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自民党の派閥によるパーティー収入の裏金化事件、捜査の見通しと問題点を元検事が解説

World Now 更新日: 公開日:
清和政策研究会(安倍派)の事務所に家宅捜索に入る東京地検特捜部の係官ら
清和政策研究会(安倍派)の事務所に家宅捜索に入る東京地検特捜部の係官ら=2023年12月19日、東京都千代田区、内田光撮影

亀井正貴弁護士
亀井正貴弁護士=大阪市、関根和弘撮影

――事件の容疑は政治資金規正法違反です。いったい何が問題になっているのですか。

自民党の派閥が、政治資金を集めるためにパーティーを開いた際、所属議員にそのパーティー券を販売させたのですが、ノルマ以上に売った議員に対しては、売上金をキックバックとして渡していた疑いがあります。パーティー券をめぐる金は本来、政治資金収支報告書に記載する義務があるのですが、派閥側、キックバックを受け取った議員側の報告書のいずれにも記載されておらず、これが法律違反ではないかと問われているのです。

――記載されていない、つまり記録に残っていない金、という点で裏金になっているということでしょうか。

その通りです。

――当たり前のことを聞くようですが、政治資金の収支を報告させるなど、法律で義務づける意図は何でしょうか。

基本的には政治資金について国民の監視下に置くためです。政治家が金を集めること自体は別にいいんですが、その集め方や使い方に問題がないか、国民の監視下に置くことが大事だということです。

――要するに、「政治とカネ」について透明性を高める必要があると?

その通りです。

――今回はパーティー券が問題になっています。ただ、政治家側が金を集める手段というのは、例えば献金とか寄付とかありますよね。

企業や団体が行う寄付、つまり企業献金は政党や政党が指定する政治資金団体にしかできず、政治家個人に対してはできないよう法律で決まっています。1980年代のリクルート事件などを受けて政治改革が行われ、企業が直接政治家や政治団体に金を渡してしまうと、贈収賄など不正の温床になるから禁止されたんです。

リクルート事件の「政界ルート」で、東京地検の事情聴取のために宿泊先のホテルを出る藤波孝生・元官房長官(当時)
リクルート事件の「政界ルート」で、東京地検の事情聴取のために宿泊先のホテルを出る藤波孝生・元官房長官(当時)。就職協定存続問題などにからんでリクルート社からの請託を受け、便宜をはかった謝礼として、店頭登録(公開)直前で値上がりが確実とみられていたリクルートコスモス株1万株などを受け取った疑いが持たれていた=1989年年5月、東京都千代田区永田町

一方で、パーティー券を購入しているのは、多くが企業なんです。つまり何が言いたいかというと、この仕組みを使って企業が実質的に政治家側に寄付をしているという構図になり得るんですよ。完全に潜脱(せんだつ=法の目をかいくぐる)です。政治資金規正法が「ザル法」と言われるゆえんです。

――企業側にとってはどんな思惑でパーティー券を買うのでしょうか。自社への様々な利益のためなどといった「下心」があるのでしょうか。

あると思います。ただ、大手企業などの場合は直接自社への利益のためではなく、本当に政治家を応援するために購入するところもあるようです。

――それはどういうことでしょう?

聞けば彼らは「日本のため」と言いますね。日本をよくするために、あるいは日本経済をよくするために特定の議員を応援したいということもあるようです。

――ただ、パーティーを開催する側にとっては、どの程度メリットと言いますか、「もうかる」のでしょうか。会場費など、支出もそれなりにありますよね。

経費を差し引いても手元に残る金は多いでしょうね。昔はおそらく、パーティーをちゃんと開いていたと思うんですよ。人脈を広げる機会にもなったでしょうし。

ところが最近では形骸化している面もあって、つまり「収益事業」になると考えて、どんどん経費を削っていったんじゃないですかね。それによって手元に残る金を増やすことができるので。パーティー券を購入した企業にとっても、熱心に参加しようと考えているかはわからないですよね。面倒なので。例えば10人分買っても、行くのは1人だけとか。これが実態です。

――裏金として派閥から所属議員たちに渡った金は、直近5年間で総額5億円にもなると報道されています。「政治には金がかかる」とはよく聞きますが、これほどの金額、かつ「足がつかない」形の金がなぜ必要なのでしょうか。

政治家にとって一番大事なのは選挙ですよね。だから選挙に関係することに金を使っていくのだと思います。支持者を獲得したり、維持したり。

国会議員であれば、選挙区にいる地方議員に金を渡したりします。選挙のときに渡したら公職選挙法違反なので、それ以外のときに。そうやって自分の「子分」を増やしていきます。

それから支持者との飲み食いの場で支出するとか。こういう支出の中には、国民に明かしたくないものもあるでしょう。明らかにして批判される可能性もあるし、本当に問題となる使い方もあるかもしれない。だからこそ、足のつかない裏金が都合がいいわけです。

――捜査についてうかがいます。亀井さんは検事だったので検察の動きから今後の流れなども推測しやすいのではないかと思うのですが、まず国会が閉会した後に派閥の事務所に対する捜索を始めました。なぜこのタイミングになったのですか?

国会の閉会中に強制捜査をするのは、議員の政治活動を阻害しないようにとか、国会審議に影響を及ばさないようにという配慮ですね。三権分立の原則があり、捜査という行政権が、立法権を担う国会や政治に影響しないようにということです。検察独走という世論の批判も避けたいでしょうし。

――国会議員が有権者による選挙によって選ばれた代表者である、という重みも考慮してのことでしょうか。

もちろん、それもありますね。

――となると、家宅捜索や議員への聴取といった主要な捜査は、次の通常国会が始まる1月下旬までには終わりますか?

