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GDP順位で日本を追い抜く 世界4位に浮上したカリフォルニア州の「光と影」

働くママのシリコンバレー通信 更新日: 公開日:
カリフォルニア州のGDP順位を表現したイラスト
イラスト:tanomakiko

私の住むカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、州の経済規模(名目州内総生産)が4兆1000億ドル(約585兆円)に達し、国別の国内総生産(GDP)で比較(ドル換算)すると日本を抜いて世界4位になったと発表しました。

名目GDPは為替レートによる影響があるので、「順位」の変動はあるでしょうが、州の成長率は6%超  。生活者レベルとしても、成長の勢いは住み始めた10年前から良くも悪くも実感しています。

「一つの国のような存在」

カリフォリニア州はアメリカの一地域ですが、日本よりも面積は若干広く、人口は4千万人。トランプ政権の方針と州知事の考えが異なり、分野によっては独自路線を採っていることもあり、「一つの国のような存在」と感じることもあります。

例えば、先日の 移民税関捜査局(ICE)による一斉取り締まりが発端で発生したロサンゼルスでの大規模デモをめぐり、カリフォルニア州は「トランプ大統領が州の同意なしに州兵派遣を命じたのは憲法違反」などとして、命令撤回を求める訴訟を起こしました。

また、カリフォルニア州はガソリン車の新車販売を2035年までに全面的に禁ずる環境規制を決定しましたが、これに対し、トランプ氏は撤回する決議案に署名しました。州側は反発し、トランプ氏側を提訴するという事態に発展しています。

カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事
カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事=2025年8月、ロサンゼルス、ロイター

巨大な経済圏を構築できた背景

カリフォルニアがその巨大な経済圏を構築できた背景には、いくつかの成長要因があります。大手IT企業が集積するシリコンバレーの発展により、優秀な人材が世界中から集まり、ベンチャーキャピタル(VC)による投資金が流入しています。スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレーなどもあり、有望な起業家を育む「エコシステム」が形成されていきました。

ただ、私は「この流れは未来永劫続くのだろうか」と思うことがありました。バブル崩壊を何度かリアルタイムで経験している妙齢のわたくしは、州の発展についてしばしば疑問を持ってきましたが、「ITバブル」をへて、今はAIブームによって勢いは続いているように感じます。

また、州南部にあるロサンゼルスにはハリウッドがあり、長年にわたってエンターテインメント産業が地域経済を支えてきました。この分野では、他の州に加え、ほかの国や地域とのインセンティブ競争が激化していますが、カリフォルニア州は税額控除行政手続きのシンプル化などの優遇策を打ち出し、今なおエンタメ業界における求心力を維持しています。 

これに加え、農業分野においてもカリフォルニアはアメリカの中で最も盛んな地域の一つとなっています。特にナッツや果物、野菜、乳製品、ワインなどは有名です。

産業と歩調を合わせた政府の役割

シリコンバレーでは自然発生的に起業家やIT大企業が誕生したわけではなく、政府側もテクノロジーに合わせて柔軟かつ迅速に法律などの社会制度を整えていきました。現在はサンフランシスコやシリコンバレーの一部で運行している無人の自動運転車「Waymo(ウェイモ)」もその一例と言えるでしょう。

自動運転の技術の進歩に合わせて、交通法を柔軟に対応させていく姿勢は、カリフォルニア州の発展を反映する一例のように思います。

Waymoとパートナーシップを組んだ中国の電気自動車(EV)メーカーであるZeekr(ジーカー)
Waymoとパートナーシップを組んだ中国の電気自動車(EV)メーカーであるZeekr(ジーカー)車もみかけるようになりました。以前は市内だけでしたが、郊外までエリアを拡大しています。先日初めてシティから25キロメートルほど離れたサンマテオ郡の郊外まで乗ってみました。まだフリーウェイは走らないので一般道路での利用となります=バーリンゲーム・カリフォルニア州、筆者撮影 

自民党の「アナログ信仰」をテーマにした朝日新聞の記事で、小泉進次郎氏が「ライドシェアをやるべきだ」と指摘したことに対し、あるベテラン議員が「ライドシェアとかいうのはよくわかんないけど、ダメだから」と述べたというエピソードが紹介されていました。

