人間の目では感知できないほどの瞬きを繰り返す照明が、水田を見下ろす。山口大学の山本晴彦名誉教授(農学)の研究室が、光害からイネを守るために開発した照明だ。
山本名誉教授が、同大の付属農場の水田で街灯があたる部分のイネの生育が周りのイネと違うことに気づいたのは、2000年代初頭のことだった。ゼミ生に研究を指導し、イネが夜の街灯を日光と認識することが原因とわかった。イネは夏から秋にかけて日が短くなる時期に穂を出す。だが、照明により夜間を日中と勘違いすれば、出穂期が遅れて、収穫量や品質が落ちてしまうのだ。
イネの生育に影響を与えないためには、どうすればよいか。
高度経済成長期以降、日本では、水田地帯の中にも、次々と家やマンションが建てられた。イネの光害を考えて、街灯を設置しないと、夜間の犯罪などの心配が出てくる。一度は、イネが光と感知しづらい青色の光に替えることも検討したが、それは、人々に不安感を与えてしまう色合いだった。
「どうしたら人間の暮らしと農業が共存できるのか」。考えた結果、開発したのが、人間の目には連続した光として認識されるが、イネには断続的な光として感知される、瞬く街灯だった。研究室ではベンチャー企業もつくり、この街灯を全国で数千本販売した。
都市型の農業が広がる現在、光害による影響は、イネにとどまらず、枝豆(未成熟な大豆)やホウレンソウでも生育の問題が報告されている。ただ、光として感知されないための点滅の速さはイネと同じというわけではない。それぞれの植物に応じてどういう環境下であれば光が害にならないのか、新たな研究が必要だという。