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家庭医ってどんな医者?トリブリッドな視点が生み出す調和とバランス

英国のお医者さん

みなさん、家庭医というと、どんな医者をイメージしますか?

家族を診る医者、町医者、幅広く診る医者...。

これらは決して間違いではありませんが、必ずしもそうとは限りません。前回お話ししたプライマリ・ケア同様、家庭医がどういった医師であるかをご存知の方は少ないと思いますし、ご存知でも、誤解されていることがある印象です。今回はそんな家庭医の知られざる姿についてお話しします。

一言で言うと、家庭医は、「プライマリ・ケアを専門とする医師」です。世界で関心が高まっているプライマリ・ケアを強化していく上で欠かせないピースの一つと国際的に言われています。聞き慣れないかもしれませんが、内科や外科などの医師と同様に重要な役割を担う、専門の研修を受けた医師です。日本でも家庭医としての働きが期待される「総合診療専門医」の育成がいよいよ始まりました。

ただ、この家庭医という医師を分かりやすく説明するのは簡単ではありません。なぜなら、家庭医の本質は「患者・地域のニーズに応える」ことで、これらニーズは千差万別であるため、これが家庭医!とひとくくりのイメージで表現するのは難しいのです。家庭医は自分が診る問題を自分で定義しません。加えて、家庭医の仕事は国の制度にも影響を受けるので事はより複雑です。水が注がれた器によって形を変えるように、また家庭医も状況に合わせてその姿を変えていく存在です。

こうした専門性をより良く発揮するために、家庭医は以下のように「部分」「全体」「自分」を見る3つの視点を持ち、状況に応じてこれらを使い分けるがことできる「トリブリッド型」とも言える医師です。

(1)部分を見る視点(細胞・臓器・病気・治療など)
(2)全体を見る視点(患者を人としてまるごと・家族・地域社会・システム・国・世界など)
(3)自分を見る視点(医師としての知識・技術のみではなく、自己の感情・姿勢・価値観など)

なぜ家庭医にとってこの3つの視点が重要なのか?

医療の専門家としてはまず、部分を診る(1)の視点は不可欠です。けれども、家庭医の専門性である「患者・地域のニーズに応える」ことをより良く行うためには、ものごとの一部にとらわれず全体にも目を配る(2)の視点も必要になります。また、患者のことをより良く知るためには、(3)の自分を診る視点が欠かせません。なぜなら、自分の外をより良く知るためには自分の中を知ることが必要になるからです。例えば、医師自身の感情や姿勢、価値観という内面によっても患者が医師に伝える情報は変わってくる上、医師によるその情報の解釈さえも変わってきます。

健康問題の原因やその影響の多くは単純ではなく複雑です。そのため、部分を見て、全体を見て、自分を見て、それらの結びつきを理解することが重要です。

ここまではやや抽象的な話になりましたが、では、家庭医の専門的な能力とは具体的に何でしょうか?家庭医は、その柔軟性を持ってニーズに応えようとすることで、前回でまとめた現代医療の課題のすべてに対応できるよう発展してきました。そのため、現代版プライマリ・ケアのすべての要素にフィットする専門性を持っています。ここでは主な6つを紹介します。

(1)あらゆる相談に乗り、適切なサービスへと導くゲートオーブナー

家庭医は、保健医療サービスの玄関口として、すべての人のあらゆる健康上の問題や相談に対応します。どの問題を何科で相談すればいいのか、迷う必要はありません。また、外来診療の他にも電話相談や在宅診療など、サービス利用者のニーズに合わせた多様な受診方法を提供します。

もちろん家庭医がすべての問題を解決できるわけでも、すべきでもありません。けれども、複雑で専門性の高い保健医療という世界の中で患者が適切なサービスを受けられるよう、責任を持ちます。

チームケアを基本とし、他の様々な職種や各科医師と連携を取り、必要に応じて、他科の医師や他の医療機関はもちろん、介護・福祉など、適切なサービスへと導いていく「ゲートオープナー」とも言える存在です。チームが役割分担し、連携し合うことによって、お互いの専門性をさらに高めていくことができます。

これを適切に行うには、自分が何を知っているかよりも、何を知らないかを知ることが重要で、家庭医はこのマインドを大切にする文化を持っています。一方で、前回お話ししたように、いつ医療を提供しないべきかを理解し、判断することも大切で、家庭医はこれに長ける医療者でもあります。

(2)当事者本人を中心に据えたケア

医療に絶対的な正解はありません。ですから、医学的な視点、患者の視点、両方を大切にしながら、何が問題なのか、それぞれのシチュエーションにあった解決策は何かを一緒に考えます。二人三脚で事を進める医療のパートナーの存在によって、医療がもっと身近で主体的なものになります。患者が本当に伝えたいことを伝えられるように、医師は聞き上手、引き出し上手である必要があります。また、難しい医学情報をわかりやすく伝えられるように説明上手である必要もあります。こうしたコミュニケーションスキルを専門的に学び、それと同時に自分自身を知るトレーニングも受けます。

(3)環境に応じた適切な臨床アプローチ

第6回で、地域や病院といったリスクの違う環境によって、求められる臨床アプローチが本質的に異なることについてお話ししました。家庭医はそれを理解し、環境に応じた適切な臨床アプローチを取ることができます。加えて、地域は基本、患者が初めに医療サービスを受診する場であり、曖昧な症状が早期に、かつ多様に訴えられる環境です。また、複数の慢性的な病気や複雑な問題の対応も求められます。家庭医はこうした状況にも適切に対応できる専門のトレーニングを受けます。

(4)生活や地域の目線を持った包括的なケア

生活や地域の目線に沿った広い視野も家庭医には求められます。食生活、運動、喫煙、飲酒などの生活習慣に関するアドバイスや、予防接種や検診などの予防も含めて、個人だけではなく地域全体に健康を広める役割を持ちます。また、必要に応じて地域の介護支援専門員などとも情報を共有しながら、介護と医療の連携を図ります。

(5)安全性と高い質を保ち、個人と地域のニーズのバランスを取る

患者を第一に考える家庭医は、提供するサービスの質と安全性にこだわります。だからこそ、その科学的裏づけ(エビデンス)を大切にします。一方で、地域のニーズにも応えるため、その地域で利用可能な資源の分配にも気を使います。結果、家庭医は患者個人のニーズと地域のニーズが相反する際に上手くバランスを図るバランサーでもあるのです。

(6)患者を人としてバランス良くサポート

現代医療で見失われがちな、患者を一人の人間として診ることを家庭医は大切にします。人間が人としての感情を内に秘め、家族、社会といった集団の中で生活する心理的・社会的存在でもある以上、訴えられる身体的問題のみに表面的に対応するだけでは、健康における重要な側面を見逃してしまいます。例えば、風邪の症状で頻繁に医療機関にかかる一人暮らしの高齢患者に対し、その影にある社会的孤立や寂しさ、メンタルヘルス、喫煙といった状況にも注意を払うことができなければ、問題のより良い解決は難しいでしょう。

このように家庭医は、患者・地域のニーズにより良く応えることを専門とするゆえの多面性を持っていて、調和とバランスを大切にします。家庭医が本当はどういった医師であるのか、少しでもお伝えできたら幸いです。

次回からは、話の内容をイギリスに移していきます。