「家族支えるため」ケニアの茶畑で働く子どもたち 植民地時代から続く構図

雨露にぬれた茶葉が、赤道直下の朝日を受けて鮮やかに光る。ケニア西部ケリチョの標高2000メートルを超える高原地帯に、茶畑が広がっている。
週末の午前8時、子どもたちが母親らと一緒に茶畑に入っていく。茶葉を両手に握る少年(13)は「本当は勉強したい」と明かした。世界第3位の生産量は児童労働に支えられている。
ケニアでは、児童労働が禁じられている。だが、都市部から地方まで多くの子どもが働かされている。国の統計によると、2020年時点で子どもの8.5%にあたる約130万人。もっと多いという指摘もある。
児童労働が多い分野の一つが、主要産業の農業だ。英国の植民地時代に茶のプランテーションがつくられた。それから、約1世紀にわたり子どもが働いている。茶畑のオーナーは現在、国際企業から地元の地主まで大小さまざまだ。
子どもたちは、10歳前後で畑に出始める。とくに学校がない週末や長期休みでは、働くのが「日常」だ。繁忙期には、学校を休んで働くことも珍しくない。
働く子どもたちの服は、すり切れている。大人にはエプロンのような作業着が支給され、体を守ることができる。子どもたちには支給されず、茶畑を縫って動くなかで手や足が傷だらけになる。
児童労働が根強く残る背景には、労使双方の事情がある。
茶園側は、子どもの労働力に頼ることを前提にしている。とくに人力で茶を摘む小規模な茶園では、大人1人よりも子どもが2、3人いれば、収穫量は2、3倍になる。
送り出す側の家庭は貧しい。子どもが1日で稼ぐのは70~90ケニアシリング(約80~100円)で、1人あたりの1日の食費程度になる。茶畑にいた少年は「家族を支えるためには、稼がないといけない」、シングルマザー家庭の少女(12)は「自分の学費や制服代のために働かないといけない」とこぼした。
新たな変化も起きている。過去10年で飛躍的に進んだ機械の導入だ。
ケニアの茶産業に詳しいナイロビ大の博士研究員、チェプケモイ・ジャネットさんは「機械化は二つの影響をもたらしている」と指摘する。「一つは、生産性が向上し子どもが働かなくてよくなること。もう一つは、多くの子どもが『失業』して貧しくなってしまうことだ」という。
茶園の労働力の需要が減っても、働いていた子どものいる家庭は、別に収入を得なければ暮らしていけない。「失業」した子どもたちは、鉄くずを集めたり、ゴミ処理場で働いたりという危険な仕事や、スリ、窃盗などの犯罪に手を染めるリスクが高まるという。
ジャネットさんは「たとえば、家畜の導入を支援し、繁殖させるなど、子どもが働かなくても継続的に稼げる仕組みを定着させる支援が大事だ」と説明する。
親が茶園での長時間労働を強いられることで、女子を中心に家事や子どもの世話などの労働を求められることも多い。ジャネットさんは「女子が幼いころから家事労働を担わされ、児童婚をさせられる事例は頻繁に起きている。ジェンダー的な観点から、家の中の労働にも目を向けることが重要だ」と主張する。
国際労働機関(ILO)とユニセフの報告書によると、2020年時点でアフリカでは約9200万人の子どもが働いている。茶やコーヒー、カカオなどの農場だけでなく、金やコバルトなどの鉱山でも働いている。紛争地で子ども兵として戦場に送られることもある。
こうした農産品や鉱物の一大消費地である日本も無縁とは言えない。オーストラリアの国際人権団体「ウォーク・フリー」によると、日本は主要国の中で米国に次いで2番目に児童労働を含む労働搾取の危険性がある商品を購入しているという。
最も児童労働のリスクが懸念されている商品の一つがコンゴ民主共和国で採掘されるコバルトだ。電池の材料で、電気自動車やスマホにも欠かせず、コンゴ民主で世界シェアの半分以上を占める。
採掘現場で働く子どもの数は不明だが、ILOが2024年に実施した児童労働撲滅に向けたプロジェクトでは6200人以上の子どもが確認された。ユニセフの2021年の報告書では、同国南東部で4万人の子どもが採掘していたとされている。
近年、日本でも、企業が自社の事業や原材料などを調達するサプライチェーンでの人権に配慮する「人権デューデリジェンス」の重要性が指摘されている。経済産業省や一部の大企業を中心に取り組みが始まっている。一方で、第三国で加工された鉱物について、採掘された場所までたどるのは簡単ではない。
そのため、ユニセフなどは供給網の「上流」である生産地で児童労働をなくす取り組みを、取引のある国や企業が支援する重要性を訴えている。