「プロフだけじゃない」 旅して味わった、ウズベキスタンの豊かな食
大きなお玉が、山盛りの米に勢いよく差し込まれていく。
鍋底から米とたっぷりの油、色とりどりの具材を大きくすくいとると、皿へ手早く盛りつけていく。湯気とともに香ばしい匂いが立ち上る。
ウズベキスタンの首都タシケントに到着した翌日、取材先に案内してもらったプロフ専門店の店先には、大きな丸鍋がいくつも据えられていた。「カザン」と呼ぶらしい。直径1メートルはあり、子どもならすっぽり入れそうだ。そこから炊きたてのプロフが次々と皿に盛られ、運ばれていく。
「こんなに大きな鍋で作るなんて!」
プロフを口にする前から、私はその豪快な光景に生つばを飲み込んだ。
私の前に炊きたてのプロフが運ばれてきた。色とりどりの具材の正体は、甘い黄色のニンジンに、ほくほくとやわらかいひよこ豆、うまみのあるラム肉だった。
調理中に見た油の量から、もっとこってりした味を想像していた。だが、意外とくどくない。店員に聞くと、この店では「flax oil」(亜麻仁油)を使っているとのことだった。
時折口に入るレーズンが、甘酸っぱくて口の中がさっぱりする。そして、また一口。
なるほど。これが、みんなの言っていたプロフか。
プロフは、米を肉や野菜、油、香辛料とともに炊き上げる、ウズベキスタンを代表する料理だ。日本語でいえば「ピラフ」なのだろうが、巨大な丸鍋で大量に炊き上げられる光景は、私が思い描いていたピラフとはまるで違っていた。
ウズベキスタンのタシケントの位置=Googleマップより
私は10日に及ぶ出張で、タシケント、サマルカンドなど四つの都市を訪れたが、その間、ほぼ毎晩プロフを食べた。わかったのはプロフには、決まった一つの姿があるわけではない、ということだ。同じ名前でも、土地や店、家庭によって、見た目も味も少しずつ違っていた。
ある店に入ったときのことだ。壁一面に色とりどりの皿が飾られていた。店内の装飾だと思っていたが、プロフを注文すると、店員が壁をさしてこう言った。「そこから選んで」。
え、このお皿、飾りじゃないの!?
黄色いふちに赤い模様が描かれた、ひときわ派手な丸い皿が目にとまった。けっこう高い位置にあったが、「I want that plate!」(あの皿が欲しい!)と言って指さすと、店員は長い金属棒を伸ばし、壁に掛けられた皿をひょいっと外し、そのまま厨房に持っていった。
1分もたたないうちに、料理が出てきた。つい先ほどまで壁に掛かっていた皿に、湯気を立てるプロフがたっぷりと盛られている。
自分で選んだ皿で味わうプロフは、いつもより少し特別で、一段とおいしく感じられた。
日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の海外派遣員としてタシケントに駐在し、中央アジア地域研究を専門とする植田暁さん(42)によると、プロフは家庭で親しまれている一方、結婚式や葬儀など、人が集まる場でも振る舞われてきた。
地方やシチュエーションごとの作法に応じてプロフを共同で調理し、食すことはウズベキスタンの文化と密接に結びついており、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている。
なぜ、特別な日の料理になったのか。
植田さんは「中央アジア農業を研究してきた観点で推測すると」と前置きをしたうえで、米と肉の貴重さが背景にあると解説した。
現在のウズベキスタンにあたる地域では、古くから稲作が行われてきた。一方、米を育てるには十分な水が必要で、小麦などよりも価値の高い食材だったと考えられる。さらに肉や香辛料もぜいたく品だったため「それらをふんだんに使うプロフが、特別な日の料理になったのではないか」と見られるという。
冠婚葬祭では一つの皿から隣り合った人と分け合って食べる習慣もあるという。今ではスプーンを使う人が多いが、年配者の中には手で食べる人もいるそうだ。
地域差も大きい。具材や味つけ、使う野菜も土地によって異なるという。
土地による違いだけではない。外で食べるプロフと、家庭で作るプロフも違うという。
教えてくれたのは、出張の終盤に訪れた「青の都」サマルカンドの宿で出会った女性だ。ジュライェヴァ・フォティマさん(42)。かつてシルクロードを行き交う人々が集ったサマルカンドの「レギスタン広場」からわずか徒歩5分の場所にある家族経営のホテルで、調理を担う。
「男性はみんなプロフが好き。朝の6時や7時から食べる人もいるのよ」と笑う。
腹持ちがよく、エネルギーが出るからだという。
フォティマさんの家庭では、週に1~2度ほど作る。2、3種類の油を使い分け、黄色と赤のニンジンを、色と味のために混ぜる。「外で出されるプロフは油を多く使うけど、家では子どもも食べるため、油を控えます」
祝いの席を彩るごちそうであると同時に、日々の暮らしにも根づいた料理のようだ。
話を聞いているうちに、日本人にとってのカレーや炊き込みご飯に、どこか似ていると感じた。誰もが知る定番料理で、特別な日にも普段の食卓にも登場する。そして、家庭ごとに「わが家の味」がある。
土地や家庭によって姿を変えるのは、プロフだけではなかった。旅先の食卓で、プロフと同じくらい頻繁に目にした丸いパン「ノン」も、訪れる先々で違う表情を見せた。
レストランで料理を頼めば、決まってノンも一緒に出てきた。街を歩くと、焼き上がったノンをリヤカーの荷台のような台に山盛りにし、売っている人たちを何度も見かけた。
ウズベキスタンを旅していると、ノンが単なる料理の付け合わせではなく、日々の食事を支える主食なのだと実感する。
一見すると、どれもよく似た丸いパンだ。だが、よく見ると、表面には、無数の針で刺されたような模様があり、その形は場所によってまったく異なっていた。ふちの形や厚みにもそれぞれ特徴がある。まるで、その土地の個性が印となって刻まれているようだった。
違う町を訪れるたび、食卓に出てくるノンの「顔」も違っていて、見るだけでも楽しかった。
最後にもう一つ、北西部のカラカルパクスタンで食べた肉と麺の料理「ベシュバルマク」を紹介したい。この地では、アラル海の縮小による塩害を追い、かつて湖底だった砂漠を車で走り、現地でのキャンプで一夜を明かした。
カラカルパクスタン自治共和国のヌクスの位置=Googleマップより
英語では「ファイブ・フィンガーズ」と呼ぶらしい。「5本の指」で肉と麺をつかんで食べることに由来するという。
大皿には、羊や七面鳥の肉、馬肉のソーセージといった多様な肉類と、幅広の麺のような生地、ニンジンやジャガイモなどが盛りつけられていた。
見るからに食べ応えのありそうな料理だ。肉のうまみが凝縮されたスープに、肉や麺をつけて口に運ぶ。砂漠での取材を終えた体に、温かなスープがじんわりと染み渡った。
ウズベキスタンという一つの国の中に、多様な暮らしと文化が重なっていると感じた。