民主主義「初めの一歩」は生徒会 校長選びにも参加するドイツ、外部団体が支援

ベルリン市のクロイツベルグ地区にあるベルグマンキエツ・コミュニティースクール。学校がある通りには、トルコ、チベット、インド料理店が連なる移民街で、学校内の休み時間も、スカーフをかぶる女子生徒を含め、さまざまな文化的背景をもつ子どもたちが元気よく行き交っていた。
コミュニティースクールは、中学と中高一貫校の機能を併せ持つ学校で、日本の高校1年生に相当する10年生で卒業して働きだす生徒も、ギムナジウムのように、高校3年生に相当する12年生まで通って大学を目指す生徒も、ともに学ぶという。
5月7日朝8時半、学校内のホールに、男女30人以上が円になって座った。ジーンズにトレーナー姿だったり、ハイヒール履いたり、思い思いの格好をしている。各学年で生徒会を代表するメンバーたちだ。
本来は学校の授業時間だが、青少年教育のセミナー運営をおこなう外部団体「学習以上のもの(Mehr Als Lernen)」による企画「生徒が学校をデザインする」に参加するため、特別に集まった。
生徒たちが、学校で変えたい、実現したいと思っていることをメモにして書いていく。生徒たちの前におかれた掲示板には、メモ用紙がはられていった。
「生理の貧困の問題をなくしたい」
「(10年生で卒業する子もいるので10年生段階でも一度)卒業パーティーをやりたい」
「スマホ利用のルールを変えたい」
この日、ワークショップを担当していた団体のリン・クラマー氏によれば、ベルリン市は、生徒会の学生たちが特別に学校の授業を休んで、生徒会の合宿に行けるようにしており、このコミュニティー・スクールでも2024年秋に4日間の合宿があった。
今回のワークショップは、その約半年後、合宿のフォローアップという位置づけでもうけられている。
秋の合宿で、クラマー氏は生徒たち向けに「生徒会が行使できる権利」について説明するという。たとえば、ベルリン市では、生徒会の権限は大きく、学校の運営を決める会議では、生徒会も学生代表として入り、議決事項には、校長選出も含まれるという。「決議の場では、生徒の意見と教員の意見は同等に扱われることも話しています」と語った。
春のワークショップの場に、教員の姿はない。一般的に学校という組織は保守的だったり、トップダウン式になったりしがちといわれるが、団体がおこなうワークショップは、生徒たちが教員との上限関係を意識しなくてもいいように、教員は入らない形でおこなわれていた。
合宿とワークショップの間の半年間にも、要請に応じて、生徒会やそのメンバーを個別に支援する機会をつくることも可能だという。
この日のワークショップでは、テーマごとにグループにわかれ、生徒たちが議論をすすめた。
「生理の貧困」の解消であれば、トイレに生理用品を置く棚をつくるかどうか。パーティーなら、費用をどうまかなうか。具体的に考え、だれに声をかけ、どう実現できるかの道筋をたてていく。近くにいるスタッフたちがそれぞれ必要に応じて参加した。
「先生たちに十分に声を聴いてもらえない。どうしたらいいか」「提案しても、フィードバックがなかった」
生徒たちからこんな声がもれることもあった。スタッフはその声を受け止め、「担当の先生を替えてもらったら?」「先生に『どうなっていますか』『いつまでに教えてほしい』と尋ねてプレッシャーを与えることも必要」などとアドバイスした。
昼休みの後、それぞれのグループがどんな話し合いをしたかを報告しあって、この日のワークショップを終えた。
クラマー氏によれば、この生徒会のメンバーは、ワークショップから数週間後、市議会で議員に対して自分たちの活動を発表する場があるという。これも団体の取り組みの一環で、若者に政治を身近に感じてもらう狙いがある。
また、この場には、ほかの学校の生徒会も参加するので、互いの取り組みを知り、来期の自分たちの活動にも生かすことができる。
この日、生徒たちの前に立って話したスタッフの中に、かつてギムナジウム(中高一貫校)でこのワークショップを経験した人がいた。
ドイツで生まれ育ち、父親が日本人という武田ゆきのさん(19)だ。大学入学前の1年間だけ、インターン生として団体で働いている。
「私には思いや考えがあって、声をあげれば、何かを動かせる。民主主義の本質はそこにあるんだと思うんです」
だから、声をあげる生徒たちを支援する団体に賛同し、支援側に回った。「参加することで、何かを変えられるという経験を子どものうちからしていくことが大事だと思います」
クラマー氏は「学校で意見を受け止めてもらえない、聞いてもらえなかったとなれば、将来大人になったときに政治そのもの、民主主義にもあきらめが生じてしまう。まずは声を聴いて受け止める。時間はかかるけれども、そこができるようになるよう学校の外から支援したい」と話した。
ドイツの政治教育をめぐっては、移民排斥を掲げる右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の台頭など最近、新たな課題が浮上し、議論は山積みになっている。
政治教育が専門のハンブルグ大学のティルマン・グラメス教授は「長年、政治教育を研究してきた立場からすると、こうした『危機』は初めてではない。でも何よりもまずは、学校生活のなかで、生きた民主主義を実践することが重要だ」と強調した。