1. HOME
  2. World Now
  3. きらめくオーロラを追って 沖縄から火星へカメラを送り出し、撮影に挑む科学者

きらめくオーロラを追って 沖縄から火星へカメラを送り出し、撮影に挑む科学者

美ら島の国境なき科学者たち 更新日: 公開日:
片岡龍峰博士は、オーロラ観測のための高性能カメラの開発に取り組む宇宙天気の専門家。観測のために地球の果てまで足を運ぶ研究は、やがてその先、火星へと広がるかもしれない=片岡氏提供

他の惑星から写真を撮る挑戦

オーロラがきらめく幻想的な光景を目にしたことがある人は、日本にはどのくらいいるでしょうか。自然が生み出すこの光のショーは、世界中の写真家たちを魅了してきました。沖縄科学技術大学院大学(OIST)で働く、片岡龍峰博士は、そんなオーロラを研究するために、なんとカメラを火星に送り込み、これまでにないオーロラの写真を撮影しようとしています。

片岡龍峰博士とカメラ。片岡龍峰博士は、オーロラ観測に用いるカメラの小型化に取り組んでいる。宇宙天気を監視するためには、高いデータ収集能力を維持しながら、より軽量な電子機器が必要である=ジェフリー・プライン提供(OIST)

OISTで宇宙物理学の研究を率い、オーロラや宇宙天気の分野でその名を知られる専門家である片岡博士。そんな彼が、初めて自分の目でオーロラを見たのは、キャリアの中でも比較的遅い時期でした。「大学3年生の頃、何を研究するか迷っていたんです」と片岡博士は振り返ります。「それまでオーロラはテレビや写真でしか見たことがなかったのですが、いつか自分の目で見てみたいと思い、この分野を選びました」そしてついに、米アラスカで開かれていた学会に参加中に念願のオーロラを初めて目にします。そのとき博士は、「広大な宇宙を旅する惑星の上にいる小さな生き物のようだ」と感じ、自分の存在の小ささを強く実感したと言います。

それ以来20年以上にわたり、オーロラや宇宙天気の研究に取り組んできた片岡博士。その目的は、こうした現象の仕組みを解き明かし、航空や宇宙飛行の安全性向上につなげることにあります。

「宇宙天気の科学的な仕組みと、どんな現象がいつ起こりやすいのかを理解できれば、その予測に基づいて地球や宇宙の旅行計画を立てることができます」と片岡博士は説明します。「私にとって初期の研究プロジェクトの一つは、宇宙天気データに基づいて、さまざまな場所や高度における航空機の乗客の放射線リスクを予測するツールの開発でした。また、宇宙飛行士をより安全に守る方法にも関心を持っています」

オーロラの正体

オーロラは、太陽のような恒星から放出される高温の荷電粒子が高速の太陽風となって地球に到達したときに現れる現象です。これらの粒子は地球の磁場と相互に作用して大きな電流を生み出し、その電流は極域に集中します。そこで粒子が酸素や窒素などの大気と衝突し、ガスが励起されて光が放出されることで、あのように美しく輝くオーロラが生まれます。

南極光、蛇行するループ。 地球では、晴れた夜に美しいオーロラが見られる。では、火星ではどうだろうか。火星のオーロラを撮影しようとする科学者の挑戦を追う=NASA提供

オーロラの色は、大気中に存在する気体の種類によって変わります。地球では酸素原子による緑色の光が一般的で、高高度(約200 km前後)では赤く輝くこともあります。窒素分子は青や紫の光を生み出します。

「オーロラは太陽活動を視覚的に示す重要な指標です」と片岡博士は説明します。「太陽活動が活発になると、宇宙飛行士の被ばくリスクが高まるほか、衛星通信やGPS、電力網にも影響が及ぶ可能性があります。だからこそ、宇宙天気の研究を進め、太陽活動の予測精度を高めていくことが重要なのです」

片岡博士の研究チームは、さまざまな手法を用いて、こうした現象の研究と年代の特定を行っています。その一つが、オーロラの観測について記した800年前の藤原定家の日記を含む古典籍を読み解くことです。こうした歴史文献や炭素14分析を基に太陽活動の年代を特定することで、特定の現象の傾向や発生頻度を把握し、宇宙天気モデルの精度向上に役立てています。

