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アメリカ大統領選の投票行動つかめぬZ世代 ハリス、トランプ両陣営も取り込みに躍起

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写真はイメージです=gettyimages
写真はイメージです=gettyimages

ハリス、トランプ陣営が取り込み狙うZ世代の16%

各世代の名称と生まれ年=米ピュー・リサーチ・センター公式サイトより(年齢幅は2019年当時)
各世代の名称と生まれ年=米ピュー・リサーチ・センター公式サイトより(年齢幅は2019年当時)

NBCニュースは9月4日に「世論調査:Z世代有権者の半数がハリス支持、3分の1がトランプ支持」と題した記事を出している。この調査では「他の候補者」と「棄権」を合わせると16%となり、このデータに基づけば、両陣営ともこの16%の層からどれだけ取り込めるかが鍵となる。

アメリカの公共放送PBSなどの番組を制作しているボストンの放送局GBHは、9月10日に行われた大統領選テレビ討論会の翌日に「若い有権者、カマラ・ハリスは討論に勝ったが、より進歩的な政策を望むと回答」と報じた

「進歩的な政策」とは、移民政策と気候変動を含んでいる。南部メキシコ国境からの不法移民の抑制についてハリス副大統領は大統領選立候補後にトーンを強めており、ペンシルベニア州での「水圧破砕」(フラッキングと呼ばれる天然ガスの採取法。自然破壊を招くことから以前より強い反対の声がある)も、立候補後に「反対しない」と意見を変えている。

メキシコ北部からアメリカ南部テキサス州へ国境を越えようとする数百人の移民たち
メキシコ北部からアメリカ南部テキサス州へ国境を越えようとする数百人の移民たち=2024年3月、ロイター

さらにアメリカのイスラエル支援問題がある。

ガザ地区、および周辺国を過剰に攻撃し続けるイスラエルへの支援を現バイデン政権が止めず、ハリス副大統領もイスラエル支援を明言している。同様にトランプもイスラエル支持であることから、どちらにも投票せず、あえての棄権を宣言している有権者が少なからずいる。ガザ支援やイスラエル非難のデモが続く中、この層はハリスにせよ、トランプにせよ、イスラエル支援の撤回を公約としない限り取り込むことは不可能だ。

Z世代はデジタル・ネイティブ 各陣営のあの手この手のSNS戦略

Z世代(1997~2012生、12~29歳)の大きな特徴として知られるのは、「完全デジタル世代」「コロナ禍によるリモート・スタディー世代」「学校での銃乱射世代」、加えて「経済的な不安を抱える世代」であることだ。

Z世代に一つ先駆けた「ミレニアル世代(1981~1996生、28~43歳)」がSNSを創り上げ、Z世代の多くは小中学生時代にスマートフォンを手に入れ、SNSとともに育った。

そのSNSも旧世代のようにフェイスブックやツイッター(現X)ではなく、Z世代はインスタグラム、TikTokと短い動画が主流だ。TikTokにはニュース・インフルエンサーもおり、若者は大統領選の情報もTikTokから得ている。

他にもYouTube、スナップチャットなどメッセージ・アプリ、チャットルームのディスコードなどを含め、いくつものSNSを頻繁に切り替え、それぞれごく短時間の閲覧から自分に有用な情報を吸収している。

これが理由で、ハリス陣営もトランプ陣営もTikTokを若者へのアピールとして使っている。

選挙集会で演説するカマラ・ハリス副大統領
選挙集会で演説するカマラ・ハリス副大統領=2024年10月16日、ペンシルベニア州、ロイター

ハリス(フォロワー数600万)は、米CBSテレビの硬派の報道番組「60ミニッツ」のインタビューで政策を語るシーンだけでなく、カジュアルな深夜トーク番組に出演し、缶ビールをすすって視聴者を笑わせたシーン、巨大ハリケーンによって甚大な被害を受けたノースカロライナ州を視察するシーン、大学や高校を訪れて若者と語り合ったり、「I love Kamala!」と駆け寄る幼い女の子をハグしたりするシーンなど硬軟取り混ぜた動画をポストしている。

