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寄付、なぜ日本は少ない?教育の課題、NPO側も責任…村上玲さんと今井紀明さんが対談

World Now 更新日: 公開日:
対談した今井紀明さん(右)と村上フレンツェル玲さん
対談した今井紀明さん(右)と村上フレンツェル玲さん=東京・築地、関根和弘撮影

日本人、なぜ寄付しない?

今井 イギリスの慈善団体の最新(2023年版)の調査によると、日本人の寄付指数は世界142の国と地域中、139位でした。2022年も下から2番目、2021年は最下位です。日本の寄付が少ない理由を村上さんはどう考えますか。

村上 おっしゃる通り、対GDP(国内総生産)比でみても、日本は先進国の中で圧倒的に寄付額が少ないですよね。理由の一つに、小さい頃の体験、寄付教育とでも言うのでしょうか、そういうのが足りないと思います。

私自身、寄付や社会貢献に興味を持つようになったきっかけを振り返ると、小学校のころに、父(投資家の村上世彰さん)に連れられて、一緒にボランティア活動をしていた経験が大きいです。例えば週末を利用して、ごみ拾いボランティアのNPO法人「green bird」の活動に参加し、原宿から渋谷まで歩いて清掃活動をしました。

当時の私にとって、原宿や渋谷は、中学生とか年上の人たちが遊んでいるキラキラしたイメージだったんですが、活動に参加してみて、こんなにごみがたくさん落ちているんだと、小学生ながら、ここに社会問題があるんだという気づきがありました。

また、カナダの高校に留学していたころ、月に1回、教会がやっているホームレスの人たち向けの炊き出し活動にも参加しました。食事を受け取った彼らが泣きながら「ありがとう」って言ってくれて、その時、私自身も幸福感と言いますか、いつか社会貢献をしたいなと思うようになりました。

今井紀明さんと対談する村上フレンツェル玲さん
今井紀明さん(右)と対談する村上フレンツェル玲さん=東京・築地、関根和弘撮影

あるレポートによれば、寄付をされた人よりも、寄付をした人の方が心理的な変化が起きるようです。自分のお金を誰かに寄付して、その人に感謝してもらったり、社会が変わったりすると、すごく幸福を感じるのでしょう。

そういう体験を小さい頃からしていると、大きくなっても「もう一度やってみたい」という気持ちが残り、将来の行動がどんどん変わると思います。

カナダもそうですが、欧米だと学校や教会において、子どもたちの日常生活の中で寄付やボランティアをしようという環境になっていて。こうした寄付文化というのはもちろん、宗教と結びつているからこそという面もあるのでしょうが、それにしても日本でも同じような状況になれば変わってくるのかなと思います。

今井 なるほど。日本でも昔からお寺に対する寄付やお中元、お歳暮の文化とか、隣人同士で与え合う文化はあったかもしれませんね。ある種の公共的な概念というか。

ただ、寄付教育という点で言うと、確かに日本では、学校に通う子どもたちの授業以外の過ごし方って、部活動中心になってしまい、多種多様な、例えば地域との関わりとか、ボランティアとかに時間を割く余暇のようなものが少ない気がしますね。それが寄付の少なさにつながっている部分はあると思います。

村上 そんな日本でも、実は寄付の金額は徐々に増えているんです。ただ、その半分くらいはふるさと納税です。ふるさと納税をする人は、返礼品目当てのような意識もあるでしょうから、社会貢献に対する寄付かと言われるとちょっと難しいところもあるとは思います。

あともう一つ、寄付金が増えている理由として、亡くなった個人の遺言に基づき、相続人らが遺産を公益法人などに寄付する「遺贈寄付」がかなり増えていることがありそうです。

自分が亡くなったあとも次の世代にちゃんと社会をよくするような資本を残していきたいと考える人が増えてきているのかなと思います。

今井さんは孤立した10代の支援に取り組まれていると思いますが、一方で日本では高齢化が進み、高齢者の孤立もまた大きな問題となっています。

寄付は、そういった方々が社会との関わりを持つきっかけにもなるでしょうし、その意味でも、やっぱり寄付をする側のプラスの効果というものがあるなと思います。

寄付低調、「NPO側にも責任」

今井 10代の孤立を支援するために僕たちが運営しているNPO法人D×Pは、2022年度は2億円ほどの財務規模で、そのうちの9割は寄付金で運営しています。その活動を通じて日本で寄付が広がらない理由を考えてみると、NPO側の問題もあるのかなと。

NPO側がいただいた寄付を何に使っているのか、その説明がまだまだ不足しているのではないかと思っています。寄付で運営するNPOなどに対しては、いわゆる「中抜き」批判というのがあって、NPOが活動する際に人件費がかかるんですが、「寄付金を人件費に使うな」みたいな批判が根強くあります。

