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イスラム教徒はノンアルコールなら飲むのか?多民族国家、マレーシアで調べてみた

World Now 更新日: 公開日:
観光客向けのバーが並ぶ繁華街
観光客向けのバーが並ぶ繁華街=2024年6月2日、マレーシア・クアラルンプール、中川竜児撮影

先進国でお酒の消費量が減る一方で、拡大を続けているのがノンアルコール・低アルコール飲料市場だ。しかし、世界にはそもそも「お酒はNG」の国もある。イスラム教徒が多数を占めるが、多民族国家でもあるマレーシアで、ノンアル事情を探ってみた。

狭い路地を挟んで、こっちの屋台はお酒禁止、あっちの屋台はOK。そんな風景が広がるのが、マレーシア。マレー系、中華系、インド系のほか、先住民族も暮らす多民族国家だ。

過半数を占めるイスラム教徒のマレー系はお酒を飲まないが、中華系とインド系は飲む人たちがいる。マレーシア料理の店だとお酒は置いておらず、中華料理店にはほぼあり、インド料理店は半々、といった具合だ。

ある高級スーパーでは、戒律で禁じられているアルコール飲料や豚肉は、奥まったスペースに置かれ、レジも別になっていた。海外大手ビール会社のノンアルビールもそこに置いてあり、「非ムスリム向け」と断り書きが貼ってあった。

店員の女性によれば、販売を始めた数年前、政府から「ムスリムの消費者が混乱する」と指摘があり、ビール会社が声明を出し、小売店などに注意書きを掲示したという。

イスラム教徒はノンアルビールであれば飲むのだろうか。タクシー運転手のムハンマドさん(50)に尋ねたところ、「アルコールが含まれていないといっても、ビールという名前がつくなら私は飲まない」ときっぱり。

中心部を離れ、地元のスーパーに行ってみた。「イスラム教徒が買うノンアルコール飲料はありますか?」と尋ねると、「買っているのがイスラム教徒かどうか正確には分からないけど、地元の人が時々買うのはこれ」と、ビールが並ぶ棚の端っこにあった缶を渡された。

スーパーの奥まった場所に並んでいたビールとノンアルコール飲料
スーパーの奥まった場所に並んでいたビールなどのアルコール飲料。わずかだがノンアルコールタイプも置いてあった=2024年6月1日、マレーシア・クアラルンプール、中川竜児撮影

紫色と黄色が鮮やかで、「麦芽飲料ノンアルコール」と書かれている。ホテルに戻ってグラスに注ぐと、黒ビールのような見た目。期待を膨らませて飲むと、予想に反して甘い。辛い食べ物と合わせるのだろうか、と想像を巡らせた。

30代のホテル従業員イズミルさんは「1度だけ本物のビールを飲んだ、いや口に含んだことはある。まだ結婚前で若かったから。1回だけだよ」と小声で明かした。スーパーで買った麦芽飲料について尋ねると、「あれは好きじゃない。時々飲むのはこれ」とスマホで商品を見せてくれた。緑色の瓶で、アラブ首長国連邦(UAE)の製造。しかも戒律に従ってつくられた「ハラール」認証つきだという。

クアラルンプールの路地に並ぶ屋台。「ハラールフード」を掲げており、アルコール飲料は置いていなかった
クアラルンプールの路地に並ぶ屋台。「ハラールフード」を掲げており、アルコール飲料は置いていなかった=2024年6月3日、マレーシア・クアラルンプール、中川竜児撮影

帰国後に通販で購入した。イズミルさんおすすめのリンゴフレーバーで、グラスに注ぐと琥珀(こはく)色。期待は高まるが、泡が消えるのが早い。口に含むと、今度も甘かった。リンゴ味の炭酸ジュースだ。

私が「ノンアルコール」と銘打つ飲み物に期待するのは「お酒らしさ」だが、考えてみればジュースも牛乳も「ノンアルコール」には違いない。わざわざそう書いてはいないけれど。

アルコールを飲まない人にとって、「ノンアルコール」は何を意味し、どんな味なら売れるのか。拡大するノンアル市場だが、この壁は結構高そうだ。