トランプ氏「私たちを買える」は侮辱的だ グリーンランド大臣が語る資源戦略
1. グリーンランドでは、氷河の砂や鉱物資源が新たな経済資源として注目されている
2. 資源開発は経済的自立への道だが、環境基準を守りながら長期的に進めようとしている
3. 中国やロシアへの差し迫った脅威は否定しつつ、北極圏の監視強化には前向きだ
4. 米国の「グリーンランド購入」発言は、主権や土地観を傷つけ、不信と怒りを生んだ
ーーグリーンランド経済にとって最も重要な資源は何ですか?
一つの鉱物だけを挙げることはできません。何が「重要」かは、それを必要とする国によって異なるからです。いまはグラファイト(黒鉛)やレアアースへの関心が高いです。しかし重要なのは、どこに鉱床があるのか、どれほどの規模で採掘が可能なのか、経済的に成り立つのか、といったことの見極めです。
調査には長い時間がかかります。現在のグリーンランドには稼働中の鉱山が一つしかなく、多くの企業がどんな鉱物がどれほどあり、どんな品質なのかを調べている段階なのです。そうしたデータがそろって初めて、「次に重要になる資源」が見えてきます。
ーー鉱業の課題や、輸出をめぐる国際的な競争力をどう見ていますか
もちろん(輸出は)簡単ではありません。しかし、不可能ではありません。グリーンランドには高速道路も鉄道もありません。多くの場合、まずは港を造り、道路を整備し、労働力も空輸しなければなりません。そうした準備はコストを押し上げます。
さらに、グリーンランドには高い環境基準があり、(輸出のために)その基準を下げるつもりはありません。10年前ならこうした条件は大きな障壁でしたが、この10年で状況は変わりました。新型コロナウイルスのパンデミックによって、各国はサプライチェーンの多様化の必要性を痛感しました。また、気候危機によって(化石燃料から再生可能エネルギーへの移行が進む中で、バッテリーやモーターを動かすために金属や鉱物が必要となり)鉱物需要も高まっています。
ウクライナでの戦争も含め、さまざまな危機が重なったことで、世界の企業がグリーンランドを見る目は変わりました。以前ほど「アクセスしにくい場所」だと思わなくなり、関心は確実に高まっています。
ーー「氷河の砂」は、従来の鉱物とは異なる新しい資源だとみていますか?
その通りです。
これは本当に素晴らしい「産出物」です。採掘する必要がなく、ただすくい取るだけでいい。地表に大きな環境負荷を残しませんし、栄養分が非常に豊富です。(粒子がかなり細かいため、地表にまくと栄養分が溶け出しやすく)やせた土壌の改善にも役立つ可能性があります。
(砂が)二酸化炭素と化学反応して結びつき、土壌中に固定されることで、二酸化炭素の排出を減らす効果も期待されています。さらに、実証研究では、やせた土壌にこの砂をまいた一部の区画で、作物の収穫量が増えた例も報告されています。非常に幅広い可能性を持った資源だと思います。
ーー事業化のカギは何だと思いますか
課題は、まだ誰も知らない産出物を市場に出すことの難しさです。だからこそ、多くの広報と発信が必要なのです。
まずは、この産出物について世界の人々に知ってもらわなければなりません。これは企業だけの責任ではありません。政府にも、その発信と普及を担う責任があります。
ただし、実際の採取や事業化は企業が担うべきで、政府が産出物そのものに投資するわけではありません。私たちは、ほかの鉱物と同じように、この資源の可能性を伝え、支える枠組みを整えていく立場です。
ーーこの資源開発は、グリーンランドの「国家プロジェクト」になっていくのでしょうか?
