1998年のNPO法制定直後から、政治とNPOの取材を続けてきた。
どちらも「公共」の担い手で、社会を良くするという目標を共有している。その手法が異なり、政治は法や制度をつくり、NPO(社会的企業も)は現場で課題に取り組む。
最近、どんどん両者の距離が近くなってきたと感じる。NPOが現場で解決しても、解決策を広げるためには政策化が重要だ。だから政策提言に力を入れるNPOが増えている。他方で社会が複雑化、多様化して社会課題も増え続けている。政治家や官僚といった政策作りの当事者は全ての現場を網羅することはできない。現場も解決策も知るNPOなどに頼らざるを得ない。
企業や富裕層のNPOへの姿勢も変わってきた。以前は世間に見せるための「アリバイ」のようにNPOなどに寄付していた企業も多かった。富裕層も、税控除を得るために財団などを作り、「こういう社会を作りたい」という理念がよく見えないまま寄付する人たちがいた。
けれども、本気で社会課題解決に取り組む企業が、顧客や働き手から支持されるようになってきた。NPOが成熟、専門化して、社会課題の内容や解決策、アイデアを企業がNPOから学ぶことも多い。
富裕層も「自分のお金で社会がこう変わる」という効果を見て実感したい人が増えてきた。だから、野村証券はREADYFORと組む。こうした例は他にもたくさんある。
変化は特に若い世代に顕著だ。本特集の取材で、32歳のエンジニアの小林泰士さんに寄付をする理由について尋ねると、彼は「……質問の意味がよくわからないんですけど……」と答えた。彼にとっては、寄付はあまりに当たり前のことで、趣味でおいしいお酒を飲むのと同じこと。あえて理由など考えたこともない、ということのようだった。
若い人のこうした反応を見るのは初めてではない。30代のNPO運営者にも以前、「なぜ社会貢献をしたいのか」と質問して、戸惑われたことがあった。
生活が大変で、社会のことなど考えていられないという人たちもいるだろう。けれども、「寄付文化がない」と言われてきた日本で、若い世代には明らかに変化が起きている。「社会を良くしたい。そのために自分ができることをする」という姿勢が自然と身についているのだ。
それはごく簡単に言うと、日本にも世界にも社会課題があふれるなか、NPO法ができ、約5万(ちなみにコンビニは5万5000店)あるNPO、あるいは社会的企業が生まれ、活動しているからだろう。ネットも発達して、手軽に課題を知り、寄付をすることも可能になった。また、NPOや寄付の出し手が「インパクト(成果)」にこだわるようになってきたのも最近の傾向だ。これは、ラー財団や韓国の例に見られるように、ビジネス出身者が財団やNPOに流入していることとも関係している。そこで問われるのは、政府の政策のあり方でもある。
とはいえ、ビジネスの手法だけでは課題を抱える人びとに寄り添ってきめ細かく一人ひとりの状況を見ながら解決し、インパクトを出すことはできない。政府も一つひとつの現場を知らない。NPOや社会的企業が政府や企業を巻き込んでこそ解決が可能になる。ただ、米国の起業家の例のように、本当に社会のためなのかわからない寄付もある。自分のためなのか、社会のためなのか、そこはきちんと見極めたい。
富裕層でなくてもできることはたくさんある。1000円の寄付は多くの価値を生み出す。現場に出かけて課題を実感し、ボランティアをする。問題がいっぱいの世の中、社会は1人では変わらない。でも、1人が動くことから変革が始まる。