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ゲームを楽しみながら社会課題の解決、カギは「ヒーロー欲求」 元テレ東社員が起業

スタートアップワールドカップ 更新日: 公開日:
取材に応じる山田耕三氏
取材に応じる山田耕三氏=2024年9月15日、東京・築地、関根和弘撮影

――御社の事業を改めて詳しくお聞かせください。

企業や政府、自治体向けにDXソリューションを提案しています。その中でゲーミフィケーション(ゲームの要素をゲーム以外のものごとに取り入れること)と報酬インセンティブの仕組みをうまく活用しています。

――本戦が迫ってきたスタートアップワールドカップの東京予選では、社会課題の解決に取り組んでいるという趣旨の発言もありました。一方で、公式サイトなどを拝見しますと、ゲームのプラットフォームのような事業も展開されているようなのですが、いったいどちらが主体なのでしょうか。

おっしゃるとおりで、今の説明は社会課題の解決という方に重点を置きましたが、同時によりよいエンターテインメントを作っていくことも創業当初からぶれずに持っている目標です。

通常は、社会課題の解決とエンタメというのは完全にセパレートされていますよね。前者は世の中や世界に暮らすみんなのために何かをすること、後者は、特にゲームはあくまで個人的な楽しみのためにやるものだと。

でも私たちはそう考えていなくて、この両者はコインの裏表とみなしています。この両面を追求していることが弊社の特徴であり、ユニークな点だと思います。

ただ、一方でゲームエンタメの側面だけに注目され、「なるほど、では任天堂やソニー、アメリカのEpic Games、中国のmiHoYoと競争するわけですね。どうやって渡り合うつもりですか」と言われることがあります。

普通に考えたら渡り合えるわけがありません。でももし、こうした既存のゲーム業界に対抗できるとすれば、逆説的に聞こえるかもしれませんが、社会課題の解決に取り組むしかないと思っていて、このインタビューが終わる頃には、「なるほど、そういう形で任天堂やソニーとエンタメの観点でも伍(ご)していくのか」と納得していただければいいなと思っています。

――私自身、国際報道に携わる中で、複雑で取っつきにくい国際ニュースをどうやったらユーザーに届けられるのか試行錯誤する中、誤解を恐れずにいえばニュースをもう少し「エンタメ化」したらどうだろう、と考えたこともあります。なかなかうまくいっていないのですが、こうしたイメージに近いものでしょうか。

おそらく気持ちは同じだと思います。社会課題の解決に取り組む場合、一番の問題は持続可能性だと思うんです。色んな企業や国、自治体、あるいは個人レベルでも、様々な社会課題への取り組みがなされていますが、単発で終わってしまい、なかなか続かない。啓発イベントなども開催されますが、1日とかで終わってしまいます。

でもほとんどの課題というのは継続的で、終わりのないものです。そこで、ゲーム性を取り入れて、楽しみながら無理なく取り組むことができるのであれば、持続可能性が担保されるというわけです。特にスマホで簡単に遊べるカジュアルなゲームの形をとれば、相性はよりいいですよね。

――例えばこれまで、どんな「ゲーム×社会課題の解決」の事業事例がありましたか。

東京予選でも紹介しましたが、一つには東京電力とやっている「ピクトレ ぼくとわたしの電柱合戦」です。

まちの至る所にある電柱に注目したゲームで、プレーヤーはチームを組んでいただき、スマホで電柱の写真を撮影してアプリ内でアップしてもらいます。もしその電柱がほかのチームのものになっていなければ、スマホの位置情報を使って「制圧」という形で認定され、制圧した電柱同士をつないでいって最終的にはその長さを競います。

「ポケモンGO」など、スマホの位置情報を利用したゲームはよくありますが、私たちのプロダクトの特徴は、実は撮影した電柱などの写真は東京電力にも共有され、設備の不具合などを早期に見つけることに役立っているんです。

「ピクトレ」を楽しむ様子がわかる動画=DEA社関連のYouTubeチャンネル

こんな事例もあります。「遠隔ゴミ分別ゲーム」です。JETRO(ジェトロ=日本貿易振興機構)から補助金を得て、廃棄物処理のDXに取り組むRita Technology株式会社と共同して取り組む試みなのですが、ごみ施設内のベルトコンベヤーに載せられたプラスチックや瓶、リチウムイオン電池といったごみを、インターネット経由で装置を遠隔操作して分別し、早さや正確さをクレーンゲームのような感覚で競います。

