ビドゥヤ・ライさんは会計士。25年以上にわたり、主に海運業界で働いた後、「これからの人生は自分の学んだことや経験を社会のために役立てたい」と財団に加わることにした。今は、若者の支援に携わっている。「自分がこの財団で何をやりたいかを考え、若者の支援をすると決めました。インドは若い国だけれど、多くの若者が街角に立って長時間ただおしゃべりをしたり時間をつぶしたりしているのを見てきました。彼らは人生で一番生産的な時期を無駄にしてしまっている、と感じていたのです。これは雇用がないから。雇用されるためにはパソコンや英語でのコミュニケーションなどのスキルが必要なんです」
財団では、18~25歳の若者を対象に、ムンバイなど16の地域で週6日、雇用を目的にしたトレーニングを1日8~9時間、5週間提供するプロジェクトを行っている。
中学・高校などで習った英語を「職場で使える英語」にするためのロールプレイングやプレゼンテーションの練習をし、パソコンスキルなども学ぶ。「多くの若者がここでのトレーニングを経て自信をつけ、変化して、職を得ていきます。シングルマザーの家庭など、恵まれていない境遇から、何とか未来を変えたいと参加する人たちも多くいます。彼らが機会を得て、これまでとは違う未来に向けて一歩を踏み出していく姿を見るのは本当にうれしいことです」とライさんは話す。
サラユ・カマットさんは銀行業界や通信業界で30年以上働いてきた。「コロナ禍の時に、私は人生で何をしたいのか、何をすべきかを考えたのです。そして、社会に恩返しをしたい、自然環境の回復の仕事をしたいと思いました。自然が好きだったし、人間が地球にダメージを与えてきたと思いましたから」。1年間生態系回復について米国の大学で学んだ後、財団に加わり、西ガーツ山脈の森林再生プロジェクトに携わることになった。
森林を伐採して燃料などに使ってしまった結果、インドでは森林破壊が深刻な問題になっている。西ガーツ山脈もそういった地域の一つだ。カマットさんたちは植林をし、土砂が流出しないように雨水をせき止め、野生動物たちが戻ってくるように池をつくり、放牧中の牛が育ち始めた植物を食べないように監視をしている。その結果、成果も出始めた。カマットさんは「自然の再生力はすばらしくて、鳥などの野生生物も少しずつ戻ってきました。鳥のさえずりを聞いた時、本当に嬉しかった」という。
財団の共同創設者でCEOのサリカ・クルカルニさんはプロボノの女性たちについて「彼女たちがいることで本当に助かっている。貢献は計り知れない」という。
ビーナ・シャーさんは建築家だ。自身のスタジオを経営する傍ら、週の半分程度は財団の仕事に携わる。財団では女性支援の一環として、地方の女性たちにバッグや壁飾り、敷物などの布製品の作り方を教えている。シャーさんの生家が布地を扱うビジネスを行っていたため、マーケティングや販路の開拓などを手伝っている。「クルカルニ夫妻は、社会に報いたいと財団を始め、着実に成果を出すことをめざしている。その理念に心を打たれ、手伝いたいという人が集まっている」という。
マダビ・ラウリさんは弁護士。財団の法務関係の仕事を担う。「(CEOの)サリカが、私たちを信頼して任せてくれているので、本当に仕事がやりやすい」と語る。
プロボノの女性たちが、これまでの社会経験を生かして活躍し、そして目に見える成果を出して社会を変える喜びを得る。それによってさらに財団は活動を広げ、深化させて、変化が持続的なものとなっていく。ここには好循環が生まれているようにみえる。