1. HOME
  2. 特集
  3. SNSと分断 橋を架けるために
  4. 赤も青も……分断する米国で広がる草の根対話 違いを乗り越える「4つのポイント」

赤も青も……分断する米国で広がる草の根対話 違いを乗り越える「4つのポイント」

World Now 更新日: 公開日:
2024年の米大統領選では、Braver Angelsのメンバーらは赤(共和党のイメージカラー)と青(民主党のイメージカラー)の服をそれぞれ着て、ともに選挙参加を呼び掛けた=Braver Angels提供

分断を深めるアメリカ社会。その流れは2016年の大統領選で加速し、トランプ政権2期目のいまも止まる気配がない。一方で、こんな状況を乗り越えようとする草の根の動きも、静かに広がる。

4月下旬の週末、米国ミシガン州北部のトラバース市。エメラルドグリーンの湖畔をのぞむ人口1万5000人の町はいたって静かだった。町の住宅街の小高い丘の上にある教会では、ある集会が開かれていた。

「意見の違いを認め合うために」と名付けられたワークショップ。政治的に異なる問題意識や価値観をもつ人同士が対話を通じて理解を深める目的で、この日は約40人が集まった。

参加者らは、いくつかのテーブルに分かれて座った。「3姉妹の間でも、政治の意見が分かれて腹を割って話せなくなった。地域でも、仲間同士で話し合いができなくなっている。何とかしたい」。看護師のローラ・フォードさん(68)は車で1時間半かけてやってきたという。

ミシガン州で開かれたBraver Angelsのワークショップ。隣に座った人と、相手の立場を知らないままに、意見交換していた=藤崎麻里撮影

全米で5000以上のイベント開催

主催するのは非営利団体「より勇気ある天使たち(Braver Angels)」。2016年の大統領選直後に発足し、全米で会員は1万5000人以上に。5000以上のイベントに6万人あまりが参加してきた。

まず、進行役のテリー・カズンズさん(67)が、対話の四つのポイントを示した。

  1. 耳を傾けてよく聞く。
  2. 自分の見解を示す前に、相手の意見を聞いて「〇〇と考えられたのですね」と受け止めたことを伝える。
  3. 「私はこう考えるのですが……」と自分は異なる考えであることを示す。
  4. 一般論でなく、自分の考えであると示し、そう考えるに至った個人的な経験や根拠を語る。相手の考えと一致する点は伝え、相手にレッテルを貼らない。

この原則に基づき、政治的な立場を知らない隣の参加者と話し合っていく。

たとえば、の練習で、あるテーブルでは、「地域の犯罪問題が深刻だ。警察が取り締まりを強化すべきではないか」と話す人がいる場合、どう応じるか、案を出し合った。

ある女性が、自分は過度な警察の権力行使を懸念する立場だとして「ご心配はわかります。私の地域では警察にソーシャルワーカーも加わり、防犯活動をしました」と相手に共感を示しながら、別のやり方を提案してみたいと言うと、もう一人の進行役、ブレント・スウェンセンさん(56)が「自分の経験を伝えられていてよいですね」と評価した。

ミシガン州で開かれたBraver Angelsのワークショップ=藤崎麻里撮影

こんな地道な活動が広がる背景には、政治の分断が、身近なコミュニティーでも亀裂を広げている米国の実情がある。

参加者の一人、心理学者レベッカ・エルドレッジさん(48)は切実な表情で「家族や友人を見ても、カウンセリングに来る人を見ても、分断の影響が深刻化している」と言った。人間は、他人との会話で理解されないのではという恐怖が強いとき、人と距離をおいて孤独になり、健康にも影響が及ぶからだろうという。「自分ができることを学びたかった」

共通の関心事が人々をつなぐ

この集会は基礎的な内容で、ここからほかのワークショップにつなげる。たとえば、「レッド/ブルー」というワークショップでは、共和党(イメージカラーが赤)と民主党(イメージカラーが青)の支持者が隣り合って座り、互いの立場を知った上で一対一で会話をしていく。「子どものこと、教育やキャリア、よりよい暮らし、スポーツ、宗教、といった人生で大切なことは、共通の関心事なんだ。こうしたことを語り合い、人々をつないでいく」。運営ボランティアのマイク・ラトキーさん(75)が説明した。

