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アメリカ人が6畳一間の暮らし 小さな家に住んで気づいたこと

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タミー・ストローベルと夫のローガンが4年間暮らしたタイニーハウス Photo: So Kosuke

――タイニーハウスに暮らすきっかけは何だったのでしょうか。

大学院で修士号を取った後、投資会社に就職しましたが、少しずつ日々の暮らしに不満を感じ、落ち込むようになりました。当時はカリフォルニア州で暮らしていましたが、往復2時間かけて会社に通い、10時間近くオフィスで座って働く。ストレスを紛らわすために、買い物をする。でも、気は晴れず、また買い物をする。仕事や日々の暮らしに不満を募らせている私を見て、夫のローガンが生活をダウンサイズすることを提案しました。「そんなことをしたら他人がどんな目で自分たちを見るか分からない」。最初はそう言って、拒否しましたが、二人で話し合いを続けるうちに少しずつ支出を減らし、モノを処分するようになりました。暮らしぶりを小さくしていくなかで、タイニーハウスについて書かれた本を目にし、興味を持ったのです。

屋根裏のスペースが寝室。2人で寝るには十分な広さ  Photo: So Kosuke

――当時住んでいた家は広かったのですか。

広さ100平方メートルを超えるアパートで、寝室が2つありました。車も2台持っていました。大学に通うために借りた学生ローンの返済残高も約350万円あって、あまり幸福とはいえない暮らしでした。そんな状況で不満をためていたからこそ、ローガンの提案を受け入れて、生活をダウンサイズすることを決心できたのだと思います。04年末には仕事を辞めて教育学を学ぶために大学院へ再び通い始めました。

寝室に上がるには、備え付けのはしごを使う  Photo: So Kosuke

――ミニマリストになるのと同時並行でタイニーハウスに暮らすことを考え始めたということですか。

そうです。タイニーハウスに住むために持ち物をすべて処分したわけではなくて、持ち物を減らしていく過程でタイニーハウスに出合って気に入ったのです。

家の一番奥に作られたベンチがソファ代わりになる  Photo: So Kosuke

――すごく小さな家に住むことでどんな利点があったのでしょうか。

金銭的にもタイニーハウスで暮らすことは私たちの身の丈に合っていました。私たちが購入したのは約400万円弱のタイニーハウスです。安くはありませんが、都市部のアパートの家賃の数年分にあたる金額で、長い目で見れば生活費の節約になります。11年に購入した後はオレゴン州ポートランドの友人宅の庭を間借りして暮らし始めました。モノを置くスペースがないので、余計なモノを買うこともない。車も手放して、学生ローンを早く返済することができました。

何よりも大きかったのは、生き方に対する考えが決定的に変わったことです。幸せになるために、豪邸を追い求める必要はない。あの小さな家で暮らしたことで、私たちはそれを理解することができました。自分の家に何を持ち込むのか。自分にとって大切なものは何か。生活をダウンサイズしたことで、人生にとっての優先順位を見直すことができました。どこかに移り住むことに柔軟な考えを持てるようになったことも利点でした。

玄関の扉を開けるとすぐにキッチンがある。小さいながらも調理スペースがきちんと確保され、収納も工夫されている  Photo: So Kosuke

――ただ、今はそのタイニーハウスは休暇を過ごすための家にしているんですよね。

11年に住み始めて約3カ月後に、カリフォルニアに住む父親が脳卒中で倒れました。その後、父が126月に亡くなるまで、ポートランドから両親の家へ頻繁に通うことになりました。家族のこともあり、タイニーハウスを引っ張って、カリフォルニア州に引っ越すことをローガンと話し合いました。ただ、米国では自治体ごとに居住面積の最低基準が定められており、タイニーハウスに住むことが違法になる場合があります。ポートランドでは設置できる場所が少しずつ増えていたのですが、カリフォルニア州の自治体では設置許可を得るのが難しいこともありました。いろいろなところに移動しながら約4年間暮らした後、いまはローガンの両親宅の敷地に置かせてもらっています。最初のアイデアは街中にタイニーハウスを置いて暮らすことだったので、街の中心部から離れた場所では、友人を迎えたりすることも難しく孤立していると感じたこともありました。そんな理由で今のアパートに引っ越して、タイニーハウスは休暇を過ごすための家にしたのです。

家の下にはタイヤが取り付けられており、トレーラーハウスのように車で引っ張って移動できる  Photo: So Kosuke

――いまのアパートに移った後、住まい方はタイニーハウスの頃と変わりましたか。

今のアパートは寝室が1つで、約38平方メートルの広さですが、引っ越した後もモノはそんなに増えませんでした。ベッドと椅子は買いましたが、そのほかに大きな買い物はしていません。テーブルはタイニーハウスで使っていたものを持ってきました。お金の使い道も、本当に必要としていないモノを買うよりは、旅行や満足のいく食事に使う方がいいと考えています。「持たない暮らし」で大切なのは、住む家の大きさではなく、自分の人生を柔軟にすることだと思います。タイニーハウスでの暮らしは私たちにそのことを教えてくれました。(構成:宋光祐、敬称略)