弁も立ち筆も立つ人の本が売れている。『どこで暮らすのか』の著者ユ・ヒョンジュンもその一人。大学で教鞭を執り、建築事務所を運営。テレビのトーク番組でも人気だ。どうすれば都市の暮らしは快適になるのか。様々な角度から読者に刺激を与える著だ。
公立学校の作りは、ソウルも半島最南端の島も、どこも同じ。子どもらを外部と隔離し、監視しやすい校舎。学校建築と刑務所の構造はそっくりだ、と説く。
人は建築空間に影響を受ける。韓国民の6割が、鉄筋コンクリートのマンションやアパートで暮らす今、青年たちの多くが、大企業や公務員を目指す。「画一的な暮らしの空間から、天才は出てこない」
建築家の観点から、時代の変遷を解き明かす。
床暖房のオンドルはもともと、かまどで火を焚き、その煙が床下を循環して部屋を暖めていた。1960年代に石油コンロが導入され、炊事と暖房が分離された。石油や練炭を使ったボイラーが普及し、70年代には2階建ての家が増え、12階建てアパートも作られた。
高層建築は空中に不動産という価値を生み出し、高密度な都市が形成された。それは中産層という新興階級を生み出し、民主化を成し遂げる力となった。韓国社会の変化は、オンドルとかまどの焚き口の分離から始まったのだ。
著者によれば、日本の植民支配を受けた理由もオンドル暖房にある。平屋でないとオンドルが作れなかったので、都市の高密度化が進まず、近代化に後れをとったのだと主張する。
ヨーロッパの古都に比べると、600年の古都ソウルは、しわをのばして若返りを図った「ボトックス都市」だ。ニューヨークのハイラインパークをまねた、ソウル駅高架公園の恥ずかしさ。「先進国の成功事例を踏査後に推進」という都市開発の問題なのだ。
2020年には1人暮らし世帯が全体の3割になる。狭い生活空間の閉塞感を解消するため、徒歩で移動できる圏内に小さな公園をいくつも作ろうと提唱する。
創業へのハードルの低さで、シリコンバレーのガレージ企業と、韓国の商店街に点在する間借りの教会は似ているなど、奇想天外な比較が楽しい。ただし、根拠が明確でない論理も見られる点が残念だ。
歴史はどう記録されたか その歴史をひもとく
ユ・シミンの本は、出せば売れる。テレビのトークも大人気。かつて盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権で長官を務めた人だ。新刊の『歴史の歴史』は、知的好奇心がたっぷりと満たされる充足感がある。
古代ギリシャのヘロドトスが書いた『歴史』、マルクスとエンゲルスの『共産党宣言』、ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』など、古代から現代までの長く読まれ続ける歴史書について、書き手の生きた時代や取り上げた事件などを考察した。
「最高の歴史書を一冊挙げるとしたら『史記』だろう。それまでの歴史書が一つの星を描いたとしたら、司馬遷は宇宙を描いた」
過去をあったままに書くことは、とうてい不可能だ。そして歴史は権力者によって、利用され歪曲もされる。
同じ人物でも、書き手の哲学と研究方法によって、著される姿は異なる。絶対的に正しい歴史など、存在しないのだ。
日本による植民統治の時代を生きた歴史家の話は、とくに興味深い。
「国は亡びても、歴史は亡びない。国とは形体であり、歴史とは精神だ。精神さえ保存できれば、形体は必ず復活する」
そう信じた朴殷植(パク・ウンシク、1859~1925)は、当代史を記録することに情熱を注ぎ、『韓国痛史』と『韓国独立運動之血史』を書いた。
『朝鮮上古史』を著した申采浩(シン・チェホ、1880~1936)は、事大主義に陥って自国の歴史を歪曲した高麗と朝鮮の歴史家たちを痛烈に批判した。
歴史の真実を見据えるために命がけの執筆が行われ、それが今の韓国史の礎となったことを知って、胸が震えた。
「そのままで大丈夫。頑張らなくていい」
出版社に勤める28歳の女性ペク・セヒが書いた『死にたいけどトッポッキは食べたい』が、共感を集めている。
10年前から気分障害でカウンセラーを転々とし、ようやく昨年、自分に合った先生と出会ったと言う。本著はカウンセリングで交わされた問答の記録に、ペクの独白を加えたものだ。
人は、他人との関係の中で傷つき病んでゆく。見知らぬ人との関係にも傷ついてしまう。
「うらやましくなるようなインスタグラムを見ると、すごく憂鬱になる」「SNSにわざと、本の話や風景など、自分は特別だと思わせるようなことを書いてしまう」
理想の自分を他人に誇示しては、自責の念にかられて不安になることの繰り返し。長くて深い暗闇のトンネルの中で、もがいてきたペクが痛々しい。
「望んでいるのは、私が愛し愛されること。ただそれだけなのに、その方法がわからなくて、苦しい」
その苦しみから逃れるかのように、書くことに専念したのだろうか。本著がベストセラーになったことで、心の充足を得たのであれば幸いだ。
つらくてたまらない時、「そのままで大丈夫。頑張らなくてもいいよ」という慰めが一番ありがたかった、という一節が心に残った。
韓国のベストセラー
7月第2週 インターネット教保文庫集計(総合)
1 역사의 역사 歴史の歴史
유시민 ユ・シミン
古今東西の歴史家たちは歴史をどう記録してきたか。トークショーの人気者
2 행복해지는 연습을 해요 幸せになる練習をしましょう
전승환 チョン・スンファン
雨の日に傘をさしかけるように、疲れた心をいやす温かい短文メッセージ集
3 곰돌이 푸, 행복한 일은 매일 있어 くまのプーさん、幸せなことは毎日ある
곰돌이 푸 くまのプーさん
ディズニーの人気キャラクター。第2弾『急がなくても大丈夫』も11位に
4 죽고 싶지만 떡볶이는 먹고 싶어 死にたいけどトッポッキは食べたい
백세희 ペク・セヒ
気分障害に苦しむ28歳の女性。カウンセリング診療の問答の記録
5 모든 순간이 너였다 すべての瞬間がおまえだった
하태완 ハ・テワン
パステルトーンの挿絵もステキな、イケメンインスタグラマーのエッセー集
6 열두 발자국 12の足跡
정재승 チョン・ジェスン
トークにも長けた脳科学者の12回の講演録。人口知能や人間の欲望を解明
7 어디서 살 것인가 どこで暮らすのか
유현준 ユ・ヒョンジュン
平面図とインテリアだけを見て、家を決めるのか。トークでも人気の建築家
8 고양이1 猫1
베르나르 베르베르 ベルナール・ヴェルベール
韓国で一番人気のフランス人作家の新作小説(全2巻)。猫の目で見た人間社会
9 언어의 온도 ことばの温度
이기주 イ・キジュ
2017年に一番売れたいやしのエッセーが、再びベストテン入り
10 굿 라이프 グッドライフ
최인철 チェ・インチョル
ソウル大学の心理学教授が説く幸せの意味。より良い人生を生きるために