ごみ問題という社会課題に対し、楽しみながら関与することができます。年末にはミニeスポーツ大会を開いて競ってもらおうと考えています。労働としても実際に導入できるのか実証実験する意味合いがありますし、新潟と長野、フィリピンからそれぞれ5人組のチームが出場する予定ですが、メンバーには子どもとお年寄り、障害者が含むことというルールを設けて、多様性もテーマにしています。うまくいけば企業と組んで事業としても取り組みたいと考えています。

「遠隔ゴミ分別ゲーム」のプレーの様子がわかる動画=山田耕三氏のYouTubeチャンネル

これらの事業でもう一つのポイントは、プレーすることで「報酬」も得られるというところです。普通、ゲームって自らお金を払って遊ぶものですよね。もちろん、無料でできるゲームもありますが、うちのようにゲームをすることで逆に稼げるというのは珍しいですし、これがあるから、ユーザーを引き寄せます。先ほど申し上げた「社会課題に持続的に取り組む」ことにもつながると思っています。

そして、こうした考え方は、既存のゲームメーカーとはまったく違いますし、業界にイノベーションを起こすと思っています。

――それはどういうことでしょうか。

ゲーム業界というのは、あらゆるエンターテインメントの中で最ももうかっているジャンルで、市場規模は世界で約30兆円、ゲーム人口は約30億人いると言われています。

一方で、ビジネスモデルは多くの場合、コンテンツを楽しむユーザー側からお金を得る形を取っています。でもビジネスを成立させる方法というのは何もユーザーからお金を取るモデルだけではありません。

例えば僕が勤めていたテレビ東京のような民放では、番組やコンテンツをユーザーには無料で提供し、広告ビジネスという、いわばコンテンツの「外側」で経済を回すということをずっと前からやってきていますし、マネタイズとしても隆盛を極めています。

デジタルの分野でも同じです。GoogleやFacebookが基本、ユーザーには無料でサービスやツールを提供できるのは、同時に巨大な広告ビジネスを成立させているからですね。

でも、ゲーム業界では「お客様のお財布からしかお金はいただけません」という、何か「鉄の掟(おきて)」のようなものがあって、僕にとっては本当に不可解でした。

創業当初、出資をお願いしようと思って、こうした広告モデルをあるゲーム会社の方にプレゼンしたことがあるのですが、「意味がわからない」と。僕にしてみれば、「意味がわからない」ことの意味がわからなかったんですが(笑)。

そのときは一瞬心が折れたんですけど、でも逆に考えたら、これは弊社にとってはチャンス、競合他社に対して優位にもなるなと思ったんです。というのも、既存のゲーム事業者がこの決まりに縛られるのならば、彼らのマーケットは30兆円、30億人ですよね。一見、これはものすごく巨大なものに思えるのですが、それはゲーム好きな人に限られていて、逆にゲームをやらない人は、年齢や経済力などを無視して乱暴に見積もれば50億人のさらに巨大なマーケットが広がっているんです。

――でもその50億人にどうやってゲームをやってもらうのでしょうか。そもそもゲームをやらない人たちなのですよね?

そこなんです。なぜ50億人がゲームをやらないかと言えば、これも乱暴な言い方になってしまいますが、既存のゲームが現実逃避の無駄なものだと感じているからだと思うんですよ。

でもだからと言って、この50億人は決してゲーミフィケーションされたものであるとか、エンターテインメントそのものが嫌いなわけではないと思うんです。なので、ゲーム性を持たせた上で、こういう人たちに行動変容を促す最大の要因は、「ヒーロー欲求」だと思っています。「誰かのために何かしたい」という欲望です。これってあまり「商品化」されていません。お金を出してこの欲求が満たせることって、ある意味、募金とかぐらいなんですよ。

ヒーロー欲求を満たしつつ、ゲーム性を持たせるようなコンテンツは何だろうとチームで議論した結果、先ほど紹介したような社会に貢献できたり、社会課題の解決につながったりする形にたどり着いたんです。