ハリスは今年10月で60歳(1964生)を迎え、「団塊世代(1946〜1964生)」の最後年の生まれだが若々しく、文化的には次のX世代(1965~1980生)だとされている。

一方、トランプ(フォロワー数1180万)はTikTokでは男性にアピールする"男性性"を押し出している。

自身の選挙集会の会場を威勢のいい音楽をBGMに歩く姿も目立つ。会場の売店からの スナックの箱を支持者に向け、放り投げている。被災者へのボランティア事務所で支援グッズを詰める作業を手伝うハリスと対照的な絵柄だ。

ただし、トランプは78歳(1946生)と、ギリギリで戦中派の「サイレント世代(1928〜1945生)」から外れているものの、「団塊世代(1946~1964生)」初年の生まれだ。TikTokにおけるZ世代との直接対話は若手のトランプ支持者が担っている。

現在30歳(1993生)、ミレニアル世代であるチャーリー・カークは生え抜きの保守活動家だ。18歳で若者向けの保守団体「ターニング・ポイントUSA」を共同設立し、以後、自身の保守派ラジオ番組やポッドキャストで人気を博している。

共和党副大統領候補のヴァンス上院議員の集会に登壇した保守活動化のチャーリー・カーク氏
共和党副大統領候補のヴァンス上院議員の集会に登壇した保守活動化のチャーリー・カーク氏=2024年9月4日、ロイター

カークはTikTok(フォロワー数340万)で、Z世代のラティーノ青年からの質問「トランプの国境政策は外国人嫌悪なのに(人種民族マイノリティーである自分が)トランプに投票する理由とは?」に答えるものがある。カークは「ホームレスが君の大学の寮に押し入ったらどうする?」「つまみ出すだろう?」「アメリカ人として、我々の国に押し入ってきた者(不法移民)は追い返さねばならない」と畳み掛け、青年から「トランプに投票する」を引き出すことに成功している。

トランプを強力に支援する起業家イーロン・マスク

投票日が迫る中、両候補ともに若者にアピールするために、若いセレブによる支援がのどから手が出るほどに必要としている。

トランプがJDヴァンスを副大統領候補としたのはヴァンスの生い立ち、それによる白人労働者層へのアピールが理由だが、ヴァンスが現在40歳(1984年生)のミレニアル世代であることも理由の一つだった。しかし、高齢のトランプと若い有権者の橋渡し役を担うはずだったヴァンスは失言を続け、SNSにヴァンスをからかうミームがあふれた。

中でも最大の失言は、ハリスに向けた「キャットレディー」だった。キャットレディーとは、いわゆる適齢期を過ぎても結婚せず、実子を持たない女性を「飼い猫を異様に可愛がり、社会と隔絶した孤独な変わり者」といったニュアンスで揶揄する言葉だ(ハリスは結婚しており、継娘、継息子がいる)。

ヴァンスの失言とAIによるフェイク画像が、Z世代にも絶大な人気を持つスーパースター、テイラー・スウィフト(34歳、1989年生、ミレニアル世代)の「ハリス支持」発信を引き出してしまった。

9月10日、スウィフトは愛猫を抱いた写真とハリス支持のメッセージをインスタグラム(フォロワー数2億8300万)に投稿し、文末に「子ナシのキャットレディー」と署名した。

スウィフトはメッセージの中で、自身がトランプ支持者として描かれたAI画像がトランプのSNSサイトに投稿されたこと、およびフェイク拡散の危険性についても触れている。この投稿はわずか18分で120万件の「いいね」を獲得。加えて、アメリカは有権者自身が有権者登録を行ってから投票する仕組みとなっており、スウィフトがメッセージとともに掲載した有権者登録サイトには24時間で約34万人が訪れた。

役目を果たせなくなったヴァンスと入れ替わりにトランプのチアリーダー役として現れたのがイーロン・マスクだ。

テスラの共同創業者兼CEOのイーロン・マスク氏
テスラの共同創業者兼CEOのイーロン・マスク氏=2024年4月、アメリカ・カリフォルニア州、Image Press Agency via Reuters Connect

