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アメリカ大統領選はすでに始まっている 政権交代目指す民主党の有力候補たち

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次期大統領選の民主党有力候補たち
次期大統領選の民主党有力候補たち=朝日新聞社、ロイター

2028大統領選が早くも始まっている。実際には昨年11月の大統領選でドナルド・トランプがカマラ・ハリスを破って2期目を勝ち取った瞬間に始まったと言える。民主党の支持者はショックを瞬時に乗り越え、トランプからアメリカを取り戻すべく、「2028にハリス再度の立候補を!」と唱えた。(堂本かおる=ニューヨーク在住ライター)

2025年になると、バイデン政権で運輸省長官を務めたピート・ブティジェッジ(Pete Buttigieg)、現カリフォルニア州知事ギャビン・ニューサム (Gavin Newsom)の名が有望株として上がり始めた。2人とも立候補表明こそ行っていないものの、重要な州への訪問、ポッドキャストやSNSでのカジュアルな意見表明など、立候補を念頭に置いたアクションを見せている。

メディアは他にも多くの州知事や議員を立候補の可能性があるとして取り沙汰しており、その中で誰の支持率が高いか、民主党支持者への世論調査も始まっている。

直近のアメリカ正副大統領

この様相は前々回、2020大統領選を思わせる。今回と同じくトランプを追い落とすことを念願とし、民主党からなんと30人近い候補者が出てしのぎを削った。だが、今回は2020よりはるかに早い時期に大統領選の前哨戦が始まっている。

2020年の大統領選では民主党のおもだった候補者は2018年12月から2019年2月までの間に立候補を表明した。ブティジェッジ (当時は運輸省長官)、ハリス(同上院議員)、バーニー・サンダース(Bernie Sanders、上院議員)、エリザベス・ウォーレン(Elizabeth Warren、上院議員)、エイミー・クロブシャー(Amy Klobuchar、上院議員)などだ。

ジョー・バイデン(Joe Biden)はやや遅れて4月。その後、トランプの勢いを憂えたマイケル・ブルームバーグ(Michael Bloomberg、ブルームバーグ共同設立者、元ニューヨーク市長)が本選のちょうど1年前となる2019年11月に選挙戦に飛び込んだ。選挙資金を寄付に頼らず私費でまかなえるビリオネアならではの異例なタイミングだった。

明けて2020年になると、各州での予備選が始まった。2月3日のアイオワ州※)を皮切りに同月中に計4州、3月には15州で一斉に予備選が行われるスーパーチューズデイ。以後、8月まで各州での予備選が延々と続いた。

予備選の結果を受けて8月に民主党全国大会が開催され、大統領候補バイデン、副大統領候補ハリスが正式に指名された。

以後、共和党候補(トランプ/マイク・ペンス)との激しい選挙戦が本選11月3日まで続き、バイデン/ハリスが勝利を収めた。それをひっくり返そうとしたトランプ支持者が翌2021年1月6日に米国議事堂へ突入、死者まで出たが、バイデンの大統領就任式は1月20日に無事行われた。

続く2024大統領選は当初バイデンが続投するとしたため、民主党から他の候補者は出なかった。しかしバイデンの心身の衰弱を憂(うれ)う世論に負けた形でバイデンは立候補を取り下げ、副大統領だったハリスの立候補が7月に急遽決まった。つまりハリスは、通常1年半~2年近い選挙戦期間を想定して出馬する候補者たちと異なり、わずか100日余りの選挙戦期間しか持てなかったことになる。

ピート・ブティジェッジ

6月末に行われた「2028大統領候補として誰を支持するか」の世論調査ではブティジェッジ(16%)、ハリス(13%)、ニューサム(12%)がトップ3となっている。もっとも、大統領選の予備選開始までまだ2年半あり、最多は「まだ決めていない」の23%だった。