ピクトレの例で言うと、あるユーザーがX(旧Twitter)でつぶやいていましたが、自分が見つけた電気設備の不具合を、作業車がやってきて早速直しているのを目撃したと。世の中の役に立ったということがうれしかったんだと思います。ピクトレでプレーしたことで具体的に世の中を変えることにつながったというある種の快感は、コンテンツとしてはすごい可能性を秘めていると思います。

「ピクトレ」のプレーの様子を伝える動画の一場面
「ピクトレ」のプレーの様子を伝える動画の一場面=DEA社関連のYouTubeチャンネルより

だからこそ、この取り組みは業界を変えると思います。「ユーザーからお金をもらう」という既存のモデルでは限界があって、もうかる事業者はほんの一握りです。例えば近年のヒット作と言えば、西部開拓時代をテーマにしたアメリカのゲーム「レッド・デッド・リデンプション」やイギリスの犯罪アクションゲーム「グランド・セフト・オート」、日本の「ウマ娘 プリティーダービー」などがあります。それなりに開発費用も巨額になったでしょう。それでも数百億円というところ。1千億円かけられるかと言えばできません。限界なんです。

でももし、脱炭素に資するようなゲームができるということになれば、それこそいくらでも資金は集まると思います。なぜか。それは脱炭素という問題が世界的な社会課題だからです。だからこそ、ピクトレでは東京電力にプロジェクトとして提案したんです。社会課題を念頭に置くならば、社会的な責任感の強い企業と組んだ方がいいもものができますから。

そして、このような社会課題はほかにもたくさんあります。地方創生、動物愛護、障害者雇用……、それらに対して何らかの解決に資するということであれば、莫大なお金が集まる。つまり巨大なマーケットとなり得るということです。

――社会課題の解決にもつながって、かつエンタメとしても面白いゲームを作るという両立は可能なのでしょうか。

僕たちはそれを目指しています。先ほどの話ですけど、どうやって任天堂やソニーと伍(ご)していくのか、という問いに対する答えはこれです。任天堂やソニーが現状、狙うことができない市場を狙いに行きます。そしてその市場は今のゲーム市場よりはるかに巨大なお金が流入するポテンシャルがあります。僕たちの動きを見て、既存のゲーム事業者も変わらざるを得ないと思っています。

――ヒーロー欲求を満たすこと以外にも、プレーすることで「報酬」が得られるというのもゲームをやってみようと考えるインセンティブになると思いますが、御社が発行する暗号資産(仮想通貨)を報酬としていますね。暗号資産と言えば、ハッキングの対象や詐欺、不正換金、暴落など、悪い印象もあります。それでもなぜ、暗号資産を充てているのですか。

おっしゃるとおり、うちは報酬として暗号資産を充てています。「DEAPcoin(DEP=ディープコイン)」という自社発行の暗号資産で、円といった法定通貨にも換金することができます。なぜ暗号資産を報酬にしているのかと言えば、僕たちはプロジェクトやプロダクトを日本だけでなく、世界に広げていきたいと考えているからです。

例えばピクトレにインドやブラジルといった、日本以外のユーザーが「参戦」するようなことも想定しています。ユーザーを日本に限定するなら、報酬は日本の法定通貨である「円」、あるいは円に交換できるポイントのようなものでもいいと思うんですけど、海外の人にとってはそれだと不便です。国際送金の手間や手数料、スピードなどを考えたとき、いずれも暗号資産の方が利便性は高いです。

それに弊社のゲームが「Play to Earn」、つまりプレーすることで稼げる、ゲームでの達成が社会貢献にもつながることがコンセプトである以上、各ユーザーの行動や貢献度のようなものを小さなものでも評価し、報酬という形できっちりと還元することが必要だと考えています。

だとすれば、今後のことを考えれば、web2と呼ばれるこれまでのインターネット技術で作られたデータベースと法定通貨システムを使うより、次世代のインターネットであるweb3、その代表的な技術のブロックチェーン、つまり暗号資産を使った方が効率的なんです。

今はまだ、web2でもweb3でも仕組みはどちらでもかまいません。ピクトレでも、このプロジェクトへの出資金は法定通貨で入ってきますし、さらにその一部がユーザーに還元されている以上、報酬も暗号資産だけに限定せず、Amazonギフト券でも受け取れるようにしています。