マスクは53歳(1971年生)、ミレニアル世代の一つ上の「X世代(1965〜1980生)」だが、テスラ、スペースXといったテクノロジー企業CEOとして時代を先取りする人物であり、ツイッターを買収して「X」としたことも若者は覚えている。マスクは公式にトランプ支持を表明する以前の8月に、Xにてトランプとの2時間にわたる「ライブ会話」を行い、何十万人ものXユーザーが参加した。

そのマスクが10月5日にトランプの選挙集会に初めて登場した。場所は激戦区ペンシルベニア州の、7月にトランプが耳を狙撃された同じ会場だった。

トランプに紹介されたマスクは黒いMAGA帽(MAGA=トランプの選挙スローガン、"Make America Great Again"の頭文字を取った造語)をかぶってステージに躍り出て両手を上げて高く跳び上がり、「私は単なるMAGAではなく、ダークMAGAなのだ」とささやいた。

マスクはそもそも奇矯な言動で知られるが、このジャンプのシーンはミームとなり、コラージュ加工されたバージョンも出回った。

ドナルド・トランプ氏(左)が今年7月に銃撃された同じ選挙集会会場に登壇し、両手を上げてジャンプするテスラCEOでXオーナーのイーロン・マスク氏(中央)
ドナルド・トランプ氏(左)が今年7月に銃撃された同じ選挙集会会場に登壇し、両手を上げてジャンプするテスラCEOでXオーナーのイーロン・マスク氏(中央)=2024年10月5日、ペンシルベニア州バトラー、ロイター

なお、マスクは単なるトランプ支持者ではなく、トランプの選挙活動に多額の寄付金を出しており、トランプは当選すればマスクを政府効率化委員会のリーダーに起用すると発言している。

オバマ時代に育ったZ世代 候補者の人種を旧世代ほど気にしない

アメリカの政治にとって人種は常に大きな課題であり続けた。

かつて黒人は差別撤廃の法律制定を目指し、苦難の末、1963年に公民権法の制定にこぎ着けた。次いで、その法律が順守される環境を整え、かつマイノリティーの躍進のためにマイノリティー政治家の擁立に努力し、2009年に米国史上初の黒人大統領バラク・オバマが誕生した。

2013年1月11日、ホワイトハウスで行われた、アフガニスタンのカルザイ大統領(当時)との共同記者会見で記者からの質問に答えるオバマ大統領=ランハム裕子氏撮影
2013年1月11日、ホワイトハウスで行われた、アフガニスタンのカルザイ大統領(当時)との共同記者会見で記者からの質問に答えるオバマ大統領=ランハム裕子氏撮影

一方、人種マジョリティーの保守派は、それによって自身の優位性や既得権が損なわれることを極度に恐れた。かつてトランプが「オバマはケニア生まれで大統領の資格がない、出生証明証を見せろ」と言い続けたのがその現れだ。

しかしオバマは2期8年、2009年から2017年にかけて大統領を務めた。つまりZ世代は民主党支持者であれ、共和党支持者であれ、物心ついて初めて認識した大統領が黒人だった。これは旧世代の多くが気付いていなかった事象だが、若い世代が持つ大統領のイメージを大きく変えている。Z世代がカマラ・ハリスの人種民族(インド系とジャマイカ系黒人のミックス)をさほど意に介していない理由だ。

しかし、旧世代であるトランプは8月に行われた黒人ジャーナリスト協会でのインタビューで「カマラをインド系だと思っていた、黒人とは知らなかった」、ハリスが政治目的で「黒人に変わった」と発言している。こうした人種偏見は保守派の高齢層には響くかもしれないが、Z世代の多くには効果がなく、わけても人種ミックスの有権者に非常にネガティブな思いを抱かせた。

Z世代が抱える経済や将来への不安 ライフステージは様々

Z世代についてはメディアによる選挙の動向だけでなく、多くのマーケティング企業もリサーチをしている。若者は常に流行を生み出し、消費傾向を決定付ける層であるからだ。しかしリサーチの結果を読み解くのはなかなか難しい。

