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「角煮と白菜」が教えてくれた 台湾人の偉大なこだわり

マイケル・ブースの世界を食べる
Photo: Kitamura Reina

私と台湾の出会いはひと目ぼれから始まった。ほとんど分子レベルの化学的誘引といっていい。台北空港に着陸して1時間と経たないうちに、この地域とはうまくやっていけるとわかった。

ああなんという街! 暖かく、緑豊かながら、現代的で効率的、そしてところどころ美しい。出会った人はすごく親しみがあって親切だったけど、人の数がとても少なかった。私は上海から来たばかりで、対照的に台北はさびれているように思えた。

しかし、そんな私を引き留めたのはもちろん食だった。福建や広東、ポリネシア、当地の伝統がまざり合う料理。ここでも日本の影響は面白そうだった。最近ではベトナムやインドネシア、フィリピンからの移民が自国の味を持ち寄っている。

以前から私は、ロンドンのソーホー地区にある名高きレストラン「バオ」(英国の首都にあっては数少ない、客が行列覚悟で訪れる店の一つ)と、香港のソーホーにある「リトルバオ」が出す「中華サンド」の大ファンで、ともに私が世界の中でも気に入っているレストランだ。台北のサンドは少しばかり上品ではなかったものの、そのおいしさは本格的だった。もちろん、伝説の小籠包レストラン「鼎泰豊」も訪ねた。スープを内に秘めた魅惑の小さな包みを世界中で提供するチェーン店のもととなった店だ。作り方のひけつは、冷めて固まったゼラチン状のスープを皮の中にさじで入れておくこと。蒸し上がると、それがやけどするほど熱い肉汁へと変わる。中国本土でもいくつかの支店で食べたが、台北のこの店の小籠包が一番だった。繊細で、味もよかった。

シンプルな一皿は今年一番

台湾には他にも、知るに値する料理がたくさんある。油揚げに春雨を詰めた阿給、強力なうまみを放つ担仔麺、魚介や鶏肉、アヒル、豚肉などを紹興酒でとろとろに煮込んだスープ・仏跳牆……。台湾人は日本人よりも食に対するイノベーションにオープンのようで、しばしば遊び心に富む(タピオカティーやバブルワッフルなど、どういうわけか球状のものが好きらしい)。豚肉で特別な魔法のようなことをする。路地裏の飾り気のない開放的な店で食べた、豚レバーを四川山椒でさっと炒めただけのシンプルな一皿は、今年食べた中でも一番おいしかった。

夜市は当然のことながら有名だ。混雑した通りから食欲をそそる湯気と煙が立ち上っており、一つ一つの市は特別な小さな食の祭りのようだ(毎晩開かれているという点を除けば)。私が特に気に入ったのは葱油餅。インドのタンドールのような形のオーブンで焼き上げられる。ある晩分並んだが、ちっとも惜しくなかった。

台北最後の日、台湾人の食に対する偉大なこだわりを目にしたのは、194849年に蔣介石が台湾に持ち込んだ宝物で埋め尽くされている故宮博物院でのことだった。そのど真ん中に、院全体で、おそらく台湾全域でも最も評価が高い二つの美術品が、警報装置で守られたガラスケースに入れられ、(行くために何時間も並ぶ)専用の場所で飾られていた。その一つは、層状の模様の玉(ぎょく)。大きさは野球ボールくらい。清代のもので、層の色が異なっているため豚の角煮そっくりに見え、「肉形石」との説明書きがあった。あまりにもおいしそうだったため、サンドにして、ピーナツやコリアンダー、タマネギを散らし、ほおばる自分を想像してしまった……。

もう一方も清代のもので、院のシンボル的な存在だ。翡翠から彫り上げられた美しい白菜。近くで見ると、葉にイナゴのような昆虫がくっついている。二つの食材は皿の上でどんな風に引き立て合うのだろう院を出る頃、私はそう考えていたのだった。(訳・菴原みなと)