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社会的起業家を育てるシリコンバレーの「ミラーセンター」 メンターは成功した起業家

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ハンドメイドの刺繡入りアディダスのユニホームと作り手の女性たち(Someone Somewhere 
提供)
ハンドメイドの刺繡入りアディダスのユニホームと作り手の女性たち(Someone Somewhere 提供)

カリフォルニア州のシリコンバレーは、テクノロジーを中心に多くの企業が生まれ育つ。中心部にあるサンタクララ大学のキャンパスは、陽光がまぶしく海が近くて開放的な雰囲気だ。学内には社会起業家を支援するための「社会起業家精神のためのミラーセンター」がある。

金銭的利益と社会課題解決の両方をめざすのが社会的企業だ。特に起業に焦点を当てる時は社会的起業ともいう。ミラーセンターは2003年、社会的起業という言葉が今よりもずっとなじみが薄かった時代に発足。アジア、アフリカ、南米を中心に100カ国以上、1500人以上の起業家を支援してきた。貧困の根絶を目標に、特に女性の経済力の向上と、気候変動対策に関連する社会的起業支援に力を入れる。

「シリコンバレーという地の利を生かした支援で、起業家と支援者、大学を結び付ける、いわばエコシステム(生態系) を形成している」と語るのは同センターのエグゼクティブディレクター、ブリジット・ヘルムスさんだ。多様な人が関わって、社会的起業を通じて社会を変えようという試みだ。

ミラーセンターのエグゼクティブ・ディレクター、ブリジット・ヘルムスさん=2024年6月、アメリカ・サンタクララ、秋山訓子撮影
ミラーセンターのエグゼクティブ・ディレクター、ブリジット・ヘルムスさん=2024年6月、アメリカ・サンタクララ、秋山訓子撮影

1回の支援プログラムの期間は半年で無料。シリコンバレーで成功した起業家がメンター(助言者)として2人つく。「最初に、起業家が何を必要とし、メンターが何を提供できるのかをじっくり話し合う。以降は、基本的に1週間に1度の定例ミーティング。起業家は製品やサービスが実用化に至るまでに開発費や人材が枯渇する『死の谷』に陥りがちだが、そこを越えるように支援するのが目標」とヘルムスさん。一度修了すれば、プログラムは何度も受けられる。

メキシコを拠点に、伝統的な刺繡(ししゅう)などの手工業を用いてバッグやポーチなど洗練された製品を仕立て、適正価格で販売する「サムワン・サムウェア」。2014年創業で、2017年から6期にわたって支援を受け、今年からサッカーのユニホーム作りでアディダスと提携することが決まった。

創業者のアントニオ・ヌノさんは「環境や社会的な目的を犠牲にせず事業を成長させたいと思っていたとき、このプログラムは非常に役立った」という。「メンターは投資家とのミーティングにも同席し、条件を交渉するときなどいろいろアドバイスをくれて助かった」

アフリカのケニアで、電動バイクを製造販売する「キリ EV」は、メンターにサプライチェーン(供給網)の問題を指摘された。サンタクララ大学にサプライチェーンを専門とする教授がいたため、教授も支援チームに参加した。

ミラーセンターは社会的企業への投資の「仲介」もする。「ミラーセンターキャピタル」は、自己資金に加え、投資家からの出資を募り、これまでに1970万ドル(約29億円)を29の事業に投資してきた。ヘルムスさんは「高利益は上げられなくても、長期にわたり穏当な利益を出すことをめざす」と話す。

学生の関心も高い。同大学には社会的起業を学ぶ授業があるが、「2003年には約15人しか履修しなかったが、今年は866人に増えた。学生はビジネスにもパーパス(存在意義)を求めている」とヘルムスさんは意義を強調した。