、過去・現在・未来に、バランス良く目配りした内容になっています。それに対し、ロシア鉄道博物館は、ひたすら過去にフォーカスし、歴史的車両を展示することにほぼ特化しています。その車両にしても、ストイックに陳列するのみで、それなりにフォトジェニックではあるものの、説明が不十分で、物語性を感じにくいです。

たとえば、展示車両の中に、1956年に製作されたソ連最後の旅客列車用蒸気機関車というものがあります。それが冒頭写真にあるP-36というSLで、ここに展示されている製造番号0251の機関車がまさに最後に製作された個体ということです。しかし、それだけの貴重な展示物でありながら、説明があっさりしすぎており、歴史的価値を実感しにくい気がしました。

ロシア鉄道博物館にも、一応はディーゼル機関車の運転を体験できるアトラクションがあります。しかし、全体的に展示物の中に動くアイテムが乏しく、体験的、学習的要素も不充分であるように感じました。

日本では、鉄道そのものだけでなく、駅弁、発車メロディー、模型など、鉄道に付随する多様な文化が発展しており、またそれがマニアックな趣味の対象となったりします。日本の鉄道博物館では、駅弁や、食堂車の料理を楽しむことができます。それに対し、ロシアの鉄道博物館では、食の要素は皆無。ショップはあるものの、売っているのは、ちょっとしたノベルティグッズくらいでした。日本の鉄道博物館のショップのように、鉄道関連の書籍が豊富に取り揃えられていたりすると、テンションが上がるんですけどね。

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ガイドによるツアーもある。ただし、参加は有料で、言語はロシア語のみ。手前のベンチコートを着た女性がガイドさん(撮影:服部倫卓)。

VR/AR技術を取り入れて大化けするか?

日本の鉄道関連文化は世界に類を見ないほど発展しており、また博物館やテーマパークのノウハウも充実しています。日本の鉄道博物館はそうした文化を背景に存立しているので、出来たばかりのロシア鉄道博物館を日本のそれと比較するのは、酷なのでしょう。

考えてみれば、ロシアには鉄道マニア(鉄ちゃん)というものが、そもそも存在しないのだと思います。ソ連時代には鉄道インフラおよび車両は軍事関連物として写真撮影が禁止されており、今日でも治安維持を理由に鉄道の写真を撮ることは制限されています。こんな国で、「撮り鉄」が育つはずはありませんね。ロシア国民にとって鉄道とは、もっぱら実用目的の「移動手段」であり、そこに多様な楽しみを見出すようなことは、これまでは稀だったのでしょう。ロシア鉄道博物館は、どちらかと言うと、鉄道マンの側が自分たちの歴史を誇示するために開設したものだというニュアンスを感じます。

ただ、ロシアの鉄道関連の博物館は、ここ1箇所だけではありません。サンクトペテルブルグのロシア鉄道博物館は、総本山と位置付けられるので、やや真面目に作りすぎてしまったのかもしれません。ここ以外のロシアの鉄道博物館については、朝日新聞の中川仁樹特派員がそのワイルドでカオスな魅力をレポートしているので、ぜひご参照ください。

ロシア鉄道博物館は、まだ開館して1年足らずなので、これからの発展に期待しましょう。実は、ロシアでは、VR/AR(バーチャルリアリティ/拡張現実)技術の開発が非常に盛んであり、それをアミューズメントの分野に応用する試みも始まっています。ロシア鉄道博物館がそれを取り入れて、入場者がシベリア鉄道の旅や高速鉄道の運転を疑似体験できるようになる日も、もしかしたら来るかもしれません。