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貧困をなくすために何ができるか 見つけた答えがエシカル・ジュエリーだった

Breakthrough 突破する力
撮影:シバサキフミト

多くのジュエリーは「負の現実」を断ち切れていない。発掘や製造の段階で労働や環境の問題がつきまとう。

国連によると、金の採掘に使う水銀が最大の水銀汚染源だし、鉱山で働かされる児童は世界に100万人もいる。映画「ブラッド・ダイヤモンド」では、ダイヤモンドをめぐる紛争や密輸、強制労働が描かれた。

HASUNAのアクセサリーに使われているのは、こうした「負の現実」とは無縁の素材、つまり、エシカルな素材だ。 中米・ベリーズの貝殻、ミクロネシアの真珠、コロンビアの金……。エシカルといえる素材はまだ少なく、知り合いのつてやネットを頼りに、地道に取引先を開拓している。

アフリカ・ルワンダからは牛の角の加工品を輸入している。元青年海外協力隊員の日本人女性が工房を立ち上げたと聞き、旧知のNGOに紹介してもらった。工房で働く若者たちは元ストリートチルドレン。この女性が協力隊時代に携わった職業訓練で加工技術を身につけた。

HASUNAの従業員は、白木を除いて5人。素材の調達やデザイン、製造、営業、販売と、白木は1人で何役もこなす。

飛び込みの営業でエシカル・ジュエリーの意義を説き、期間限定販売などの実績を重ねてきた。

「ジュエリーは人から人に贈られて笑顔を生む。背後に悲劇があってはいけない」。そんな思いが白木を動かしている。

子供のころ、ファッションや芸術関係の仕事にあこがれた。幼稚園の時にはすでに小物をつくるのが好きで、釣り好きの父の誕生日に、フェルトの魚の飾りを手縫いでつくってあげたこともある。

芸大か美大へ進もうと考えたが、「夢物語ではやっていけない」と両親に反対された。短大に入ったが、将来の夢を描けない。そんな時、写真家・桃井和馬の講演を聴き、環境汚染や飢餓、貧困に直面する途上国の現実を知る。「ファッションやアートで自分の内面を表現しようとしていたエネルギーを、誰かのために使う生き方があるのではないか」

短大卒業後、開発や国際協力を学ぼうと英国の大学に留学した。

夏休みに南インドの30以上の村々を訪ねた際、ある大理石の採掘現場で大人も子供も黙々とトンカチで石を砕いていた。食事は日に1度。木の根を食べ、早朝から働く。笑顔はない。こういう絶対的な貧困を何としても解決したい、と決心した。

英国留学の後、ベトナムにある国連人口基金の事務所やアジア開発銀行の研究所にインターンとして飛び込んだ。貧困をなくすため、自分の力を最も生かす道は何だろう? 答えを求め、国連の職員、NGO関係者、商社マンら100人を超える人々に話を聴いた。

国際協力の世界は「援助する人」「援助される人」で完結している。貧困をなくすには援助の専門家だけでなく、普通の人をもっと巻き込んでいかなければ──。そう考えていたときに出会ったのが、香港出身のデザイナー、クリスティーナ・ユーだ。

ユーは独自ブランド「Ipa-Nima」のバッグをベトナムでつくっている。欧米で人気があり、米国務長官のヒラリー・クリントンも使っている。

かわいいバッグも、つくり手の表情も、使う人の顔も、みんな輝いていた。「ファッションの仕事をしたい」という思いがよみがえってきた。

途上国で商品をつくれば雇用が生まれる。それが貧困の解消につながるかどうかは、売れ行きにかかっている。

白木は06年、ビジネスのノウハウを身につけようと東京で投資ファンド会社に就職した。未明に帰宅後、始発で出社する毎日。「目標実現のため」と仕事に没頭し、残業は月150時間を超えた。軽い鬱(うつ)と診断されたこともある。

1年半後、忙しい部署を離れ、何をするべきかを考え始めた時、英米のエシカル・ジュエリーを知った。

これだ。自分が探し求めていたものとぴったり重なった。迷わず会社をやめてHASUNAを立ち上げた。

だが、資本金150万円は2カ月で底をつ いてしまう。

「業界で経験がない」と金融機関に融資を拒まれ、事業に猛反対する父親に泣いて土下座した。「やっと見つけた本当にやりたいこと」。頭を下げて回り、両親ら10人が600万円を出資してくれた。

経営コンサルタントの夫、山崎真忠は「社会を変えたいという思いだけでビジネスはできない」と反対していたが、「いつの間にかひきずりこまれた」と笑う。

「苦しくても、どう社会に貢献できるかを考えて挑戦し続けている。つい助けたくなっちゃう」。今では毎晩の夫婦の会話が経営会議だ。

「うちのジュエリーはエシカルです。ぜひ扱ってください」。そんな白木の商談を、東京・新丸の内ビルでジュエリーショップを営む黒田祐子は何度も断ってきた。

ある日、これで最後と2時間かけて話をした。志は立派だが、エシカルが言い訳にも聞こえてしまう──。そう思いながら、はっきり言った。「いまのデザインでは女性がきれいに見えない」

素材の持ち味を生かすデザインやエシカルの意義だけでは振り向いてもらえない。アクセサリーとして正当に評価されないといけない。白木はそう痛感した。

身につける人を美しくするジュエリーとは? ジュエリーショップで他社のデザインを研究し、街角で女性のコーディネートを観察した。

1カ月後、白木は黒田のもとに新商品を持ち込んだ。

「エシカルを抜きにして顧客に薦められるレベルになっていました」と黒田。HASUNAの売り場が初めて常設されることになった。

2年目の売り上げは、前年の3倍増の4000万円。早くも黒字に転換する見通しだ。3月22日には、初の直売店が東京・南青山にオープンする。

デザインしたいのは、商品の外観だけではない。発掘から製造、流通もエシカルにデザインして、真の美しさに貢献したい。

そんな思いが「貧困をなくしたい」という学生時代からの夢と結びつき、膨らみつつある。(文中敬称略)
(築島稔、文中敬称略)

自己評価シート

独自に挙げたのは2位の「共感(感動)力」だ。

インドの大理石採掘現場で働く人たちにも、結婚を決めて指輪をつくりにくるカップルにも共感する。「それが仕事の原点なんです」

1位に選んだのは「行動力」。「目的が定まったら、いま何が足りないかを考え、すぐ行動する。もやもや感が我慢できない」。短大卒業後の進路を見ると、その言葉にうなずける。

母親の恵美子さんは「子供のころは積極的ではなかった」と驚く。ただ、白木さんいわく「教育熱心な家庭で、外で遊ぶこともなかなか許してもらえなかった。敷かれたレールの上を歩いている自分の姿に嫌気がさして、独自の道を歩むことに執念を燃やしているのかも」。

中米・ベリーズ製の貝殻加工品輸入に協力する日本人は言う。「やりたいことが決まらず、何もできなかった時が一番つらかった、と言っていました。何かをせずにはいられない人なんでしょう」

「行動力」を支えるのが「独創性・ひらめき」だ。投資ファンド会社への就職もエシカル・ジュエリーの起業も「ピンときた」という。また、「持続力・忍耐力」について、夫の山崎真忠さんは「思い定めたことを曲げず、少しずつでも前に進むコツコツ力がある」と評価する。