睡眠の知識や対策は誤解だらけ?寝すぎ、夜中の目覚め、いびき…専門家に聞いてみた

睡眠が健康にとって重要であることに疑いの余地はない。十分な睡眠がとれないと、認知症や高血圧、2型糖尿病などの病気を発症するリスクが高まる。イライラや不安感も増える。
夜ぐっすり眠るために、「スリーピーガール・モクテル」(訳注=「睡眠改善」をうたったノンアルコールの炭酸ドリンク)を飲んでみたり、入念な入眠儀式に投資したりする人もいる。しかし、こうした対策の多くは科学的な裏打ちがなく、睡眠問題に根本的に対処できない。
米ハーバード大学医学部の睡眠医学部門の助教で、睡眠に関する誤解についての研究論文(2019年)の筆頭筆者であるレベッカ・ロビンズは、睡眠に関するよくある誤解を「是正する機会は多い」と言っている。
ニューヨーク・タイムズは睡眠の専門家11人に、最もよく耳にする誤解のいくつかを正してもらった。
長期にわたる睡眠不足を経験したことがある人なら、最終的には体がそれに順応したように感じたかもしれない。
米ノースウェスタン・メディシン・レイクフォレスト病院(イリノイ州シカゴ)の神経科医イアン・カッツネルソンによると、カフェインを取ったり、深夜の活動を控えたりするなど、睡眠不足に対処する方法は見つけられる。
しかし、それでは記憶力の低下、気分の落ち込み、創造性の衰退など、睡眠不足による悪影響を本当に回避することはできない。
質が悪い短い睡眠は健康に良くないが、寝すぎも健康上の問題につながる可能性があると専門家は指摘する。
50万人近くからデータが集められた2023年の研究だと、睡眠時間が1日9時間以上の成人は呼吸器疾患で死亡する可能性が35%高いことがわかった。また、2021年の考察によると、長時間眠る人は、睡眠時間が1日7時間から8時間の人に比べて2型糖尿病を発症するリスクが高いことが判明した。
だが、過剰な睡眠が健康問題を引き起こすのか、あるいは長時間の睡眠が健康問題の症状なのかは、まだはっきりしていない。米睡眠医学会の理事ファリハ・アバシ・ファインバークは、そう言っている。
米疾病対策センター(CDC)によれば、成人は一般的に1日7時間から9時間の睡眠をとるよう心掛けるべきである。
米ペンシルベニア大学病院の睡眠研究者で精神医学助教のジェニファー・ゴールドシュミードは、もっと長く眠る必要があると感じたら、睡眠専門医の診察を受けることを検討してみてはどうか、と言う。そうした専門家は、睡眠時無呼吸症候群などの有無の診察を手助けしてくれる。睡眠時無呼吸症候群は途切れ途切れの眠りで、質の悪い睡眠を引き起こす。
土曜日の朝に30分ほど寝坊をしても、通常は心配する必要はないと専門家は言う。しかし、毎週末に何時間も寝坊するようなら、平日に十分な休息がとれていないからだろうと医師のトーマス・キルケニーは指摘する。米ノースウェル・スタテンアイランド大学病院睡眠研究所の所長だ。
たとえば、7時間の睡眠が必要なのに、月曜日から金曜日まで1日6時間しか眠れないと、土曜日が来たらほぼ一晩分の睡眠を取り損ねたことになるとキルケニーは言う。これを、専門家たちは「睡眠負債」と呼ぶと彼は付け加えた。
7時間の睡眠をとったうえ、その週の「負債」を完全に返済するには、一晩で12時間も眠る必要がある。ほとんどの人にとって、それは現実的に無理だ。
たとえ可能だとしても、専門家によると、翌日の晩は疲労感が後退しているため、おそらくまた睡眠負債のサイクルに陥ってしまう。だから、徐々に早く眠りに就くことで、1週間を通してより多くの睡眠時間を確保することを考えてみよう。
「今夜は15分早く眠りに就き、次の日の夜はさらに15分早めに眠るようにしてみよう」と前出のロビンズ。「大きく変えるのではない」と言うのだ。就寝時間を調整する際は、翌日の体調に留意して自分にとって最適なスケジュールを決めるように、と彼女は付け加えた。
午前3時にトイレに起きると睡眠が妨げられたと感じるかもしれないが、専門家が言うには、必ずしも心配する必要はない。体は夜の間にさまざまな睡眠の段階を経ており、段階の変化によって短時間覚醒することもあるとゴールドシュミードは言う。
ゴールドシュミードによると、「枕に頭をつけたらすぐに眠りに落ち、朝まで起きない」のがあるべき眠りだと思い込んでいる人は多い。「それに対していつも私は、『それは睡眠ではなく、昏睡(こんすい)状態だ』と言う」
ただし、夜中に目覚めた時、再び眠り込むまでにだいたい15分から20分以上かかるようなら、その場合は一度ベッドから出てほしい。寝返りを繰り返すと、イライラしてよけいに休めなくなる可能性がある、と米ミシガン大学医療センター睡眠医学医師メフウイッシュ・サジードは言う。
代わりに気持ちを静める本を読むとか、瞑想(めいそう)するとか、何かリラックスできることをしてほしい。ベッドに戻るのは、再び眠気を感じてからにしようと彼女は付け足した。
長い昼寝や深い眠りの後、目覚めた時にぼんやりした感覚に襲われることがある。このため、一時的に認知能力が低下したり不機嫌になったりするかもしれないが、ある程度の寝起きの悪さは正常の範囲といえ、専門家はその状態を睡眠慣性と呼んでいる。
「いつも元気はつらつ、やる気満々で目覚めるわけではない」と米シンシナティ大学の睡眠障害センター所長アン・ロマーカーは言う。
CDCによると、睡眠慣性は30分から2時間くらい続くことがある。睡眠不足の時にはこの感覚が長引くかもしれないが、専門家の話だと、その理由はまだ完全にはわかっていない。睡眠導入剤や、抗ヒスタミン剤とか鎮静剤といった疲労感を生じさせる薬も睡眠慣性を悪化させ、「二日酔い効果」をもたらす可能性があるとゴールドシュミードは言っている。
この感覚を和らげるために、ゴールドシュミードは、できれば朝に短時間でいいから戸外を散歩することを勧める。太陽の光は、体に目を覚ます時間を知らせる自然のサインになるからだ。しかし、ウトウトする感覚がとれず、日常生活に支障をきたすようなら、睡眠医学の専門医に相談するのがいい。
何千万人もの米国人が、あちこちでいびきをかくと報告しているが、それは必ずしも無害とは限らないとサジードは指摘する。
大きないびきを頻繁にかく場合は、閉塞(へいそく)性睡眠時無呼吸症候群の兆候であることが多いとされる。この一般的な睡眠障害は、のどの組織や舌の筋肉が緩んで気道を塞いでしまうことで起こるとサジードは言う。
特に、男性や閉経後の女性、肥満の人、喫煙者、飲酒習慣がある人、中高年といった人たちは、この症状のリスクがより高い(ロマーカーによると、睡眠時無呼吸症候群の女性はいつも大きないびきをかくとは限らないが、夜中に何度も目が覚める可能性がある)。
もし、あなたが「息がつまったり、あえいだりする」とか「いびきで目が覚めたりする」ことに気づいた場合や、ベッドを共にしている人がそれに気づいたならば、「医者に診てもらう方がいい。健康上の問題があるかもしれないからだ」とサジードは言っている。(抄訳、敬称略)
(Katie Mogg)©2025 The New York Times
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