中国舞台のVIVANT2が現地で話題「シンシーはありえない」ツッコミ入れつつネット盛況
VIVANTは中国語ではそのまま「別班」と呼ばれている。中国の動画投稿サイト「bilibili(ビリビリ)」で検索すると、本作を解説した動画が50万回以上再生されていた。中国の日本ドラマ愛好家が独自に編集して作ったとみられる解説動画だ。現在放送中のシーズン2の関連動画も数万回以上再生されているものが複数ある。国境を越えてエンタメとして話題を集めていることがうかがえる。
そもそも中国ではどのような方法で見られているのだろうか。
中国ではインターネットへの接続が規制されているため、海外のサービスの一部はそのまま利用できない。さらに「TVer」などの日本の公式動画配信サービスは原則日本国内向けだ。中国からそれらを見るには、日本のサーバーを経由する「VPN(仮想プライベートネットワーク)」を使う必要がある。ただ、現地の人の多くは、bilibiliなどの動画投稿サイトに非公式にアップロードされた字幕付き動画を見ている。
広東省を拠点に法人向けITサービスを展開している実業家の日本人男性、小龍さん(49)は、VPNを駆使して「TVer」に接続し、毎週、リアルタイムで視聴している熱心なファンの一人だ。
中国と関わって約30年という、日中バイリンガルの彼が、シーズン2開始早々に「大ズッコケ」だと感じたのが、中国の裏組織「シンシー」の名前だ。
劇中では非公然の情報組織として描かれている。シンシーは中国語で「情報」を意味する「xin xi(信息)」から取っているとされる。「ウラの機関に『情報』という直球の言葉を使うなんてそのまんま過ぎ!」。アメリカのCIA(中央情報局)や、旧ソ連のKGB(国家保安委員会)のように、公的な組織ならともかく、ウラである以上、外部からはわからない隠語を使ってほしかった、という見方だ。
中国人役のしぐさに垣間見える「日本人ぽさ」が没入感をそいでいるという指摘も。
小龍さんが挙げたのは、警視庁公安部外事第4課のエース捜査官こと野崎守(阿部寛)に食事を与えないなどの虐待をする「シンシー」側の冷徹な看守たちが時々見せる、軽くうなずくようなしぐさだ。
実は、中国人には「うなずく」という所作はあまり見られない。肯定や同意を示すときは、「対(ドゥイ)」や「好(ハオ)」と声に出して伝えるのが一般的だ。
日本人俳優が話す中国語については「話せる人にとっては長いセリフは理解しづらい」と言う。「分からない人にとっては気にならないのでしょうが……」。グローバルに視聴される番組を目指すなら、主要な俳優陣は声のトーンを変えずにAIで吹き替えるなど「テクノロジーを活用した方が違和感なく本編の世界に入り込めると思います」というのが小龍さんの見方だ。
小龍さんの中国人の妻は、bilibiliで本作を視聴しているという。bilibiliは、日本で言う「ニコニコ動画」のように、視聴者が画面上に「弾幕」と呼ばれるコメントを書き込めるのが特徴だ。
妻は、bilibiliで話題になっているのを見かけて関心を持ち、いまは先の読めない展開自体を面白がっているという。作品中の中国語はネイティブでも聞き取りづらい部分があるため、中国語字幕を頼りにし、他の視聴者が書き込むツッコミコメントも、楽しんでいるそうだ。
浙江省のIT企業に勤務し、中国在住約8年となる駐在員の男性(35)も、中国人同僚と、VIVANTの最新話が配信されると話題にするという。「北京の街中」が出てきたシーズン2のワンシーンは「タイのチャイナタウンで撮影されたんじゃない?」「見るからに北京じゃないよね」といった調子だ。
さらに、中国人同僚からは「諜報活動をするなら公安ではなく国安(国家安全部)だろう」という指摘も。中国の「公安」は主に警察や治安行政を担う。一方で、対外情報や諜報活動を担う「国安」の方が実態に近い、という見方だ。
また、男性は作中の描写が、中国の「抗日ドラマ」を逆にしたように見えると話した。
「抗日ドラマ」とは、日中戦争や第2次世界大戦中の日本兵にあらがった中国人の姿を描いたプロパガンダコンテンツで、中国人俳優が日本兵を極端な姿に演じ、おかしな日本語を話す量産型の作品が「抗日神劇(トンデモ抗日ドラマ)」と呼ばれることもある。「『悪者としての中国の組織』があって、そこで日本人俳優が無理をして中国語をしゃべる構図が、まさに抗日ドラマの逆バージョンのようだ」と笑う。
「中国っぽい架空の国であればいいんですが、中国だといわれると、『警察系の組織の事務所はこんなんじゃないよな』とリアリティーの無さが気になってしまう」と男性。
確かに。
シーズン1に登場した「バルカ共和国」は架空の国だった。壮大なスケールと予測不能な展開に魅了され、初回から熱烈なファンになった筆者は、純粋なファンタジーとして没入できた。しかし、現実の「中華人民共和国」を舞台にした瞬間、細部のリアリティーがどうしても気になってしまう。
もっとも、中国を「悪者」として描くストーリーである以上、中国本土の俳優を起用したり、現地ロケを敢行したりすることは極めて難しいだろう。
逆に言えば、架空の国の物語ではなく、超大国・中国の話だからこそ、視聴者もここまで関心を持っているというのも事実だ。
現在、深圳に滞在し、中国のネット世論やニュース分析専門で知られるX(旧Twitter)の著名アカウント「黒色中国」氏にも話を聞いた。
VIVANTファンでもあるという黒色中国氏は、「そんなことあるかい、という完全フィクションな部分と、ひょっとするとあり得るかもしれない、と思わせる要素を入れてくる。荒唐無稽さと妙なリアリティーが同居しているところがVIVANTのおもしろさだと思う」と話す。
「日本の公安が中国本土で傭兵を雇い、北朝鮮の拠点を襲撃して二重スパイ(堺雅人)を救出する。近年の国際関係から見ればあり得ない、発覚すれば大問題になる設定です」
一方、中国人の傭兵が登場すること自体は、全くの絵空事とも言い切れないという。海外の紛争などで軍事経験を積んだ中国人は実際にいるためだ。
「制作側がそこまで考えて設定したかは分かりません。でも、ところどころ、妙に不気味なリアリティーもあるのです」
大枠は現実離れしているのに、細部には現実の影が差す。そのちぐはぐさも、この作品ならではの魅力なのかもしれない。
さらに驚いたのは、黒色中国氏によると、現地では「男性キャラクター同士の関係性を楽しむ『BL(ボーイズラブ)』が盛り上がっている」という。
中国では、BL(中国語では「耽美」)コンテンツが根強い人気を誇る一方で、近年は当局による検閲や規制の対象となっており、国内ドラマではあからさまな描写はしにくい。
抑圧の中で海外エンタメに独自のBL的解釈を見いだしてネット上で熱狂する文化が育まれており、「今回はVIVANTがBLファンに深く刺さった」と見る。
言語の違和感や設定のリアリティーさなど、散々ツッコミを入れつつも、彼らは毎週の放送を楽しんでいる。小龍さんは「どんな内容であれ、日本と中国に関わる人たちが話題のきっかけにできるのはプラスだと思う」と話す。
日中関係が政治的に冷え込む中、ひとつのエンタメ作品が国境を越えて人々の話題になっているのは間違いない。細部には大いに突っ込んでもらいつつも、日中の視聴者がお互いを知ったり、議論したりするきっかけになったらいいと思う。