3人はそれぞれにユニークな経歴を持つ。

2020年大統領選に38歳で出馬したブティジェッジは、ハーバード大学、ローズ奨学金を得て英国オックスフォード大に留学という非常にアカデミックな経歴を持つ。卒業後は一流コンサルタント企業のマッキンゼー・アンド・カンパニーに務めるも辞職して故郷インディアナ州サウスベンド市の市長に立候補し、弱冠29歳で当選。米海軍予備役にも入隊しており、市長任期中にアフガニスタンに出兵。ブティジェッジという姓が発音しづらいこと、小都市の市長からいきなり大統領選に出たことから「ピート市長(Mayor Pete)」の愛称で呼ばれた。

フレンドリーな人柄で対話術にも長けているが、その発言は常に核心を突くことで知られる。共和党支持者との意見交換を求めて保守系メディアのフォックスニュースにも頻繁に出演。オープンリー・ゲイの同性婚者。教師で夫のチャスティン・ブティジェッジは、養子として迎えた男女の双子が父ピートの帰宅を待ちわびる物語を絵本『Papa's Coming Home』(パパが家に帰ってくる)として出版している。

ブティジェッジは現在公職に就いておらず、一時は現在の居住地ミシガン州の知事、もしくは同州選出の上院議員戦への立候補を検討。それらを断念したのは大統領選に向けてとされている。現在はポッドキャストやSNSを通じてメッセージを発している。

ブティジェッジには若くリベラルな支持者が多く、本人未公認の「PETE 28」(ピートを2028大統領に)と書かれたTシャツがすでに何種類も販売されている。

選挙集会で演説するブティジェッジ氏=2020年2月10日、ニューハンプシャー州ミルフォード、朝日新聞社

ギャビン・ニューサム

現カリフォルニア州知事のニューサムは現在、ICE(アメリカ合衆国移民・関税執行局)による同州での非正規移民拘束について、トランプと真っ向から対立している。

7月半ばに人気ポッドキャスト番組に出演したニューサムは、トランプを「クソ野郎(Son of a bitch)」と罵った。子供たちのサマーキャンプが行われていた公園に武装したICEと連邦警官計100人近くが装甲車とともに乗り込み、子供たちを恐れさせたからだ。

加えてトランプは以前よりニューサムを「ニュースカム(Newscum)」と呼び続けている。「スカム(scum)」 は本来、液体の浮きカスを指すが、「人間のクズ」といった意味合いの罵倒語でもある。ニューサムは今では自分の子供が友だちから「ニュースカム」と呼ばれていると言い、それも理由となってトランプを罵倒したのだった。

こうした経緯があるにせよ、ニューサムはその語彙からもわかるようにブティジェッジとは全く異なるキャラクターと背景を持つ。

ニューサムはディスレクシア(識字障害)であり、子供の時期から読み書きにハンデを抱え、成績も低かった。野球奨学金によって進んだ大学も負傷によりスポーツを諦めざるを得なくなっている。しかし専攻だった政治学に目覚め、成績も向上したという。

だが、卒業後は裕福な知人をスポンサーにワインショップを開店。以後、ワイナリー、レストラン、ブティックなど事業を大規模に展開し、成功を収める。

2003年に36歳でサンフランシスコ市長となり、カリフォルニア州副知事を経て知事となっている。幼児期に両親が離婚し、母親が3つの仕事をしながら自分と妹を育てたことから公共の福祉への強い思いがあることも語っている。

自身と同様にディスレクシアである少年との対話では、今も読み書きは困難であり、知事として演説する機会が多いもののプロンプターを読めないため、演説の準備に膨大な時間を費やし、かつ暗記するなど率直に語っている。

カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事
カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事=2025年8月、ロサンゼルス、ロイター

カマラ・ハリス

バイデン政権の副大統領であり、2024大統領選では続投を断念したバイデンに代わって民主党の大統領候補となり、しかしトランプに敗れたハリスに再度の出馬を望む声は高い。

