1. HOME
  2. World Now
  3. 寄付や募金の「中抜き」批判を考える NPOやNGOが支援活動する意味、義援金との違い

寄付や募金の「中抜き」批判を考える NPOやNGOが支援活動する意味、義援金との違い

World Now 更新日: 公開日:
支援活動をしているイメージ写真
写真はイメージです=gettyimages

10代の若者たちの「孤立」を解決するため、LINEで相談を受け付ける認定NPO法人「D×P(ディーピー)」の理事長を務めている今井紀明です。

先日うれしいことがありました。D×Pに小中学校時代の同級生たちが寄付してくれたのです。

彼らにとって、NPOという組織は決してなじみのあるものではなかったようでした。それでも、「NPOってよくわからないけれど、応援するよ」と言ってくれて、自分の組織について「信頼が少しずつ積み上がってきたのかもしれない」と思えた瞬間でした。

ただですね、昨年末に以下の記事を書いたら、Twitterで「NPOは中抜きしているし、信頼できない」というコメントの嵐がきました汗。

「中抜き」、つまりNPOに寄付しても、直接支援する物資やお金になるのは一部であって、人件費やその他の経費として使われてしまうのではないか、という指摘です。そういったことがあって信頼できないと、多くの人が感じているのでしょう。

ちなみによく義援金と支援金・寄付・募金の違いとは何かと聞かれますが、義援金は「被災者一人ひとりに分配されるお金」であるのに対し、寄付や募金はあくまで「支援する活動に役立てられるお金」です。お金を被災者に直接届けるのか、あるいは支援団体や支援活動などを通じて間接的に届ける(活用する)かの違いです。

今回はこのうち、寄付に焦点を当てたいと思います。

NPOへの信頼感は増しているのか

ここで一度、NPOへの信頼について考えてみましょう。

例えば、D×Pは寄付がこの1年強で2倍近くになっているので、確かに信頼感は増えてきてるかもしれません。ただ、NPO全体だと信頼感や寄付金が増えているかどうかはわかりません。

こうした中、お金配りで有名な前澤友作さんが新しいサービスを始めました。

今までできなかった個人間のダイレクト寄付ができるという面白いアプリです。いわば、直接支援。個人でチャレンジしたい人や困窮している人にダイレクトに支援できる仕組みです。

これにより、個人で誰かに「支援をしたい」と思ったときにプロジェクトを立てるハードルが下がりました。

純粋に困っている人に直接寄付ができたりすることができるのは便利だし、個人が社会に貢献しやすくなったとも言えるでしょう。

そして、このサービスが立ち上がった時に聞こえてきたのは「これでNPOによる中抜きがなくなる!」という声でした。

冒頭で話した通り、「中抜き」批判は日本では数十年前からあって、特に国連やユニセフなど、国際協力機関に寄付する際に言われてきました。

NPOが寄付をうまく使うことで、支援活動の成果を効果的に上げることもできるのですが、日本だと寄付を人件費に使うということが「けしからん」という批判もあり、僕も様々なNGOに関わっていた時から聞いていました。

ただ、実際にNPOの経営を始めると、困っている人にお金を届けるだけでは支援の成果は出づらい可能性があることがわかりました。

例えば、「10代の孤立を解決する」ため、D×Pもコロナ禍で困窮している若者に現金給付支援を実施。その額は合計3418万円(2022年5月26日現在)になりましたが、お金だけで一人暮らしで親に頼れない子どもたちの現状を解決することは難しいのです。なぜなら、困窮している状態の若者は複数の問題を抱えているからです。

問い合わせの時点で若者たちの6割がガスや電気代を滞納したり借金を抱えていたり。長引くコロナ禍の影響で精神疾患を抱えていたり、仕事を探す必要があったり、公的支援の申請を自分でしなければいけない状態であったり、です。

そこには誰かに相談して、一緒に問題解決に向けて動く必要があります。相談に乗りつつ公的支援につなげることや、就職までサポートしていかなければD×Pが達成したような成果は出せなかったと断言できます。

「中抜き」と批判されていますが、実際に人が動くことで成果が出ているならば、私は人件費をかけて支援することは大切なことだと思っています。

(2021年度の人件費率は5割ほどに現状はなっています。上記は財務諸表を見ながら以前、noteに解説記事を書いているので、より詳しく知りたい方は読んでみてください)

NPOは様々な分野において、重要な活動を展開しています。例えば、子どもの教育問題では、政府の対応の遅れを補う形で迅速に支援したり、貧困問題では、皆さんもよく知っているような年末の炊き出しなどの食糧支援をしたり、環境問題では、多くのNPO、NGOが政府に対して政策提言したり…。

国家や企業がどうしても解決に動けていない、あるいはまだ知られていない社会課題を掘り起こし、解決に向けて活動したり、指摘したりするNPOの存在は貴重です。

もちろん、個人間の直接的な寄付もいいと思います。ただ、同時に、現金だけの直接寄付は自己責任論を助長しそうな心配もあります。その意味でも、NPOが活動する意義があるのだと思っています。

「中抜き」と批判する人に伝えたいこと

福祉の分野で言えば、支援とは本来、お金だけではなく、人との関わりで話を聞いてもらい、受け止め、仕事や生活などを一緒に考えることです。

お金だけ渡して「できないならば、あなたが悪い」にしたくないですよね。お金だけ渡して「はい、頑張って」は支援や福祉を切り捨てたものになると思ってます。

NPOの存在価値ってそこにあると思っていて、寄付型でも人件費はかかるし、寄付した金額全てが現金給付や食糧支援などの支援になるわけではないです。しかし、そこに人が関わるプロセスがあるから、良い支援ができると思います。

だからNPOに寄付する意味はあると考えます。お金だけではない、様々な支援ができるから。

もちろん、寄付されたお金をできる限り無駄なく、効率的に使う必要があると思っています。しかし、「中抜き」だと考えているだけでは支援も進まず、またNPOが成長する機会も失っていくでしょう。

D×Pもスタッフが業務委託合わせて20人以上いますが、寄付が増えていくことで支援がより多くできるようになり、組織の様々な制度が充実し、幅広い人材募集ができるようになってきました。

繰り返しになりますが、NPOを育てていくことは、政府や企業がどうしても課題解決できないことに声をあげ、解決していく仕組みを作っていくことにつながっていきます。

政府の動きを座して待つのではなく、自分たちで積極的に社会を作っていく仕組みを育てられます。

そのことを一緒に考えることができたら、と僕は思います。

最後に。

僕はスマホのアプリを使い、ジャンルを選んで寄付できるサービス事業を始めました。アプリ名も会社名も「solio」と言います。

なぜこの事業を始めたのか。そこには自分のNPOだけではなく、多くのNPOに寄付が集まる環境を作っていきたいという思いがあるからです。

多くのNPOが現場や政策提言などで奮闘する中、もっと資金的なリソースがあれば、と思っています。

継続の寄付だけだと年間500万円ぐらいの寄付ができるぐらいですが、solioがきっかけで個人から数十万、数百万単位などもつなげることができて、うれしいものです。

自分たちで自分たちの社会を作る。寄付はその一歩になり得ると思っています。社会を作ること、そのための手段としての寄付――。そんなことをこれからも皆さんと一緒に考えることができればうれしいです。