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高校1年の文系女子チームがエネルギー政策ディベート大会で全国優勝 快挙の理由は?

国際女性デー2025 更新日: 公開日:
政策提案型パブリック・ディベート全国大会高校の部で優勝した岐阜県立岐阜高校の、左から後藤明里さん、福田華生さん、三島瑶世さん、中田彩乃さん=筆者撮影
政策提案型パブリック・ディベート全国大会高校の部で優勝した岐阜県立岐阜高校の、左から後藤明里さん、福田華生さん、三島瑶世さん、中田彩乃さん=筆者撮影

2月に決勝が行われたのは、「政策提案型パブリック・ディベート全国大会」。経済産業省資源エネルギー庁が主催し、今年が2回目だ。

今年のテーマは「エネルギー政策~エネルギー安定供給と脱炭素社会の実現の両立~」だった。去年に続き、優勝したのは岐阜県立岐阜高校。しかも、全員が1年生のチームで、決勝では東京の有名私立である開成高校を下した。校内でも目立つ生徒ではないという彼女たちが、なぜ優勝できたのか。

同コンテストでは、書類選考を通過した全国16チーム(高校)がオンラインで1組ずつ対戦する。2~12人で一つのチームをつくり、まず先攻チームが政策を提案し、後攻チームからの質問に答える。後攻チームもそのプロセスを繰り返し、最後にもう一度両チームがそれぞれ再提案を行う。

聞き手(聴衆)にわかりやすく伝わっているか、両チームの議論が対立しながらも協調し、考察を深めようとしているか、具体的な根拠に支えられた結論を主張しているかなどの観点から評価される。

岐阜高校から出場したのは全員が1年生。福田華生(かなり)さん、三島瑶世(たまよ)さん、後藤明里(あかり)さん、中田彩乃(あやの)さんの4人だ。

「去年優勝したチームは、理系でエネルギー分野の技術にも詳しい学生たちでリーダータイプ。クラスでも目立っている生徒でした」と、指導担当の水谷圭佑先生。でも今年のチームはそうではなかった。一見すると、おとなしそうな女子生徒たち。全員が校内の英語ディベート部とESS(英語サークル)に所属していて、昨年優勝した先輩たちもその二つのクラブに所属していたことから出場を決めた。

準備を始めたのは募集要項が発表されてすぐ後の昨年10月だった。「時間をかけて入念に準備したのが大きかったと思います。粘り強くいろんなことを調べて何度も練習していましたから。その場でテーマを与えられてやったとしたら、負けていたかもしれません」(水谷先生)。本を何冊も読んで地道にこつこつと調べ、提案する政策が出来た後も両親やAIに反論をしてもらって答える練習も繰り返した。

岐阜県立岐阜高校の後藤明里さん=筆者撮影
岐阜県立岐阜高校の後藤明里さん=筆者撮影

「勝ちたいという思いが強かった」と、4人全員が口をそろえた。「去年、先輩たちが優勝しているのでプレッシャーもありました」(後藤さん)。「彼女たちの勝ちたい、という秘めた思いと情熱にはこちらが驚かされるほどでした。絶対勝つんだという強い意志を感じました」と水谷先生。

「優勝したい」という思いがほとばしるあまり、時にはチームの中で「対立」することもあったという。

岐阜県立岐阜高校の三島瑶世さん=筆者撮影
岐阜県立岐阜高校の三島瑶世さん=筆者撮影

「仲間のアドバイスや提案をお互いに聞くことができなくなっていたところがありました」(三島さん)。もともと各自で文章を書いてきて、それを組み合わせて、一つの提案する文章にしようと計画してきたものの、結局まとまらず、最終的には1人が書いた文章を読むことになった。

三島さんは「私の意見が取り入れられず、最初は納得できない、と思って、先生に相談したこともありましたが、最後は自分も素直になれるようになりました。わからないことはわからない、とも言えるようになりました」

決勝ディベートはユーチューブで公開されている。小水力発電や太陽電池を利用し、地域密着型で発電して、地域で消費するエネルギーを岐阜高校は提案。対して開成高校は洋上風力を取り上げた。

岐阜県立岐阜高校の中田彩乃さん=筆者撮影

対戦するときに気をつけたのは「相手の提案をつぶすのではなくて、弱みを克服できるように、さらに良くすること」(中田さん)。

確かに、開成高校の提案に対して岐阜高校は「こういう問題があると思うが、こういう実例があるので、それをモデルに解決できるのでは」と具体的に示して、相手の意見をより良くする質疑を行っている。

試合のルールにも「両チームの議論が対立しながらも協調し考察を深めようとしていること」とある。そこに合致している。「ディベートの趣旨をよく理解して、それに対応するように準備しました」(三島さん)。また、岐阜高校の提案は2030、2040、2050年とステップを踏んで実現させていくロードマップを各種のデータや数字を用いて描いており、説得力がある。

岐阜県立岐阜高校の福田華生さん=筆者撮影
岐阜県立岐阜高校の福田華生さん=筆者撮影

準決勝に残った四つの高校のなかで、女子生徒だけのチームは岐阜高校だけだったという。「私たちしか女子がいなかったので、『エネルギー』というまだ男性が多いように感じる分野の中で、全員『文系で女子』の私たちが優勝したら面白いかな、と思いました」と福田さん。「私たちの小さな努力で、少しでも日本にあるアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)を変革できたらうれしいなと思います」

まずは強い意志を持つこと。その実現のためにはどうしたらいいかを考え、求められていることを研究し、こつこつと地道に努力をすること。時には仲間で意見が合わなくなってしまうことがあっても、粘り強く話を続けて大きな目標に向かうこと。言われてみれば当たり前かもしれないが、意外に難しい。実現出来たときには大輪の花が咲く。