NPO側も寄付の使途やその意義をしっかり説明しないと、いつまでも誤解や偏見などが根強く残っていくと思うんです。

村上フレンツェル玲さんと対談する今井紀明さん
村上フレンツェル玲さん(手前)と対談する今井紀明さん=東京・築地、関根和弘撮影

例えばD×Pの場合、寄付のうち、「5割か6割は人件費で使います」と必ず話すようにしていますし、「スタッフの給与も大阪府の平均給与並みには上げていきます」ということも明かしています。給与アップした際は発表もしました。

まずは寄付の使途をクリアにし、その上でなぜ、人件費がかかるのか、すなわち単に寄付の仲介をするだけではなくて、人が介在して支援をする必要があるのか、ということを説明するようにしています。

うちの例で言うと、経済的に困窮している10代を支援するのに、食糧支援や現金給付だけで状況が改善するわけではないんですよね。人に頼ったり、人とつながったり、話したりすることで、自分の生活を取り戻し、就職や進学ができるようになるというのが現実です。

お金やものだけを渡して終わる支援はあり得ないんです。そういったことを、NPO側がSNSなども使って丁寧に伝えることで、寄付をしてくれた人も納得感があるでしょうし、寄付という文化も広がっていくのだと思います。

あとはテクノロジーが寄付文化を育むのではないかなと思うこともあります。最近だとスマホの「エイドル」というアプリがあって、登録されている団体ごとに50円からサブスク支援をすることができます。

村上 今井さんがやられているアプリもジャンルを選んで寄付できますよね。

今井 はい、solioですね。自分が興味のあるジャンルを選んで寄付できるサービスとしてsolioは作りました。

村上 私が代表を務める村上財団が寄付先や支援先を考える際、寄付をしたお金がより大きなインパクトを社会に与えるようにしたいという思いがあります。

なので、それこそD×Pも支援させていただき、活動を見させていただいてますが、人件費がかかったとしても、スタッフが支援対象にしっかり入り込んで課題に取り組むことで、支援がより効果的になると思うんです。

そういったことをしっかり説明すれば、「人件費がかかっているから怪しい」ということではなく、理解してもらえると思います。

村上フレンツェル玲さん
村上フレンツェル玲さん=東京・築地、関根和弘撮影

あと日本では、慈善事業に対して「自分の身を削ってやっている」という見方がある気がします。NPOのスタッフの給与がなかなか上がらないという問題も聞きますが、これも「身を削ってやってることでしょ」みたいな偏見がすごくあるのも一つの原因ではないかなと思っていて。

持続的な事業としてうまく回っていくためには、「死にものぐるいで、身を削ってやっている」ということではだめで、収支もしっかり見ながら、優秀な人が集まるよう、給与もしっかり支払うということが必要だと思います。

今井 そうですね。自分を犠牲にしてみたいな考えって、日本の中で強くあると思っていて、ただ、それで活動を続けていける人ってほぼいないんですよね。個人ならできるかもしれませんが、組織として続けられているところというのは、ほぼないですね。

村上 本当にそう思います。あと、NPOが活動をする上で、信用というのは本当に大事だと思います。寄付金が適切に扱われていないという事件がしばしば明るみになり、NPO全体として不信感が持たれてしまうということもあるかなと思います。

例えば、村上財団も関わっている仕組みで言うと、大阪府が一定の基準に基づいて選んだNPOに対し、NPOがクラウドファンディングで寄付を募るとともに、財団も同額をNPOに寄付するということをやっています。

行政が連携することでクレジビリティ(信用力)もつくので、私たちもこれをモデルケースに全国のほかの自治体でも広げられないか考えています。

今井 確かにそうですね。行政とNPOの連携という点は重要だと思っていて、行政の支援が足りない、制度から抜け漏れてしまうケースをまさに僕らのようなNPOがカバーできると思っています。

政府を始めとする行政は課題への対応に時間がかかります。例えば、新型コロナウイルスの関係で最初の緊急事態宣言が出たとき、D×Pの活動はまだ、相談支援だけだったんですが、ある17歳の高校生から、親が経済的に困窮し、食べていくことができないという相談を受けたんです。

それがきっかけで、食糧支援や現金給付を始めることになったのですが、決断のスピードも、寄付で運営しているNPOだからこそできたんだと思っています。これが行政の委託事業のような、お金の使い道が決まっている事業の場合は即座の対応が難しかったと思います。