だが、ニューサムが来年でカリフォルニア州知事の任期満了となるため、ハリスは2028大統領選ではなく2026州知事戦に出るのではともみられていた。

カリフォルニア州出身のハリスは副大統領となる前はサンフランシスコ地方検事から始まり、同州司法長官、同州選出の上院議員を歴任しており、実績と知名度は申し分ない。なお、副大統領も含めていずれの職も女性初、黒人もしくはアジア系初、またはその両方で初となっており、トレイルブレイザー(開拓者)でもある。

ところが7月30日、ハリスはカリフォルニア州知事選に出馬しないことを公式に発表。続いて、昨年の”近代米国史上最短の選挙戦”を綴った本『107 Days』を9月に出版すると告知した。

母親がインドからの移民だったカマラ・ハリス氏は史上初めて、アジア系としてアメリカ副大統領に就任した=ランハム裕子撮影

他の候補者と見做されている政治家たち

ブティジェッジは5月の時点でアイオワ州にてタウンホールミーティングを開催し、ニューサムは7月にサウスカロライナ州を訪れている。2028年よりアイオワ州に替わってサウスカロライナ州が予備選の第一弾開催州となるからだ。

他にも複数の「立候補の可能性がある政治家」たちが、初期に予備選が行われる州にすでに出向いており、いずれも大統領選を踏まえてのアクションと見做されている。

以下は現時点で立候補の可能性が高いとされている主な政治家たち。

  • ハリスの副大統領候補となったティム・ウォルズ(ミネソタ州知事)
  • ウォルズと副大統領候補の座を競ったジョシュ・シャピロ(ペンシルバニア州知事)
  • 豪胆さから「ビッグ・グレッチ」の愛称を持つグレッチェン・ウィトマー(ミシガン州知事)
  • 民主党きってのプログレッシヴ派、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(ニューヨーク州選出の下院議員)は次回の大統領選でようやく大統領資格の35歳を超える

他にもアンディ・ベシア(ケンタッキー州知事)、J.B.プリツカー(イリノイ州知事)、ロー・カンナ(下院議員/カリフォルニア州選出)、ウェス・ムーア(メリーランド州知事)など枚挙にいとまがない。さらに現在はニューヨーク市長選に出ているアンドリュー・クオモ(元ニューヨーク州知事)、ラーム・エマニュエル(元駐日大使)の名さえ挙がっている。

とはいえ、まずは2026年に中間選挙がある。今年11月に行われるニューヨーク市長選では民主社会主義者でイスラム教徒のゾーラン・マムダニが優位に立っており、トランプが大統領という立場を超えて介入を始めている。この件も含め、トランプと現政権は日々予想も付かない発言と政策でアメリカと世界を揺るがし続けており、候補者の決断はそれらを十分に勘案してからとなる。

政治に暴力が持ち込まれているのも大きな憂慮だ。以下は立候補が噂されている政治家になされた暴力行為。

  • 2020年 ミシガン州の転覆を図ったグループが同州知事ウィトマーの誘拐を目論み、13人が逮捕される。
  • 2021年1月 トランプ支持者らが米国議事堂に突入。議事堂内にいた下院議員オカシオ=コルテスは生命の危機を感じる。
  • 2025年4月 ペンシルバニア州知事シャピロの官邸が何者かに放火される。シャピロはユダヤ教徒であり、放火はユダヤ教の祭日パスオーヴァーの日に発生。
  • 2025年6月 ミネソタ州で州議会議員2人とそれぞれの配偶者が銃撃され、議員1名と夫が死亡。同州知事ウォルズの名前も暗殺リストに挙がる。

なお、トランプと取り巻きはトランプの大統領3期目を口にしているが、これは憲法で禁じられており、共和党からの立候補者として副大統領のJDヴァンス、国務長官マルコ・ルビオなどの名が挙がっている。ただし当人たちはアクションを起こしていない。

こうしたカオスにあって2028大統領選に実際に誰が出るか、何人が出るかは定かではない。しかし、これまでになく長く、混戦の選挙となることは間違いない。(敬称略)