――外交では米国で来年1月に第2期トランプ政権が誕生します。
世界秩序が混乱することが懸念されます。トランプ政権は第1期と同じように、(2020年以降の温室効果ガス削減を定めた)パリ協定やWHO(世界保健機関)などから離脱しようとするでしょう。WHOの場合、拠出金の3割を米国が負担しています。テドロスWHO事務局長は半年ほど前から、トランプ政権の再来に備えてWHO組織を急速に縮小する動きを見せています。
グローバルヘルスにおける米国の役割は一気に縮小するでしょうが、英独仏日などのミドルパワーが米国に代わる役割を担うことが求められます。
――武見さんは、超党派の国会議員でつくる、台湾との「日華議員懇談会」(日華懇)と中国との日中友好議員連盟に加入しています。
第2期トランプ政権が「世界の警察官役」にならないとすると、力で現状を変えようとする動きが増えるでしょう。ロシアのウクライナ侵攻を巡り、トランプ氏がロシアの占領地域をロシア領として認めれば、中国が「台湾で現状変更しても、米国は介入しない」という誤ったメッセージを中国に伝える可能性があります。
北朝鮮がロシアに派兵したことで、ウクライナ情勢と朝鮮半島情勢が有機的に結びつく危険も高まります。そうしたなかで、トランプ氏は同盟国の日本の役割と負担を共に増やしてくることが考えられます。
トランプ氏は対中強硬派を外交安全保障分野の要職に就ける人事を早くも発表しており、こうした強硬策はまず経済的な分野から始まるでしょう。対中関税を引き上げようとすれば、中国が報復措置を取り、激しい貿易戦争に発展する可能性があります。米国と中国の深刻な対立は、日本にとって何の利益にもなりません。
日本は、石破茂首相とトランプ次期大統領の個人的な関係構築から始めて、政権同士の信頼関係をさらに強化する必要があります。同時に、中国とも不必要な対立を避け、協調できる共通の課題には積極的に対応する戦略的互恵関係を発展させるべきでしょう。
――自民党は10月の総選挙で少数与党に転落しました。
衆議院議員候補の街頭演説に立ちましたが、不満があったとしても、普段なら黙って通り過ぎる有権者が、自民党の我々にネガティブな声を上げていました。政治とカネの問題により、自民党に対する批判がさらに深刻化したことを痛感しました。国民の信頼回復につながる、わかりやすく納得のできる政治改革を進める必要があると考えるようになりました。
――自民党は党非公認候補に事実上、2000万円の資金を提供しました。
2000万円の提供は、国民に対してわかりにくい措置でした。今後、国民にとってわかりやすい納得のできる対応ができるように深く反省する必要があります。
――武見さん自身も、代表を務める政治団体が2021年に計5000万円以上の収入を得ていたオンラインのイベントを政治資金収支報告書に政治資金パーティーと記載しませんでした。
私自身は、政治資金パーティーは、幅広い国民の支持を頂く機会だと考えています。ただ、2021年当時は、新型コロナウイルスの感染拡大のため、オンラインで開かざるを得ませんでした。政治資金の取り扱いについては法律が未整備で、報告しようとしてもそれができないという事態に直面しました。法律上、やむを得ず「その他事業収入」とした経緯がありました。
――自民党は今後、厳しい政権運営を迫られそうです。
日本の未来を考えたとき、今から2030年くらいまでが非常に重要な時期です。2030年ごろから生産年齢人口(15~64歳)が急速に減るからです。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によれば、2020年に約7509万人でしたが、2030年には7076万人、2040年には6213万人、2065年には約4809万人にまでそれぞれ減少する一方、都市部の高齢者人口は増加し続けます。
総人口も2020年の約1億2615万人から2040年以降は急速に減少し、2065年には9159万人にまで減ります。人手不足はますます深刻化し、何もしなければ、活力は失われ、日本は間違いなく衰退していきます。
したがって、2030年ごろまでに、活力のある健康長寿社会をつくる必要があります。例えば、女性にはますます社会で活躍していただくために、共稼ぎだけではなく、「共育て」の必要性が広く問われることとなります。
健康寿命の延伸により働く意欲のある高齢者には、できる限り長期間、生産性の高い仕事についていただくことも必要です。そしてどうしても労働力が不足する分野では外国人労働者を受け入れやすくする必要があり、そのための法改正も今年度通常国会で行いましたが、引き続き努力が必要です。
また、デジタル化やデータサイエンスにより、人でなくてもロボットやシステムで対応できる社会に作り替えていく必要があります。12月2日に(従来の健康保険証の新規発行をやめて)移行する「マイナ保険証」もその一つです。
カルテを電子化し、全国の医療関係者が共有できる態勢をつくることで、救急救命医療の改善などに役立ちます。日本では「個人情報の保護」に焦点が集まり、マイナ保険証に慎重な意見が多いのですが、世界の主要国でも進む電子カルテを利用するパスポートだと考えてほしいのです。
野党もデジタル化すべてに反対しているわけではありません。しかし、通常国会での法案審議が政局含みになり、来年7月の参院選をにらんで対立局面を強調する動きが出始めると、まとまる法案もまとまらなくなります。今後、来年の通常国会に提出する法案について、成立しやすい法案を優先する必要があるでしょう。
――逆に、自民党が議席を減らしたことで、選択的夫婦別姓制度の導入が進むのではないですか。
私個人は選択的夫婦別姓制度の導入に反対ではありません。女性が社会でますます活躍する環境を整えるべき状況です。同時に、自民党内にかたくなな反対論があるのも事実です。従来の日本の家父長制を念頭に、家族にかかわる文化的価値観として導入に反対している方々もいます。よく協議をして、納得のうえで合意が得られるよう努力したいと思います。