1. HOME
  2. World Now
  3. 【鵜尾雅隆】学校でお金の話をしよう。子どもに教える「ファースト・キフ」の体験

【鵜尾雅隆】学校でお金の話をしよう。子どもに教える「ファースト・キフ」の体験

Global Outlook 世界を読む

――寄付教育とは具体的にどのような取り組みでしょうか。

FR協会は、社会課題の解決に取り組むNPOなどの資金集めを支援しています。その重要な柱の一つが寄付です。寄付教育では、どういう社会活動をしているところが寄付を必要としているのか、寄付したお金が何に使われるのか、どういう活動に寄付をしたらいいのかなどを生徒たちが学んだうえで、社会課題の解決に取り組む団体を選び寄付します。

――なぜ寄付教育は重要なのでしょうか。

FR協会が2017年に公表した調査によれば、日本の1年間の寄付金額は7700億円程度で、米国の約30兆6600億円に比べて非常に少ないのが現状です。ですが、その日本でも今年はコロナ禍で寄付がさかんになっています。例えば、大手クラウドファンディング(CF)の「READY FOR」が行っている、「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」があります。医療や福祉など、コロナ禍に対し現場で活動する人々を支えるお金です。ここにすでに8億円以上の寄付が集まっています。

とはいえ、多くの人が言うのは、そもそもどこに寄付したらいいのかわからないということです。11年の東日本大震災の時にも寄付への関心が高まりました。ただあの時は何に寄付をするかがわかりやすかったし、寄付先の活動も見えやすかった。今回は一口にコロナ禍での社会課題の解決といっても非常に範囲が広いため、どこに寄付をしたらいいのか迷ってしまう。ならば、若いうちに学べばよいのではないかと考えたわけです。

鵜尾雅隆さん(本人提供)

――先行する米国の状況を説明してください。

米国ではコロンビアやスタンフォードをはじめ、300以上の大学で導入されています。財団からの助成金である1万ドル(約105万円)の支援先を学生が選びます。地域社会の課題を分析し、解決に取り組む団体の現場に行ってスタッフと意見を交わします。日本でも米国をモデルに、16年から東京学芸大学付属国際中等教育学校で選択授業の一つとして同じように行われてきました。

――授業はどのように進めますか。

社会貢献とは何かを知ることから始め、現代社会の課題について考えます。寄付先は、FR協会などが推薦した団体の中から生徒が選びます。16年と17年はFR協会がそれぞれ30万円の資金を提供、18年は生徒自身がCFで30万円を集めました。

寄付候補の団体に、どのような活動をしているのかプレゼンしてもらい、議論をして決めていきます。本物のお金を扱うことで、責任感や真剣さが芽生え、お金の大切さを肌で感じ、有効に使うにはどうしたらいいかを考えます。「ファースト・キフ」の体験です(笑)。

――授業を経て、生徒たちにはどのような変化がありますか。

世の中に多くある社会課題を遠い話ではなくて、「自分ごと」として考えられるようになります。社会活動に対する評価軸のようなものができるのです。授業を受けた生徒の中には寄付や社会貢献に関心を持ち、大学になってNPO活動に足を踏み入れた人もいます。

――授業を受けて変化があるのですね。

内閣府の14年版「子ども・若者白書」によると、日米欧など7カ国の13~29歳の調査対象者のうち、「社会現象が変えられるかもしれない」と答えた割合が日本は30%程度にとどまっています。他の6カ国と比べて顕著に低く、ある種の無力感というようなものが若者の中にあります。しかし、寄付や社会貢献について学ぶことで、自分たちも社会で何らかの役割を果たすことができると理解します。NPOのリアルな活動にふれることで、寄付の大切さを実感できるのです。アフリカに行ってボランティアはできなくても、数十円のワクチンで1人の子どもを救うことができる。数百円の自分のお小遣いでできることがあるとわかります。

――授業時間はどれぐらいでしょうか。

気軽に受講できるように、授業時間が10時間ほどの比較的短いプログラムを開発しました。多くの人に支援していただきたいと、寄付教育の授業を全国に広めるためのCFを今年行い、500万円あまりが集まりました。

私たちの活動を知った兵庫県立小野高校の高校生から連絡が来て、第1弾として11月から授業を始めました。高校3年生の10人ほどが、社会貢献とは何か、何を評価すればいいかを学び、寄付の候補先のNPOと実際に意見を交わしました。その様子やNPOの活動を動画にして全校生徒に公開し、どこのNPOに支援したいかを投票してもらったうえで寄付先を決めます。受講した生徒は、自分たちは寄付を必要とする人と寄付する人の間の「架け橋」となりたい、今後も寄付や募金を続けていきたいと意欲的です。

――寄付教育の「壁」はありますか。

金融教育なども同じかもしれませんが、学校でお金の話をするのはどうか、という考え方もあるようです。しかし、人生とお金は切っても切れないもの。ぜひ正面から考えてほしいと思います。

――本物のお金を扱いますが、不正はどう防ぐのでしょう。

生徒がお金に直接ふれることはありません。お金は事務局であるFR協会が管理し、寄付先に振り込みます。そこは慎重に取り組みます。

うお・まさたか 国際協力機構(JICA)などを経て、2009年にNPOの資金集めを支援するNPO法人、日本ファンドレイジング協会を創設。寄付や社会的投資を促進する活動や専門家の育成、政策提言などを行っている。