フランスの配信の王様ラッパーJUL 地元マルセイユの言葉を「日常のBGM」に
ヒップホップはいまや、音楽配信サービスの最前線にいる。音楽配信大手スポティファイの発表によると、2023年に同社のサービスで再生された回数の約4分の1を占めたという。
その「配信時代のヒップホップ」の姿として欧州で知られるのが、地中海沿いの港町マルセイユのラッパーJUL(ジュル)。フランスでは「ストリーミングの王様」と呼ばれている。
マルセイユ北部の公営住宅地で育った。10年代半ばから毎年アルバムを出し続けている。配信サービス、ディーザーの25年のまとめでは、6年連続で「フランスで最も再生された男性アーティスト」の座を保つ。
25年11月、パリ中心部レ・アルの「ラ・プラス」で開かれたトークイベントを取材した。市の文化施設でもあり、世界でも最初期につくられたヒップホップ専門文化センターとされる。その日のテーマの一つが「なぜJULの曲がフランス中で口ずさまれているのか」だった。
代表曲『Bande organisée(俺たち組織だ)』では、地名や仲間のあだ名が矢継ぎ早に出てくる。聴き手にとっては、友だちとの会話で使うような言葉で、恋愛や家族、借金や不安を語る。
登壇したフランスラップの専門家タリク・シャコールは、JULの曲について「曲がサッカー場のスタンドやカフェ、10代のスマホから同時に流れていることが大きい」と指摘する。
これまで「周縁」とされてきた郊外団地の経験が、パリのカフェでも地方都市のスタジアムでも共有される「日常のBGM」になって「フランスの普通の生活」の輪郭が変わったことがJULの人気の背景にあると説明した。
フランスの音楽市場では、いま売り上げの約3分の2をストリーミングが占め、アルバムチャート上位にはフランス語ラップが並ぶ。CDやラジオが入り口だった時代には、パリ発のメディアが音楽の流れを決めてきた。
マルセイユなまりの強いラップは、全国放送の選曲からこぼれ落ちやすかったかもしれない。だが、スマホで誰もが好きな曲を選ぶようになると、10代や20代が自分のプレイリストを作り、再生回数やスキップ率といった数字が、そのままチャートを動かし始める。
ラップはSNSの短い動画でも意味が伝わり、他の音楽ジャンルに比べてもネット上での拡散力が強い。スマホ時代の今の生活と親和性が高いとされる。