Z世代は人口3億3000万人のアメリカで6900万人と全人口の約20%を占めるが、多様なグループと言える。全米の人種比率は年々多様化しており、Z世代は白人とマイノリティーがおよそ半々となっている。マイノリティーの中ではその半数がラティーノだ。

一方、多様化と相反する現象として、アメリカは世代に関係なく、州や地域によってライフスタイルが大きく異なる。さらにどの州であっても「都市部」「郊外」「田舎」のどこに住むかによって政治志向、支持政党も強く影響されることから、この部分についてはZ世代といえども投票傾向は比較的、推測しやすいようにも思える。

写真はイメージです=gerttyimages
写真はイメージです=gerttyimages

ただし、Z世代の構成年齢は12〜29歳であり、中高校生、大学生、社会人を含んでいる。この3グループの精神的な成熟度、社会への関心度、経済活動の度合いはかなり異なる。さらに多数は独身のはずだが、出産して子育て期に入っている層もあり、ここでも経済に求めるものに違いがあると思われる。

多くの調査でZ世代は現在のアメリカ経済、および自身の将来に不安を抱いているとされている。この傾向は一つ上のミレニアル世代から始まっており、自分の世代が両親の世代より豊かになるとは思えないと語っている。

シカゴ大学の最新の調査によると、Z世代のうち成人である18~29歳が「アメリカが直面している問題」として、経済成長、所得格差、貧困を他の世代よりも憂えている(経済成長に関してはミレニアル世代がさらなる不安を抱えているが)。

冒頭に挙げた他社のリサーチにある「進歩的な政策」にあたる銃規制、環境・気候変動、中絶問題、ガザ問題については他の世代よりも憂えているとする人数が少ないか、もしくは他の世代と同様に低い関心を示している。

指摘されるZ世代のメンタルヘルス問題

Z世代の大きな特徴として、成長期の極めて特有な社会事象の体験がある。連発した学校での銃乱射事件と、コロナ禍による長期のリモート・スタディーだ。

学校での乱射事件については2012年にコネティカット州のサンディーフック小学校で20歳の男に26人が殺害され、うち20人が6、7歳の児童であったことから全米に大きな衝撃を与えた。

以後、学校での乱射事件はほぼ毎年起こり、2018年にはフロリダ州パークランドのマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校にて生徒ら17人が殺害される事件が起きている。同校の生徒でこの事件のサバイバーであるZ世代のデヴィッド・ホグ(2000年生、24歳)は銃規制活動家となり、現在も活動を続け、メディアにも登場している。

2020、2021年にかけてはコロナ禍で学校閉鎖となったために乱射事件も激減したが、2022年にはテキサス州ユバルディのロブ小学校で子ども19人を含む21人が射殺される事件が起きている。

銃撃事件があった当日の米テキサス州ユバルディの小学校前。夜になっても多くの捜査関係者が立っていた=2022年5月24日、朝日新聞社

アメリカのZ世代は小中高校時代に火災訓練ならぬ、乱射避難訓練を受けている。警報が鳴ると生徒は教室の照明を消し、ドアの鍵を閉め、机の下などに隠れ、警報解除を待つ。皮肉なことに2021年1月6日にトランプ支持者が米国連邦議会議事堂を襲撃した際、議事堂で働いていたZ世代は乱射訓練で学んだ手はずにより、難を逃れたという。

コロナ禍については、2020年3月あたりから全米各州で次々と学校が閉鎖され、中には1年半から2年近く自宅でのリモート・スタディーとなった生徒もいる。この間、子供たちは勉強だけでなく、人格形成の場でもある学校から切り離され、家庭によっては親を含む親族の感染、入院、死亡、または失業、貧困化、さらには後日のホームレス化も体験している。中には自室に閉じこもってSNSにはまり、そこで感化されて自らが乱射犯となった10代もいた。

成長期のこうした体験から、Z世代の多くが内省的、さらにはメンタルヘルス問題を抱えているとされ、最近になってようやくその問題が報じられ始めている。

それでもZ世代は将来を考え、政治に参加し、大統領選に投票する。その結果は、開票まで誰にも予測できないにしても。