オーストラリアに熱視線 半導体の基板材料となる珪砂 資源地政学的にも大きな魅力
クイーンズランド州バンダバーグ。豪州北東部の港町で、鉱山から運ばれた白い砂が貯蔵施設に積み上がっていた。ベルトコンベヤーが岸壁へと砂を送り出し、その先には貨物船が停泊している。サンステート・サンズ社のトラックが集まっていた。
この砂は珪砂(けいしゃ)で、シリカ砂とも呼ばれる。太陽光パネルのカバーガラス、半導体の基板材料、建築用の板ガラスなどの基礎原料となり、エネルギー転換とデジタル化の両輪を支える。その調達先として、豪州に各国の視線が集まっている。
日本にとって豪州は珪砂の最大の調達先だ。かつては中国からの輸入も多かったが、2007年に中国が資源保護を理由に輸出を禁じたことで流れが変わった。以来、豪州への依存は一段と深まっている。
同社でセールスマネジャーを務めるマーク・グルババッチさん(57)は、日本向け輸出の「変化」を語った。
「かつて日本に年間約6万トンの砂を送っていたが、その大半は自動車エンジンの鋳物用だった。鋳物砂はエンジンブロックなど内燃機関の部品を鋳造する際の型に使われる。ところが電気自動車(EV)にはそもそもエンジンがない。EVの普及が進むにつれ、鋳物用の需要は目に見えて減っている」
内燃機関の退場が、砂の用途を塗り替えている。鋳物砂に代わって需要が増えているのが、太陽光パネルや高機能ガラス向けの高純度の珪砂だ。鉄分含有量が極めて少ないことが、不可欠になる。同じ「珪砂」でも、求められる品質がまるで違う。豪州の鉱山は今、この需要の構造転換のただ中にいる。
一方、中東の砂漠には無限に砂があるように見える。だがグルババッチさんは首を振る。「砂漠の砂はシリカ(二酸化ケイ素)の含有量が不十分だ」と話す。こうした特徴が「不向き」とされる。
では、なぜ豪州の砂は世界が欲しがるほど高品質なのか。鍵は、大自然が数千年かけて仕上げた「天然の精製」にある。
地表の植物が分解する過程で生じた酸が砂丘にしみこみ、不純物を洗い落としてきた。掘り出した段階で純度が極めて高い。
人工的な精製工程でも化学薬品は使わない。水中で砂粒同士を擦り合わせる摩擦洗浄、遠心力と比重の違いを利用するスパイラルセパレーター、強力な磁石による鉄分の吸着・除去。河床を掘るような大規模な環境破壊を伴わない点も、豪州産が選ばれる理由になっている。
需要の伸びを牽引(けんいん)するのは太陽光発電だ。パネルのカバーガラスには鉄分が極めて少ない珪砂が必要で、豪州ではこの珪砂が国の「クリティカル・ミネラル(重要鉱物)」に指定され、国家的な後押しを受けている。
新規参入のダイアトリーム・リソーシズ社のCEOニール・マッキンタイアさんは言う。「中東諸国が野心的な太陽光発電計画を掲げているが、現地の赤や茶色の砂は不純物が多い。無理に精製すれば大量の化学物質が要り、コストが合わない。結局、豪州の砂が求められる」
だが砂の争奪は、需給の話にとどまらない。太陽光パネルの生産は80%以上を中国が握り、珪砂を製品に加工する工程の大半を独占する。豪州もまた原材料を掘って売るだけで、国内には半導体の基板材料に使われるシリコンロッドなどへの加工能力を持たないという構造的な弱点がある。
この偏りに対し、地政学的に信頼できる友好国間でサプライチェーンを組み直す「フレンド・ショアリング」が動き出している。米国がパックス・シリカ・イニシアチブを立ち上げ、欧州も追随する。日本からも商社が豪州に入り、鉱山権益の確保と加工拠点の整備に動いている。
国連大学水・環境・保健研究所プログラムリーダーのサリーム・アリさんは資源地政学の観点からこう指摘する。「中国は他国よりも長期的に資源戦略を考えてきた」と言うが、珪砂については「レアアースのような支配力があるわけではない」と話す。しかし今後の需要の変化で中国のスタンスなども含め状況は変わってくるだろう、とみる。
アリさんが提唱するのは「鉱物トラスト」という国際的な枠組みの創設だ。重要鉱物に産出国・消費国の双方が対等に参加する管理機構を設け、価格の乱高下や一国による囲い込みを防ぐ。
同時に、資源を持つ途上国が安く買いたたかれるのではなく、開発の利益を公正に得られるようにする。大国間の争奪戦に振り回されない、砂の国際秩序を築こうという構想だ。資源ナショナリズムの暴走を防ぎつつ、途上国が搾取されずに恩恵を受けられる仕組みが必要だと訴える。
資源国としての豪州の姿勢も問われる。採掘では地下水脈より深くは掘らないという原則があり、掘削後には植生を復元する義務が課される。掘って終わりにはしない、というのが現在の豪州の資源開発の建前だ。
砂の用途が移り変わるなか、地政学的秩序の変化がこの白い粒の行方に影響を与えている。