私も類似の経験があります。数年前、あるベテラン議員がサンフランシスコを訪問した際、商用化がスタートし、一般客が乗れるようになったばかりのロボタクシーを試してもらいました。私が「先生の選挙区でもどうですか?」と薦めると、その議員は「自動運転はダメ!」とぴしゃり。よくわからないからダメ、新しい技術だからダメ、怖いからダメと言われたら何も進みません。

カリフォルニアの場合、よくわからないからダメということはありません。例えばWaymoの場合、安全への取り組みや無人運転のテスト走行、人間のドライバーとの比較などに関する科学的データを提出させ、安全性を判断します。経済効果やモビリティの革新に対する期待も相まって、交通法がアップデートされていったのです。もちろんWaymoもまだ完璧ではないので、当局側との模索は続いています。

経済圏の拡大と恩恵の不均衡

経済圏が拡大する一方で、当然のことながら州民全員が豊かに幸せに暮らしているわけではなく、その恩恵を受けるのは成功者や高いスキルを持つごく一部の人たち。シリコンバレーでは、AI関連エンジニアの獲得競争が加熱する一方、それ以外のソフトウェア技術者のレイオフなどが問題となっています。雇用環境の変化を受けやすい側面もあると言えるでしょう。

高所得者が増えることによる弊害も生じています。シリコンバレーの中でもサンタクララ郡は驚異的で、単身世帯の「低所得」とされる基準は年収11万1,700ドル (約1,630万円/145円計算)。サンフランシスコやその他のエリアも11万ドル近く、子供が2人いる想定の4人家族の低所得基準も15万9,550ドル(約2300万円)に上ります。住宅を購入するハードルが年々上がっています。

シリコンバレーに住むほとんどの日本人が低所得層

日本からシリコンバレーにはたくさん企業の駐在員とその家族が住んでいます。日本ではそれなりによい大学を出て海外に派遣されるエリートであったとしても、30代、40代で2千万円以上の収入がある人は限定的なので、なんだかんだ赴任手当がついたとしても、当地では「貧乏人」ということになります。NPO勤務のシングルマザーのわたくしに関しては、当然のことながらこのカテゴリーにはいります。

普通に生きていくことはできても、お財布を気にすることなく外食を楽しみ(これがまたものすごく高いです)、物件を保有したり(小さくて古くても1億円を超えます)、海外旅行を毎年楽しんだり、子供たちを数千万円するアメリカの大学に奨学金なしで入学させたりすることは難しく、老後の経済的心配がないレベルには到底およびません。 

それでも筆者個人に関しては、子供も健康で、それほど贅沢できないものの、工夫しながら、心豊かに楽しく生活できているのはありがたいことです。サンフランシスコから北や南に車で2時間走らせると、貧困ラインの超低所得者層を対象とした食料費補助対策制度、いわゆる「フードスタンプ」を受給する人が多く暮らすエリアに入ります。格差の広がりをますます感じるようになりました。

闇の中の闇、フェンタニル

好景気が続いている一方で、カリフォルニア州の「闇」はいくつもあります。中でもここ数年の合成麻薬「フェンタニル」の問題は闇中の闇です。サンフランシスコやロサンゼルスだけの問題ではなく、過剰摂取による死亡者は7万人を超え、全米の危機でもあります。

フェンタニルをアメリカに不正輸出する中国組織が名古屋に拠点を作っていた疑惑を日経新聞が報じましたが、日本とは無関係と思っていたこともあり、胸にズキンとくるものがありました。サンフランシスコでも過剰摂取で「ゾンビ」状態になっている人たちが集まっているストリートがあります。もちろんサンフランシスコの街全体がゾンビタウンになっているわけではありません。ホームレスや中毒者が路上に集まっているのは特定のストリートやエリアに限定されています。

2025年1月に新しくサンフランシスコ市長に就任したリーバイ・ストラウス一族のダニエル・ルーリー氏も、フェンタニル危機への対応を最優先課題としています。

カリフォルニア州が世界第4位の経済規模にあるというニュースに触れ、カリフォルニア州やシリコンバレーの「光と影」を直視しつつも、依然として世界を惹きつける魅力があることは否定できません。

ですが、なんと言っても最高なのは、気候でしょうか。高い税金と家賃は天気代と思うこともあります。快適な気温の中、突き抜ける一面に広がる青空の下、ピクニックテーブルでランチを食べたり、何もかも輝いて見える街やハイキングトレイルを歩いたりしていると、何も悪いことが起こっていないような気持ちにすらなります。