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不眠症の治療で注目される「認知行動療法(CBT-I)」とは 睡眠薬に頼らない方法

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
寝つきの悪さや睡眠の持続困難に、最も効果的な治療法とされているのが「CBT-I(不眠症に対する認知行動療法)」だ
寝つきの悪さや睡眠の持続困難に、最も効果的な治療法とされているのが「CBT-I(不眠症に対する認知行動療法)」だ =Tonje Thilesen for The New York Times/©The New York Times

米国では毎年、成人のおよそ4人に1人が不眠症を発症している。おおかたはストレスや病気などが原因で、症状は長続きしない。しかしながら、成人の10人に1人は慢性的な不眠症を患っていると推定される。入眠ないし睡眠の持続困難が週に少なくとも3回あり、それが3カ月以上続くケースが慢性的な不眠症だ。

睡眠不足は身体上の健康問題を引き起こすだけでなく、精神にも害をもたらす可能性がある。たとえば、全米睡眠財団(NSF)による最新の世論調査では、貧弱な睡眠の質とうつ症状との関連性が明らかになった。

加えて、睡眠不足は健康な人をも不安や抑うつ状態に陥れる可能性があることが研究でわかった。幸いなことに、不眠症についてはよく研究されており、一般に8回以内のセッション(処置)で効果が実証された治療法がある。不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)だ。

提供機関が見つからなくても、CBT-Iのやり方はオンラインで簡単に調べられる。しかし、不眠症患者を治療している米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の睡眠研究者アリック・プレイザーによると、最初にCBT-Iを試みる人はめったにいない。

その代わりに、薬に頼るケースがよくある。米国疾病対策センター(CDC)の2020年の調査は、成人の8%以上が、入眠ないし睡眠状態を保つために毎日あるいはほぼ毎日、睡眠薬を服用していると報告している。

研究では、CBT-Iは短期的には睡眠薬を服用するのと同じような効果があり、長期的にはより効果的であることがわかっている。臨床試験のデータは、CBT-Iを試した人の80%に睡眠の改善がみられ、たとえ何十年も不眠症を患っていたとしても、大半の患者は4回から8回のセッションで症状が軽減されたことを示している。ペンシルベニア大学の睡眠・神経生物学・精神病理学研究所のディレクター、フィリップ・ゲールマンはこう話す。

睡眠補助薬はリスクを伴う可能性があり、特に高齢者の場合は薬を服用することで、転倒や記憶障害、混乱などの問題が起きるかもしれない。一方、CBT-Iは成人なら何歳でも安全と考えられている。子どもにも応用できる。

CBT-Iとは何か?

多くの人は、CBT-Iが良質な睡眠につながる生活習慣や環境といった睡眠衛生に全面的に焦点を当てていると勘違いしている。これはCBT-Iの専門家で、ニューヨーク市街で開業する心理学者シェルビー・ハリスの指摘である。

CBT-Iは、昼寝や就寝前のデジタル機器の使用など睡眠を妨げる行動を対象に一連の治療をし、起床時間を一定にするなど、より効果的な行動に置き換える。同時に、この療法は睡眠に関する不安や否定的な考えに対処することも目的にしている。

不眠症は多くの場合、睡眠が「予測不能でとぎれとぎれになっている」という感覚につながりがちだとプレイザーは言い、「慢性的な不眠症に悩む人は毎日、『今晩はどうやって眠ろうか』と考えている」と続けた。

CBT-Iは、深呼吸やマインドフルネス(訳注=いま目の前に起こっていることに集中する心の状態)の瞑想(めいそう)など、リラックスするためのさまざまな方法を伝授し、患者が自分の睡眠習慣について実際に期待を持てるよう手助けをする。

不眠症の人が、なかなか眠れない時にゴロゴロと寝返りを打つ場所としてベッドを認識するのではなく、安眠の場所とみなすことが特に重要になる。CBT-Iを受けている患者は、20分ないし30分経っても寝つけないならベッドから起き上がり、薄暗くした照明のもとで電子機器を使わずに静かに過ごすよう求められる。そして、眠い時か、眠る時だけベッドに入るよう指示されるのだ。

「CBT-Iは、より良質な睡眠と入眠までの時間の短縮へと導く。これは多くの人にとって大きな利益になる」とハリスは言っている。

どうやって提供機関を見つけるのか?

睡眠に問題がある場合は、専門家らによると、まずはかかりつけ医療機関を訪れ、別途治療が必要な甲状腺機能の低下、慢性的な痛み、睡眠時無呼吸といった身体的な問題やうつ病などの精神的な問題がないことを、診断ではっきりさせる必要がある。

提供機関を探すには、行動睡眠医学会(SBSM)の会員を検索するとか、「Penn International CBT-I Provider Directory(ペンシルベニア州国際CBT-I提供機関名鑑)」を利用することもできる。かかりつけ医が紹介状を書いてくれる場合もある。「Psychology Today(サイコロジー・トゥデー)」のような総合的なオンライン・セラピスト・ディレクトリー(療法士名鑑)を利用する場合は、不眠症治療を提供するとしていながらCBT-Iのための特別な訓練を受けていないケースもあるので、注意を要する。ハリスの警告だ。

CBT-Iを専門とする提供機関、とりわけ保険を受け付ける提供機関を見つけるのは難しいかもしれない。米国には行動睡眠医学の訓練を受けた臨床医は700人未満しかいないからだ。また、ある2016年の研究で、こうした臨床医の地理的分布が不均衡なことが判明している。臨床医の58%は(全米50州中の)12州で治療を行っている。たとえば、プレイザーが勤務する診療所は数百人が診察待ちのリストに載っている。

専門家なしでもCBT-Iを試せるか?

臨床試験のレビュー(総括)では、自己主導型のオンラインによるCBT-Iプログラムは対面のCBT-Iカウンセリングと同じような効果があることがわかっている。自発的に取り組む場合、低価格か無料で主な原理を学べるリソースがいくつかある。

選択肢の一つは、「Conquering Insomnia(コンカリング・インソムニア=不眠症の克服)」という5週間のプログラムだ。価格は、約50ドルのPDFガイドから、音声によるリラクセーションテクニックや医師グレッグ・D・ジェイコブスによる睡眠日誌に関するフィードバックを含む70ドルのプログラムまである。ジェイコブスは、このプログラムを開発した睡眠および不眠症の専門家だ。

米政府の退役軍人省が作成し、誰でも利用できる無料アプリ「Insomnia Coach(インソムニア・コーチ=不眠症指南)」もチェックしてほしい。このアプリは睡眠を記録し、改善するのに役立つガイド付きの週間トレーニングプランを提供している。睡眠のためのヒント、対話式の睡眠日誌、個々人向けのフィードバックも含まれる。

ハリスによると、「Sleepio(スリーピオ)」も評判の良いアプリだ。米国睡眠医学会(AASM)のオンラインリソースや米国国立衛生研究所(NIH)による教育資料もある。教育資料には、睡眠日誌のサンプルや健全な睡眠のためのガイドなどが含まれている。

テクノロジーを全面的に避けたい人向けには、コリーン・E・カーニーとレイチェル・マンバーによる「Quiet Your Mind and Get to Sleep(気持ちを静めて眠りに就こう)」という演習教材があり、複数の専門家が推奨している。(抄訳)

(Christina Caron)©2023 The New York Times

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