政府は特定の鉱物だけを推す、という考え方はしません。グリーンランドの資源は、グリーンランドの人々のものです。それを人々の利益のために、どう生かすかを考えています。公平な基準で支えていく必要があります。
ーー氷河の砂は、(デンマークの自治領である)グリーンランドの経済的自立に向けた「切り札」になり得ますか
私は、その一つの資源だけで状況が一変するとは思っていません。氷河の砂は気候危機への対応と深く関わる資源です。それが本当に世界で生かされるには、多くの国々が気候危機への対応としてこの資源に関心を持ち、実際の活用に向けて動き出す必要があります。私たちは、それを支え、発展させるためにできることをします。
グリーンランドの鉱物セクターそのものが長期戦略です。経済的自立は短期間に実現できるものではありません。10年、15年、20年という単位での取り組みになるでしょう。だからこそ急がず、しかし着実に育てていく必要があります。
ーー日本は、今後の協力相手になり得ますか?
もちろんです。日本とは利害が重なる部分があると思っています。私たちは鉱物部門を発展させたい。一方、日本は鉱物資源を輸入し、サプライチェーンを多様化させる必要がありますよね。
そこには一致点があります。鉱業のさまざまな段階で協力の可能性があるでしょうし、将来的にはエネルギー分野でもそうかもしれません。
ーー具体的な対話は進んでいますか?
すでにいくつかの日本企業とは、ごく初期段階の話し合いを始めています。日本は非常に丁寧に、基礎条件をよく見極めながらビジネスを進める国だという印象があります。今は双方で分析が進んでいる段階で、ここ数年のうちに前に進むことを期待しています。
ーー米国では「中国企業が近年、グリーンランドの鉱業に深く入り込んでいる」と指摘する声が上がっています。実態は?
私の知る限り、中国系の関与は二つだけです。しかも、どちらも稼働はしていません。
一つはヌーク・フィヨルドの鉄鉱石の案件ですが、環境保護に関する規則を守っていなかったため、我々は操業ライセンスを取り消し、いま法廷で争っています。
もう一つはグリーンランド南部で、産出物にウランを含むため採掘ライセンスを得られず、これも法廷で争っています。
つまり、中国投資の「成功例」と言えるようなものは今のところありません。把握している2件はいずれも古い案件で、最近の投資例ではありません。
ーーロシアや中国から安全保障上の脅威を実際に感じていますか?
現時点で、中国やロシアから差し迫った脅威があるとは見ていません。この点ではNATOの見解と一致しています。
もちろん、将来への備えや監視強化は必要ですし、私たちも北極圏の監視強化には賛成です。監視は軍事面だけでなく、地域住民の救難活動や気候変動に関する調査にも役立ちます。ただ、少なくとも現時点では、中国やロシアの艦船がいるから脅威になっているという理解ではありません。
ーートランプ大統領による「グリーンランド購入」発言は、両国の信頼関係にどのような影響をもたらしましたか?
(アメリカに対する)信頼は今、とても低くなっています。
最初に広がったのは、恐怖や不安でした。それらはその後、怒りに変わってきたと思います。「なぜ私たちに向けてそんな発言をするのか。私たちは同盟国であり、いつもあなた方を公正に扱ってきたのに」という感情です。
私たちは今も同盟国であり、対話を続けようとしています。でも、この発言によって、多くの不信が生まれました。街で人々に聞けば、いまの米国に対して非常に懐疑的だと感じるはずです。
ーー特に、どういう点が人々の感情を逆なでしたのでしょうか
イヌイットの考え方では、土地は誰かが所有するものではありません。土地はみんなのものです。だから「私たちを買える」という発想そのものが、非常に侮辱的なのです。
ーーアメリカとの間で、建設的な対話の余地はあるのでしょうか
私たちは、まず相手の懸念を聞き、理解したいと考えています。アメリカが何を心配しているのか。
そしてグリーンランドの自治権を守りながら、その懸念に応える方法がないかを探る。それが今の対話の基本姿勢です。私たちは、自分たちが米国の安全保障圏の一部にいることを理解しています。
実際、アメリカはすでに過去の条約に基づいて、グリーンランドに大きなアクセス権を持っています。その枠組みを見直すことには前向きです。ただし、越えてはならない一線があります。つまり、グリーンランドが自らの統治や意思決定の権限を手放すことはないと言うことです。