後列左から教育行政経験のあるマイク・ラトキーさん、自らの子どもたちに「社会が変えられることを見せたい」と活動にかかわる専業主婦エリカ・マストロモナコさん。前列左のドナヒューさんは民主党員、右のスウェンセンさんはトランプ氏に一票を投じた共和党支持の牧師だが、息の合った司会役をともにつとめた=ミシガン州、藤崎麻里撮影

実は、これは、創設者の一人であるビル・ドハティー氏が約30年、離婚調停中の家族にセラピーをした経験で培った話し合いのスキルに基づくという。ラトキーさんは言う。「夫婦は離婚しても、子育てをどうするかといった共通の基盤は残る。同じように、対立しても、同じ部分に目を向けることが重要だ」

進行役のカズンズさんは民主党員、スウェンセンさんはトランプ氏に投票した共和党支持の牧師だが、息のあった姿を見せた。カズンズさんは言う。「私たちは、赤、青どちらの立場もいて一緒に活動する、ということを大事に考えている」

「トランプ政権100日」で討論会

Braver Angelsは5月初め、第2次トランプ政権100日を機にオンライン討論会を催した。全米から約300人が参加した。
討論会では、支持する立場を表明して話す。異なる立場の人が、なぜそう考えるか質問できる。直接やりとりするのではなく、議長役に質問を預けて進行するのが約束事だ。

Braver Angelsのオンライン討論会を前に、議長役のジェシーさんが、仲間らと準備をしていた=藤崎麻里撮影

トランプ氏支持の女性が「まだ100日だし、落ち着いて見守りたい」と話すと、ある男性が尋ねた。「トランプの関税政策は私たちの経済にどう影響するか」

女性は「外国との交渉材料にして経済をよくできるかもしれない」と答えた。

民主党支持の男性には、別の女性が移民について聞いた。「入国が正規か非正規かで、権利が異なるべきではないか」
男性は言った。「正規で入国した方がいいに決まっている。ただ亡命を求めている人には対応するべきだ。どんな入国の仕方でも、人権は保障されるべきだ」

論評せず、ただ、相手がそう考えるに至る理由を知ろうとする。

議長役は約30人いるBraver Angelsの職員の一人、ジェシー・マニストさん(42)。全米規模で開くオンライン討論の責任者だ。マニストさんはグーグルの研究員として情報量が人々に与える影響を調査した経験がある。そこで見たのは、SNSなどで同じような情報にばかり接して、ものの見方が狭くなる「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」の問題だった。解決をめざしたいと、この団体に加わった。

討論の責任者ジェシー・マニストさん=米メリーランド州、藤崎麻里撮影

トランプ政権の支持率が下がりだした時期で、討論では、共和党支持者の間でも、トランプ氏支持に迷いが生じ始めている人もいて、意見が割れだしていた。マニストさんは「共和党の支持者がもめていることを民主党支持者が面白がって見るという構図にならないように気を配った。正直に話すことに価値を置きましょう、と言って」。

希薄な人間関係も背景

こうした分極化の問題は、SNSだけの問題ではない、とも話した。「これまでは家族や教会など付き合わざるを得ない人間関係があったが、現代は人のつながりが薄くなっている。まずは再び、場づくりをしていきたい」

ペンシルベニア大のマシュー・レベンダスキ教授は、分断をやわらげるには、見解の異なる友人について考えたり、対面して話し合ったりすることが役立つ、といった論文を発表してきた。

米ペンシルベニア大学のマシュー・レヴェンダスキ教授=2025年3月10日、フィラデルフィア、小宮山亮磨撮影

人間には、自分が属していない集団は「(自分とは相いれない)似たタイプの人間の集まり」と考える癖があり、分断を過激化させる要因の一つだとレベンダスキ教授は指摘する。たとえば、民主党の支持者は、共和党員はトランプの集会のニュースに登場するような極端な人物ばかりのように思ってしまう。「でも実際には、ほとんどの共和党員はそうではない」

「私たちは、異なる意見を持つ人々は愚かで、真実を知らないと思いがちだ。でも、対話をすると、『そういう理由があったのか』と気づく。同意しないにしても、少し理解し、少し好きになる」