はい、それまでには終えるんだと思います。

――特捜部は立件の対象をどう考えていると思いますか。

パーティー券をめぐるキックバック、裏金化の流れを考えれば事件の構図や、特捜部が刑事責任を問うべきと考える対象が推測できると思います。

キックバックという手法は派閥側がやってきたものですから、立件の対象として検討されるのはまず派閥側の会計責任者ですね。そして派閥の事務総長を務めていた政治家が、その会計責任者と共謀があったかもポイントです。

清和政策研究会で近年、事務総長を務めた所属議員ら。左から下村博文氏、松野博一氏、西村康稔氏、高木毅氏
清和政策研究会で近年、事務総長を務めた所属議員ら。左から下村博文氏、松野博一氏、西村康稔氏、高木毅氏

この手法というのは派閥で代々慣習的に行われていたようで、もし会計責任者が決められたルールに従って続けていて、事務総長ら誰にも相談していなかったということであれば、共謀を問うのは難しくなります。その場合、事務総長の立件はないかもしれません。

ただ、長年続けてはいるけど、ある年によってはキックバック率を変えるとか、普段とは違うことをした場合は、そこで会計責任者と事務総長らが協議したでしょうから、共謀を問われる可能性は出てきます。

一方で、キックバックを受け取った所属議員側の会計責任者も立件を検討する対象になります。同様に所属議員との共謀も調べられるでしょう。

一部の議員は報道機関に対し、受け取った金を政治資金収支報告書に記載しなかった理由を「政策活動費であると思った」と話していますね。政党が政治家個人に「政策活動費」の名目で渡す寄付は法律的に認められています。政党の政治資金収支報告書には議員名や金額が記載されなければならないが、受け取った議員側には記載する義務はありません。受け取った議員側が本当にそう認識していれば、犯罪の「故意」がなくなりますので、捜査的には「故意の否認」ということになります。

ただ、これが通用するのか、私は懐疑的にみています。まず派閥側は、金を所属議員側にキックバックしている側ですから、そんな弁解は通用しにくいでしょう。

一方、キックバックを受け取った議員側も、例えば過去に派閥の要職を経験したことがあってこの仕組みを知っていたとか、パーティーが開催された直近の時期に金を受け取っているとか、キックバックされた金額が、パーティー券販売のノルマを超えた分と一致しているとか、そういうことの認識が問題となれば、弁解は通用しにくいのではないかと思います。

逆に、本当に所属議員が政務活動費という認識を持っていたのなら、派閥側がそう信じ込ませた、ミスリードさせたわけですから、犯罪を作り出すことになるので、より悪質性は高まりますよね。

ただ、これまでの経験上、私は派閥側と所属議員側とで「口裏合わせ」をしている可能性が高いと思っています。ここまで立証できたら検察の捜査は十分な成果を上げることになると思います。

それから、これは捜査側にしてみれば気になる点ですが、派閥側が所属議員にキックバック分の金を渡すときに、この金に名前は書いてないですよね。「金に色はついていない」とも言いますけど、そもそも裏金なので。この金が所属議員のふところに入ったのか、政党支部に入ったのか、あるいは別の資金管理団体に振り分けられたのか、特定されてないなら、会計責任者も政治資金収支報告書に記載しようがないんですよ。そうすると犯罪が成立しないことになります。

ですから、特捜部としてはこれを特定しないといけません。まず派閥側に、誰に渡したのか、単に「○○議員側」とだけでなく、資金管理団体など具体的な宛先が書かれたリストが入手できるかが重要です。そして、受け取った側の保管状況ですね。資金管理団体が管理しているのか、議員個人が使ってもうなくなってしまっているのか。そこも立件に向けたポイントになってくると思います。

――特捜部が政治家の「共謀」を認定したとして、起訴の有無の判断というのは金額でも分かれるとされていますね。

そうですね、明確な基準があるわけではないのですが、数百万円以下であれば不起訴、数千万円なら在宅起訴の可能性がそれぞれ高いのではないでしょうか。

問題は1千万~2千万円のケースですが、犯罪の結果である金額と犯行態様、その他の悪質性を加味してケースバイケースで判断するでしょうね。従来の感覚だと1千万円なら起訴されないのですが、今回は派閥がらみの組織的、長期的な悪質性が大きいので、判断が変わってくる可能性があります。

――私もかつて検察担当でした。特捜部は贈収賄事件を常に狙っており、政治資金規正法違反は「形式犯」であって、あまり熱心ではなかった印象があります。今回は多数の検事が応援に入るなど、大規模な捜査を展開しています。

確かにそうですね。ただ、今回は金額や規模が大きく、政権を担ってきた自民党の中核派閥で起きていることです。結局、この仕組みで生み出された金で派閥の勢力を維持してきた面があるわけですよね。なので、一議員が裏金を作っていたという次元を超えていると思います。

すでに指摘したように、政治資金規正法は「抜け穴」があるわけですから、今回の事件をきっかけに、最終的には法律が改正されるところまでいかないと、政治改革にはならないと思います。改正のポイントを個人的な意見を申し上げれば、一つは政治資金の透明性を高めるため、現金での授受はやめて、収支報告書も完全にデジタル化して一般公開すること。もう一つは、パーティー券という実質的な寄付になっているこの仕組みの規制です。

あとハードルは高いですが、そもそも集められる政治資金に上限を設けることですね。

――今回の捜査で、特捜部は押収品や供述など、政治家をめぐる様々な情報を入手することになりますね。それらが別の捜査の端緒になる可能性はあるのではないでしょうか。

当然ですね。特に家宅捜索で押収されたものは、その意味では捜査当局にとって「宝庫」なので。