NPOは規模の小ささを逆手にとってフットワーク軽く動くことができ、寄付を使わせていただければ、支援を柔軟に変えることもできます。それは小さいかもしれないですが、セーフティーネットの役割を果たしています。

こう考えると、寄付は社会をよりよくする、もっと言えば、社会の形をつくる資本とも言えます。そんな観点からも寄付に注目が集まればいいなと個人的に思っています。

対談する今井紀明さん
対談する今井紀明さん=東京・築地、関根和弘撮影

村上 今井さんに100%賛同します。行政の人たちはどうしても現場に入り込んでいないので、そこでどんなニーズがあるかを把握するのは難しいですよね。それに対し、NPOの方が圧倒的にスピード感もあって、場合によっては政策提言もできると。

限定的に起きた問題ではなく、日本全体として必要だということであれば、もう仕組みから変える、法整備をするということがあり得るでしょうし、そのための政策提言もNPOには期待しています。

今井 D×PもLINEによる相談窓口「ユキサキチャット」で得た情報をもとに、政府の分科会などの場で政策提言してきました。事業を通じてデータを集め、分析し、提言までつなげる。この流れは大きいですね。

そこで改めて重要だと思うのが、「伝える力」だと思います。先ほど話題になった寄付金の使途を説明するということも含めて、特にNPOの代表が社会に対して活動や団体についてどう発信していくかという問題ですね。

特に寄付型のNPOだと、個人や企業、様々な立場の人に訴えかけている必要があり、それぞれで用いる「言語」は結構違っていることがあります。僕自身、その難しさを痛感してきました。ここ最近の5、6年でようやく財務基盤が固まり、落ち着いて伝え方などを学ぶ余裕が出てきましたが、そもそも、そういったことを学ぶ場も少ないんですよね。

あと財務の話で言えば、NPOを始めるときに、一定程度の資金がなければその後成長は難しいという課題も感じました。

村上 NPOを運営する人たちにも起業家をサポートするアクセラレータープログラムのようなものが必要だと思います。最初の走り出しをしっかりサポートしてくれるような仕組みで、右も左もわからないという状態ではなく、ベースの知識やノウハウを共有できるようにするという。

今井 本当にそうで、スタートアップNPOの支援はとても重要だと思います。今はクラウドファンディングもあるので、昔に比べたら資金集めをしやすくなりましたが、最初の1、2年は1千万円、1500万円ぐらいは必要です。なぜかと言うと、それで広報担当者が雇用できるんですね。

しっかり話せる広報担当がつけば、事業でなぜ寄付が必要なのかも含めて世の中に訴えることができます。

政策への関心、女性政治家の方が高い?

村上 先ほど政策提言の話が出ましたけど、提言に賛同して、サポートしてくれる政治家の存在が重要だと思うのですが、逆にそういった政治家がいないと、政策提言まで進まないのではないかと、NPOの活動を見て思っていて。

今井 そうですね。それはとても大事だと思います。政策のヒアリングに熱心に来られる政治家の方は、与野党とも女性が多い印象です。女性議員の比率が低いにもかかわらず。

もちろん男性議員もいますが、女性議員の方が関心の度合いが強いのかなと思います。

村上 子どもの貧困や、働く女性の支援に取り組む上で、女性の政治家の存在は大きいですよね。女性の政治家の方が、子どもや家庭の支援、教育、介護などに関する政策提言が多いという研究結果もあるようです。

そこで寄付から少し離れるのですが、村上財団では今、政治家や政治的なリーダーになりたい女性を支援するという新しいプロジェクトに取り組んでいます。

知られているように、日本はジェンダーギャップ指数で低迷しており、特に政治分野での遅れが目立ちます。女性の政治家が増えてこの問題が解消されると、NPOの活動や政策提言にとってもプラスになるのではないかと思っています。

今井 あと、被選挙権ももっと下げるべきだと思います。欧米や韓国だと18歳前後から議員や首長選に出ることができます。選挙権は18歳からあるにもかかわらず、被選挙権年齢が25歳、知事や参議院議員は30歳からというのは、10代や20代の意見を取り入れにくい社会だと思っています。また、子育て世代になるとなかなか政治活動をするのは難しいと思うので、もっと若いときから政治参加できるようにすることで女性も参加しやすくなるのではないかと思っています。

村上 私も被選挙権の年齢は下げるべきだと思います。衆議院と参議院で年齢制限が違うというのも根拠がないと思いますし。若い人の声が届きにくい政治が続いていると思いますので、年齢の引き下げでそうした世代間格差が解消されると思います。

対談を終えて談笑する村上フレンツェル玲さんと今井紀明さん
対談を終えて談笑する村上フレンツェル玲さん(左)と今井紀明さん=東京・築地、関根和弘撮影