過激さと商業的成功と 壁のある街ベルファストで考える
英領北アイルランドの中心都市、ベルファスト出身で、今もここを拠点とするヒップホップトリオ「ニーキャップ」は2025年、世界に名が知れ渡った。
4月にあった米国の大型音楽イベント「コーチェラ・フェスティバル」。パレスチナ自治区ガザでの攻撃を続けていたイスラエルについて「くたばれ」と叫んだ。5月には、2024年のロンドン公演でイスラム教シーア派組織ヒズボラの旗を掲げたとして、メンバーが英当局からテロ罪で起訴される事態にまで発展した。
だが、イスラエル批判をやめず、「俺たちではなく、ジェノサイドこそがストーリー(記事になるべき話)だ」と訴えた。日本でも昨年8月、メンバー自らが出演した半自伝的映画が公開された。今月には東京公演もあった。
ニーキャップは2017年、アイルランド語学校で学んだ2人(モカラ、モウグリ・バップ)と、音楽教師だったDJプロヴィにより結成された。
過激さが度々問題視される。それが知名度を上げ、商業的な成功に結びついている。2019年にライブ会場で、DJプロヴィが「英国人は出ていけ」と書いたお尻を露出。2022年には、自分たちへの取り締まりを続ける警察の車両が燃えさかる壁画をバックに写真を撮り、議論を呼んだ。
2023年はロンドン公演で英保守党を罵倒して「地元議員を殺せ」と叫んだ。英国では2016年と2021年に実際に議員が殺害される事件が起きており、大きな批判が上がった。
ただ、「抑圧への抵抗」は彼らの主要なテーマであり、現代のベルファストにとっては歴史の帰結の一つとも言える。
ベルファストは約30年続いた北アイルランド紛争を経て、1998年に和平合意が結ばれた舞台だ。四半世紀以上が経っても街には壁がそびえ立つ。
最も象徴的な「平和の壁」の高さは約14メートル。それが600メートルほど続く。北には英国旗やチャールズ英国王の肖像、プロテスタントの教会。南にはアイルランドやパレスチナの旗が多く、道や店の名は英語とアイルランド語で記され、カトリックの教会がある。
壁沿いを歩き、考える。壁の南側で育ったニーキャップは、壁を壊したのか、さらに高くしたのか。
「そんなもん蹴り倒してやれと、彼らは言うでしょうね」。アイルランドの言語や文化の復興に尽力する団体「ゲール語連盟」のクロハー・オムディーさん(34)は話す。「橋を架けるとか、コミュニティーを結びつけるとか、それは彼らの責任ではない。彼らはただ、街やルーツを愛しているだけです」
彼らは曲のなかで「最低のクズ」と呼ばれていると自虐し、薬物やアルコールを賛美する。一方、荒れた地区(フッド)、労働者階級の出であることを前面に出す。紛争そのものよりも、等身大の若者の姿や実生活をうたう。この姿勢をオムディーは「真正性」「本物」と呼び、それが人気の背景にあるとみる。「若者の人生や多様性を、ラップを通じて反映している」
最大の特徴は、詞にアイルランド語を多く織り交ぜていることだ。「話されるアイルランド語の一つひとつが、アイルランドの自由のために放たれる弾丸だ」。映画にはそんなセリフも登場する。
アイルランドのメイヌース大で現代アイルランド語を教える教授のフィオンタン・デブルンさん(56)は、アイルランド語は北アイルランドで「抑圧されてきた」と説明し、ニーキャップの台頭は「私たちが紛争を乗り越えたことを意味する」とみる。「彼らはアイルランド語復興の結果であり、理由でもある。少数言語にとって重要なことは、可視化と日常化だ」
一方、ベルファストを拠点とするジャーナリスト、マラキ・オドハティさん(74)は「ニーキャップにはパラドックスが多くある」と言い、批判的な見方を示す。「無秩序感」や「無政府主義的な精神」を醸し出し、同時に、中東情勢やアイルランド統一といったテーマに真剣に向き合う姿勢を示す――。それが「不誠実」に映る。
そんなオドハティさんも「ニーキャップのエネルギーは好きだ」と評価する。ニーキャップはミュージシャンであり、最後には、曲の良しあしに回収されていく。「聴衆を駆り立てるのは反体制的な精神よりもエネルギーなのだろう。大きな政治的熱狂に貢献しているというより、聴衆は音を楽しむ」
批判も糧にして、ありあまるエネルギーを曲に変えていく。そこにはビートと声がある。