トランプ政権奪還後、「翌日」から民主党は何をすべきか 人気クリエーターの提言
米国の中間選挙に向けた動きが本格化し始めた7月、ブライアン・タイラー・コーエンの『The Day After』が刊行された。著者は、YouTubeなど複数のソーシャルメディアで数百万人規模のフォロワーを持つ、政治を中心とする独立系メディア・クリエーターである。バーニー・サンダース上院議員やニューヨーク市長ゾーラン・マムダニら民主党・進歩派の政治家などを自らのメディアで積極的に取り上げてきた人物だ。
本書は単なる「トランプ批判」ではない。著者が問いかけるのは、第2期トランプ政権によって米国の民主主義が大きな転換点を迎える今、トランプが去った後に何が起こるのかではなく、その「翌日」から民主党は何を目指し、どのように国を統治するのかという問題だ。著者は共和党と民主党の政治的な歩みを振り返りながら、民主党、そして進歩派が政権を奪還した際に、どの政策を優先し、どのように権力を行使すべきかを具体的に提案している。
著者によれば、バイデン政権の大きな問題は、民主党が政権を握ればトランプ以前の「正常な民主主義」に戻れるという期待にあった。しかし共和党は、トランプ登場以前から何十年にもわたり、政治、司法、メディア、選挙制度などを通じて権力を行使するための基盤を築いてきた。民主党が政権を取るだけでは、以前の状態に戻ることはできないというのが著者の認識だ。
その背景として著者は、1960年代以降の米国社会の変化に着目する。公民権、女性や性的少数者の権利、環境保護などの進展に対し、保守派は長く反発してきた。「アメリカを再び偉大にする」というスローガンの背後には、1960年代以前の社会に時計の針を戻そうとする動きがあると著者はみる。
本書が強く批判するのは、民主党の「超党派主義」への過度な期待だ。民主党は妥協によって共和党支持者を取り込み、良い政策を実行すれば国民から評価されると考えてきた。一方の共和党は権力を握った際、それを最大限に利用してきた。民主党もまた、選挙で与えられた権力をためらわず行使すべきだと著者は主張する。
具体策として、著者は最高裁判所改革を提案する。現在9人の判事を増員し、任期と厳格な倫理規定を設けるべきだという。また、上院の審議を引き延ばすフィリバスターの撤廃、大統領の免責特権や恩赦権の制限、自己恩赦の禁止など、権力の集中を防ぐための制度改革を実行することも重要だ。
こう語る一方で、民主党が真っ先に取り組むべきなのは、経済政策だと著者は断言する。民主主義や公民権を守ることだけでは、国民の支持を得られない。賃金が上がり、物価が下がり、医療費などの負担が軽減され、「生活が楽になった」と実感できることこそ、政治の成果として重要なのだ。
本書を貫くのは、「民主主義は善意だけでは守れない」という認識だ。制度を尊重し、超党派で協力することは重要だが、それだけでは政策を実現できない。著者は権力の行使と乱用を区別し、共和党の権力乱用を批判するあまり、民主党まで正当な権力行使をためらうべきではないと説く。その主張には説得力がある。
著者の提案のすべてが容易に受け入れられるわけではない。特に最高裁判事の定数増は、司法の独立や政治化をめぐる深刻な問題を生じさせる可能性がある。また、民主党が共和党と同じように権力を最大限に行使すれば、政治的分断をさらに深めることになるかもしれない。
本書の内容は、多くの民主党支持者にとって目新しいものではない。だが、トランプ後の米国政治を制度改革の問題として捉え直し、政権奪還後に何を実行するのかまで踏み込んで論じている。今後の米国政治の方向性を考えるうえで、示唆に富む一冊といえるだろう。
8月30日付 The New York Times紙より
※『』内の書名は邦題(出版社)
Regime Change
Maggie Haberman and Jonathan Swan マギー・ハーバーマン&ジョナサン・スワン
ニューヨーク・タイムズの2人の記者がトランプ政権2期目の初年度を検証。
The Day After
Brian Tyler Cohen ブライアン・タイラー・コーエン
トランプ政権終了後の民主党の政策について行動指針を提言する。
Strangers
Belle Burden ベル・バーデン
20年の結婚生活を振り返り、破綻(はたん)の原因と再出発への道を探る。
The Body Keeps the Score
『身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法』(紀伊国屋書店)
Bessel van der Kolk ベッセル・ヴァン・デア・コーク
トラウマが心身に及ぼす影響と、回復のための革新的な治療法。
London Falling
Patrick Radden Keefe パトリック・ラーデン・キーフ
息子の不可解な死と秘密を追う両親の苦闘と真相究明に迫る。
Biological War
Annie Jacobsen アニー・ジェイコブセン
生物兵器がもたらす文明崩壊の危機と迫り来る脅威を描く。
Dogs, Boys, and Other Things I've Cried About
Isabel Klee イザベル・クリー
ニューヨークで保護犬を救いながら自らの人生と愛を模索する物語。
Born A Crime
『トレバー・ノア 生まれたことが犯罪!?』(英治出版)
Trevor Noah トレバー・ノア
人気コメディアンが語る、南アのアパルトヘイト下で黒人の母と白人の父を持つ生い立ち。
All That's Unseen
Emilee Hackney エミリー・ハックニー
米アパラチアの宗教的な故郷を離れ、ハーバード大学へ進んだ女性の回想録。
Communion
JD Vance J.D.ヴァンス
副大統領が、自身の信仰の歴史と政治理念の原点を語る。