しかし、今後は社会全体でweb3の仕組みがもっと進んでいくのは間違いありません。例えば、国も暗号資産の一種であるステーブルコイン(価格の安定性を実現するよう設計された暗号資産)を検討し始めましたし、web3技術に基づいた分散型金融サービス、DeFi(ディーファイ、Decentralized Finance)がさらに拡大するとも言われています。僕たちは来たるべき将来を見すえ、web3ベースで(報酬の仕組みも含めた)プロダクトやサービスを構築しています。

もちろん、暗号資産にネガティブなイメージがあるのは確かです。相場が安定しないし、大型のハッキング事件など、事実犯罪に悪用されています。でもこれははさみの議論と同じで、はさみが凶器に使われたとしても、それは悪用する人の問題であって、はさみそのものの利便性を否定するものではないわけです。要するに使う側の問題です。

ですから暗号資産の利用についてもマネーロンダリング対策などの議論とは不可分ですが、それは根本的な問題ではないと考えています。

暗号資産(仮想通貨)取引所「コインチェック」(東京)が不正アクセスによって約580億円分の暗号資産が盗まれ、記者会見するコインチェック幹部ら
暗号資産(仮想通貨)取引所「コインチェック」(東京)が不正アクセスによって約580億円分の暗号資産が盗まれ、記者会見するコインチェック幹部ら(左)=2018年1月、東京都中央区

――ヒーロー欲求という考え方や、ユーザーからお金ももらわず、コンテンツの「外側」で経済を回してマネタイズすることなど、随所にテレビ局時代の知見が生かされていると感じました。いかがでしょう?

おっしゃるとおりです。逆に言えば、ゲームに関しては素人だったからこそ、業界の掟に縛られることなく、開発ができたんだと思います。

テレビ局時代は、バラエティー番組や音楽番組の制作を担当していました。テレ東に入って最初に携わった番組は「愛の貧乏脱出大作戦」です。みのもんたさんが司会の番組で、借金を抱えて経営難に陥った飲食店などに対し、再起する機会を番組側が与えるという内容です。

番組ではよく、店の人同士が感情むき出しになって対立したりするシーンが映し出されるのですが、ここで僕が学んだのは、誰かが大声で怒られていると、人は思わずチャンネルを止めてしまうということです。やっぱり気になるんですよね。こうやって人の感情を揺さぶる要因は何なのかということについて分析する機会を得ました。

テレ東はほかのテレビ局と比べてあまり予算がなく、有名なタレントさんをふんだんに起用できるわけではありません。そんな制約の中、視聴者をくぎ付けにするにはどうしたらいいかということを考えざるを得なかったので、僕に限らず、各プロデューサーやディレクターはクリエーティブなセンスが磨かれたと思います。

テレビ東京社員時代、社長賞に選ばれて同僚と記念撮影する山田耕三氏
テレビ東京社員時代、社長賞に選ばれて同僚と記念撮影する山田耕三氏(中央)=本人提供

一方、マネタイズについて言えば、僕らがどれだけ徹夜して番組を作ったとしても、視聴者からは1円もいただかないわけなので、それを裏側で支えるスポンサー企業の方々にもメリットが生じるようにする必要があります。広い意味で広告と言えば広告なんですが、エンターテインメントをフックにして視聴者の購買行動や行動変容を促す仕組みを考えることにも精通するようになりました。

番組を作るのには二つの方法があって、一つは、編成局が募集する枠に企画を提案して実現するケースです。もう一つがスポンサーしてくれる企業を口説いて、企業のお金で番組を制作するケースです。

もちろん前者が王道であり、制作担当としてはあこがれる方法です。僕も何度も提案しました。だけど、新しい技術を取り入れるなどした実験的な内容ばかりだったので、全然認められなくて。編成局のロジックもわかるんですよ。彼らも今までヒットした番組の傾向から、どんな企画が当たりそうなのかという分析していますから。でもそれだと、そもそも前例のない新しい企画は通らないってことになりますよね。なので実際、提案が認められる人は何度も通るし、逆に通らない人はまったく通らないという…。

