睡眠は、その量と質の両方とも、最も頻繁に論議される健康関連の話題の一つだ。友人や親戚に、どれだけの頻度で、「ぐったりだ、夜遅くまで眠れなくて」と言っているだろうか?
複数の調査によると、米国の成人の3分の1以上がいつもぐっすり眠れず、何百万人もが寝つきの悪さや眠りの浅さに苦労していることがわかった。パンデミック(感染症の大流行)は、以前は「よく」眠れていた人たちにとっても、事態を悪化させただけだったようだ。
リモートワークで、多くの人は自由になる時間が増えたが、同時に、思わぬ時間や予期していない時にメール、テキスト(メッセージ)、ズームで呼び出しがあり、四六時中ずっと仕事時間になった。
育児の選択肢がなかったり、日中は子どもたちのオンライン学習の手助けをしなければならなかったりするので、働く親たちはできるだけ邪魔されずに自分の仕事を済ますため、深夜か早朝に時間を割かなければいけなかったのかもしれない。そうした人たちは事実上、睡眠時間が不規則な交代勤務制の働き手になったようなものだ。その仕事がストレスに値するのか、どうすれば今後の職業生活を変えられるか、あれこれ考えているうちに眠れなくなった人たちもいる。
数千とも数万とも知れない多くの人たちにとって、新型コロナウイルスによる愛する人の死で、眠りに就くこと、そして休めたと感じられるぐらい十分に眠ることが長期にわたって難しくなってしまった。米ノースウェスタン大学医学部とライス大学の研究者による2019年の調査では、寝不足を訴えて嘆き悲しむ配偶者は、慢性的な全身性の炎症を抱えていたことがわかった。これは、心臓病やがんを発症する可能性を高める。
■睡眠不足は心身に負担をかける
睡眠不足の人の主な不満は、倦怠(けんたい)感が続くことかもしれない。だが、もっと深刻なこととして、睡眠の乱れや寝不足が身体的および精神的な健康に広範囲にわたる悪影響をおよぼすことを示唆する証拠が増えている。睡眠不足は、心臓病や高血圧、脳卒中、2型糖尿病を発症するリスクを高める。それは思考を混乱させるし、エネルギーを消耗させ、イライラしやすくさせ、性欲を弱める。
ぐっすり眠る人でも、睡眠時間が一般的に推奨されている夜間の7時間ないし8時間未満の場合、短い睡眠サイクルが医学的によくない結果をもたらす可能性がある。
たとえば、ある大掛かりな研究によると、慢性的な睡眠不足の中年の人は、晩年になって認知症を発症するリスクが高まることが示唆された。この研究は学術誌「Nature Communications」に2021年春、掲載されたもので、英国で50歳代の人を対象に、8千人近くを約25年間にわたって追跡調査したものだ。一晩に平均7時間の睡眠をとる人と比べ、この研究の対象者は平日の睡眠時間が6時間以下で、おおむね30年後に認知症と診断される可能性が30%高かった。
■睡眠にはスイートスポットがある
夜7時間以上の睡眠をとる人は、だからと言って、睡眠に関連する健康上のリスクを免れるわけではない。健康のためには、毎晩6時間から8時間の睡眠にスイートスポット(最適点)があるようだ。カリフォルニア大学サンディエゴ校と米がん協会(ACS)が30歳から102歳までの100万人余りを対象に6年がかりの研究を行った結果、一晩の睡眠が8時間以上または4時間未満の人たちの死亡率が最も高く、U字曲線を描くことが判明した。
女性7万1617人を10年にわたって追跡した「Nurses' Health Study(看護師健康調査)」では、睡眠8時間の人は心臓病になるリスクが最も低かった。しかし、8万4794人の看護師を24年間追った別の研究だと、夜間に9時間以上の睡眠をとった人は6時間以下の人よりパーキンソン病を発症する可能性が2倍高かった。
それでも、一般の人も専門家の多くも睡眠過剰よりも睡眠時間が少な過ぎることの方を心配している。これには正当な理由がある。睡眠不足の人は事故がより多く、観劇やコンサート中、あるいは最もまずいことに運転中など不適切なときに眠り込んでしまう可能性が高くなるのだ。
眠気に襲われての運転は、酒酔い運転と同じくらい反応時間を遅くする。米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)によると、米国では疲労が原因で年間10万件の自動車事故と1550人の自動車事故死者が出ている。スバルやアウディ、メルセデス、ボルボなどいくつかの自動車メーカーは現在、車線逸脱などの車の動きを監視し、眠そうなドライバーに休憩をとるよう警告する眠気検知システムを提供している。
■睡眠のとり方は食事のとり方に影響を与えるかも
その逆を期待するかもしれないけれど、いくつかの研究によると、人は眠っている時より起きている時の方がカロリーを多く消費するが、睡眠時間が短い人は長い人に比べて体重が増える傾向があることが示された。アイオワ州の農村部で働く成人990人を対象にした研究だと、平日の夜の睡眠が少ない人ほどBMI値は高くなる傾向があることがわかった。
8歳から17歳の子ども240人について調べたカナダの研究では、平日夜間の短い睡眠時間を週末に長く眠ることで補おうとしてもあまり役に立たないことがわかった。睡眠時間の変化は、食欲調整ホルモンに影響を与える可能性がある。空腹ではない時に食べ、満腹になってもまだ食べるよう促すのだ。ウィスコンシン睡眠コホート研究(WSCS)によると、睡眠時間が短い人は食欲を抑制するホルモン「レプチン」の分泌レベルが低く、もっと食べるようにシグナルを送るホルモン「グレリン」のレベルが高いことが判明した。
■ぐっすり眠れるようにするには
専門家たちは、よりよい睡眠を得るためのさまざまな手掛かりを提供してくれている。たとえば――
- 夕方から夜にかけて、あらゆる類いのカフェインを避ける。同様に、就寝直前の大食いも避けること。
- よい睡眠健康法を実践する。それは毎日ほぼ同じ時間に寝て、同じ時間に起きること。
- 緊張をほぐすためとして、アルコールを摂取しない。温かいお風呂に入るか、瞑想(めいそう)を試みること。
- 寝る前の読書は非常によい。ただし、睡眠を妨げる光を放つコンピューターやタブレットは使わないこと。
- 外部からの光が睡眠を妨げるなら、遮光のシェードあるいはカーテンを取りつけるか、睡眠マスクを使う。音が気になるなら、耳栓かホワイトノイズマシン(訳注=広域周波数のノイズを発生させて気になる音を消す機器で、別名「音のカーテン」)を使うこと。
- 認知行動療法(CBT)を検討してみよう。この療法で、夜更かしをする可能性がある思考や行動にチャレンジしてみること。(抄訳)
(Jane E. Brody)©2022 The New York Times
ニューヨーク・タイムズ紙が編集する週末版英字新聞の購読はこちらから