火星のオーロラに挑む

その好奇心、そしてその挑戦は、地球にとどまりません。片岡博士が目指しているのは、火星のオーロラを撮影することです。地球からの距離は平均で約22500万キロ。どれほど熱心な写真家であっても、そう簡単に撮影できるものではありません。

かつては、火星にオーロラは存在しないと考えられていました。磁気圏(荷電粒子が惑星の磁場と相互に作用できる、惑星を取り巻く宇宙の領域)が弱いためです。しかし現在では、条件によっては3種類のオーロラが発生する可能性があるとされています。

NASAによる磁気圏のイメージ動画。白い筋状の荷電粒子が地球の磁気圏へ向かって飛来し、衝突によってその広がりや進む向きが変化していく様子が示されている=NASA提供

そこで片岡博士は、火星で発生するオーロラをカメラに収めて研究することでその現象についての理解を深めるとともに、宇宙天気の予測精度の向上につながる重要なデータを捉えることができると考えました。

片岡博士のチームは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の支援を受けた複数機関による大規模プロジェクトの一環で、将来の火星探査に向けて、宇宙で使用する特殊なイメージャー(観測用カメラ)などの環境センサーの設計と開発に取り組んでいます。まだ先のことのように思えるかもしれませんが、機器の設計からプログラミング、製作、そして徹底した試験に至るまで、その工程は決して容易ではありません。「チャンスは一度だけです」と片岡博士は言います。「カメラが壊れても、現地に行って修理することはできませんから」

火星での観測には、多くの技術的課題があります。カメラは小型・軽量・省電力でなければならないうえ、極めて低温な環境でも動作する必要があります。さらに、大気の組成の違いにより、地球のオーロラとは異なる光を検出することも求められます。

「火星の大気には二酸化炭素が多く含まれているため、青い光が観測されると予想しています」と片岡博士は説明します。二酸化炭素は地球の大気のわずか0.04%しか占めていませんが、これも青色の光を放出します。ただし、その波長や色合いは、窒素のものとわずかに異なります。

こうした光を捉えるため、特殊なフィルターを設計するとともに、これらの小型カメラが現地で判断するためのエッジAI処理ソフトウェアの開発も進めています。

市民科学が地球のオーロラ研究をどう変えるのか

もちろん、誰もがカメラを宇宙に送り出せるわけではありません。しかし、オーロラ研究に貢献する方法はあります。日本では、北海道がオーロラ観測に適した地域の一つです。夜空を撮影した写真を共有することで、市民科学者として研究に参加し、この美しい現象の解明に役立つことができます。

宇宙で利用するカメラには、軽量で省電力であることが求められる。写真は片岡龍峰博士が開発に携わったさまざまなカメラ。右下の硬貨の横にある小型の試作機は、将来的に火星探査での利用が期待されている=写真提供:ジェフリー・プライン氏(OIST)

片岡博士は長年にわたり、宇宙天気監視データをリアルタイムに分析し、オーロラが見られる可能性が高いときには、SNSで情報を発信してきました。

「私の予測を信じて行動してくれる人が増えてきました」と片岡博士は話します。「写真家の中には、私のSNSの投稿を見て、その日の東京から北海道への航空券をすぐに手配した人がいたほどです」

オンラインでオーロラの写真を共有する人が増えるにつれ、片岡博士はそこに膨大で有用なデータが蓄積されていることに気づきました。そこでX上で、2024年に「#オーロラシチズン」という日本語ハッシュタグを立ち上げたところ、多くの関心を集め、1000点以上のオーロラの写真が寄せられました。市民科学者から情報や写真を収集するためのオンラインフォームも用意しています。こうした一般の人々からの投稿を解析することで、片岡博士と共同研究者たちは、通常とは異なる発光高度やその他の重要なオーロラの特性について報告した複数の科学論文を発表してきました。こうした論文の謝辞には、写真を寄せてくれた数百名の市民科学者の名前が記載されています。

「オーロラの美しさを感じ、その科学的側面にも関心を持ってくださる方がこれほど多くいらっしゃることをうれしく思います」と片岡博士は語ります。「皆で力を合わせれば、大気圏と宇宙の仕組みについて、より深く理解できるはずです」

執筆: OISTシニアサイエンスライター、キャサリン ジェーン ホッジス(Catherine Jane Hodges