その代わり、僕は後者のケースで成功しまして。代理店をはさんだものもあれば、直接企業といっしょに作ったこともあります。とにかくたくさんの企画番組をたくさん作りまして、年間で数億円規模の案件をものにしたこともありました。

番組自体は視聴者が楽しめるだけでなく、スポンサー企業にとってもメリットがある形にしないといけません。常にスポンサー企業の要望やお悩みを聞いて、放送ルールを守りつつ、かつ視聴者にいやな思いをさせずに最大限、企業側の意図を伝えるという、視聴者、スポンサー企業、テレビ局にとって「三方よし」のエンターテインメントに仕立てるわけです。こういう経験が今まさに生かされていると思います。

で、ここまでくると会社員として働いているのがなんだかもったいないなと思うようになったんです。数億円規模の売り上げに貢献しても、給料も変わらないですし。

それで2017年いっぱいでやめて、番組制作会社を設立しますと伝えたところ、テレ東からは当時僕が実現させた二つの番組について、僕の会社に制作を業務委託してくれたんです。テレ東では前代未聞の円満退社だったんじゃないですかね(笑)。

テレビ東京で、自ら制作に携わった最後の番組を終えて同僚たちと記念撮影する山田耕三氏
テレビ東京で、自ら制作に携わった最後の番組を終えて同僚たちと記念撮影する山田耕三氏(中央)=本人提供

――そもそもテレビ局に入ったきっかけは何だったのですか。

僕は東京大学法学部に進学したのですが、最初は周囲の学生に流されるように資格試験の専門学校に入り、弁護士を目指して司法試験の勉強しようとしたんです。なので身が入るわけもなく。1単位だけ残して自主留年し、司法試験を目指そうとしました。気分転換のつもりでテレビ局の就職試験を受けたところ、テレ東に拾ってもらったという次第です。

テレビ局の採用に応募する中で、自分が本当にやりたいことはエンタメじゃないかと思うようになったんです。振り返ってみれば、ゲームも好きでしたし、学生時代はいつもビデオカメラを持ってみんなを撮影して回るようなキャラクターだったんですよ。編集も自分でやったりしてね。

「関西人」なので、面白いことを言ったり、人を笑わせることが大好きで、バンドも組んでいたり。テレビ局でもバラエティーや音楽の番組をやらせてもらったのもちょうどよかったんですよ。

――シンガポールで起業したのはどういう理由が?

先ほども話したのですが、起業する中で、web3を使い、暗号資産を発行することは決めていたんですね。でも日本は当時、規制が厳しくて。例えば暗号資産を発行した「発行体」(企業)は、その暗号資産が流通せずに自社で保有している場合、発行量に対して期末の含み益として課税される仕組みになっていたんですね。

特にスタートアップにとっては厳しい決まりで、いきなり初年度で倒産するということもあり得たんです。これは通称「渡辺創太さん問題」と呼ばれていて、Astarという暗号資産を発行した企業の創業者、渡辺創太さんがこの問題に直面し、シンガポールに事業拠点を移さざるを得なくなったことにちなんで名付けられました。

今はもう税制が改正されましたが、僕らが創業した当時はまだそういう状況だったので、起業する場所はシンガポールかスイスかという選択になり、スイスは日本から遠いのでシンガポールにした、という経緯です。

取材に応じる山田耕三氏
取材に応じる山田耕三氏=2024年9月15日、東京・築地、関根和弘撮影

――最後にスタートアップワールドカップ本戦に向けての意気込みを聞かせてください。

正直、勝ち抜ける自信というのはあまりありません(笑)。というのも、web3を代表するブロックチェーン技術を使ったNFT(Non Fungible Token、非代替性トークン)バブルが崩壊するなど、結局、世の中をよくするためにブロックチェーン技術っていったい何ができるんだという疑問に対して、答えとなる明確なプロダクトはまだ生まれていません。そして今はAIの方に投資家の関心も移ってしまっている。

僕らはweb3の技術で世の中をよくするためのプロダクトやサービスを地道に作っています。それを本戦では知ってもらい、web3に絶望して去っていった人たちにももう一度、「web3ってまだ使い道はあるんじゃないか」と期待感を与えられたらと思います。