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ブルームバーグTVが15年ぶりに東京特派員 シェリ・アンさんが注目する日本経済の軌跡

People 更新日: 公開日:
シェリ・アンさん。東京を拠点としてブルームバーグのニュースアンカーを務める
シェリ・アンさん。東京を拠点としてブルームバーグのニュースアンカーを務める=2024年7月2日、東京都千代田区、小暮哲夫撮影

――ブルームバーグとしては、久しぶりの東京を拠点とするニュースアンカーとなります。どうして再び日本なのですか。

日本経済の回復を伝え、日本に対する投資家の関心の高まりに応えるために、私だけでなく、シニアのプロデューサーたちも、日本に関する報道を再強化するために派遣され、東京のスタジオを拡張しました。

最近、日本の金融政策に大きな変化がみられ、株主への還元を強化するために株式市場でも多くの努力がなされています。このような動きは、世界で最もエキサイティングなニュースのひとつです。日本の現場で起きているストーリーを伝えていきたいと思っています。

中小企業、スタートアップの現場も

――経済の不透明感などで投資家の中国への関心が薄れていることも、日本にシフトする理由にありますか。

北京と上海には弊社の記者がおり、アンカーは現地の記者と連携しながら香港から中国をカバーしています。中国について幅広く報じていくことに変わりはありません。これまで、グローバルメディアの報道は、日本については、言葉の壁もあって現場に分け入るのが難しく、後れを取ってきました。これを改めて、これまでとは違う角度から、そしてより深く伝えたいですね。

東京を拠点とするブルームバーグのアンカー、シェリ・アンさん
東京を拠点とするブルームバーグのアンカー、シェリ・アンさん=2024年7月2日、東京都千代田区、小暮哲夫撮影

――日本について、とくにどんな分野を報じていきますか。

最初に伝えなければならないのは、円安と、日本銀行の金融政策の変更です。

円安が、輸出企業だけでなく、広く日本経済にどのような意味があるのかに焦点をあてたいと思っています。国際メディアは大企業を取り上げがちですが、これまで報じられてきていない、あるいは、世界が注意を払ってこなかった中小企業、スタートアップ企業のストーリーも伝えていきたいと考えています。この国の経済を回している企業、家庭、そして人に関心を向けていくつもりです。

大企業についても、私はすでに楽天銀行、三菱重工などのトップにインタビューしましたが、大企業も変化を望んでいて、自分たちがどう変化をしてきたかを伝えたがっていると感じています。

「安い日本」の二面性を伝える

――日本への関心という意味では、外国人観光客の増加が顕著です。でも、それは、外国人にとって日本が安い国になったからで、そんな日本経済の状況に複雑な思いを抱く人もいます。

日本の友人たちと話していると、円安で直面している課題を聞きます。海外旅行にも行けず、家庭では物価高に直面しているから、同時に賃金の引き上げも加速しなければならない状況にあると。これらの話は本当に興味深いものです。観光客が海外からやってきて、お金を落としていく半面で、中小のメーカーやベーカリーのオーナーまで、多くのビジネスが原材料のコスト高に苦しんでいます。こういった二面性を、世界の視聴者たちに伝えていきたいのです。

ブルームバーグが日本経済に関心を持つ理由のひとつに、数十年にわたるデフレと停滞からどう抜け出すのか、というテーマがあります。この間、日本は、経済が活気にあふれていなかったにしても、社会的な混沌を伴わずに切り抜けました。日本経済がこれから、当局が望むように回復するかどうかは私たちが日々、報じていくニュースです。

一方で、私が経済ジャーナリストとして、より関心があるのは、日本がどうやってここに至ったかです。ほかの経済的に成熟した国々にも停滞や人口減といった課題が見られるなかで、それは世界にとって教訓になるのではないでしょうか。

シェリ・アン
シェリ・アンさん=本人提供

――以前にはNHKワールドのアンカーを務めていました(2009~2014年)。今回、久しぶりに日本に来て、変化を感じますか。

個人的には、クレジットカードをどこでも使えるようになった、というのは、すばらしいことですね(笑)。

友人たちからは、日本は変化のスピードが遅いとよく聞きますが、日本に投資しようとする側は楽観的です。先日、日本マイクロソフトの津坂美樹社長にインタビューしましたが、マイクロソフトはAIと関連のインフラに対して日本で29億ドル(約4600億円)を投資します。オープンAIも、アジアで初めての拠点を東京に開きました。変化は起きています。どうして彼らが日本に多額の投資をし、楽観的なのか。経済ジャーナリストとして、私はお金の動きを追いますから、そこにあるストーリーを見つけたいと思っています。

多様な社会への変化を注視

――働く環境も含む日本社会についてうかがいます。日本はジェンダーにおける平等や、性的少数者の人たちや移民や難民をどう社会で受け入れていくか、などについて課題があると指摘されています。このような多様性において、日本は変化が遅いと思いますか。

私は多様性の大切さを信じています。ブルームバーグも、すべてを包み込む多様性にコミットしています。こういった課題は、変化とともに解決されるのだと感じます。様々な人々の声や視点が出てくることで、社会も多様性を増すでしょう。私たちはそんな多様な声のいくつかを番組を通じて伝えていきたいと思います。

私のチームの目標は、日本のニュースを非常に幅広く取り上げることにあるので、そこには多様な視点が含まれることになるでしょう。

――日本では、たとえば、同性婚や夫婦別姓が認められていません。外国企業と取引したり、海外でビジネスをしたりする日本企業から見ても、こういった分野での社会の変化は不可欠ではないでしょうか。

私たちはこういった話をこれまでも伝えてきました。先日も、日本の経済団体(経団連)が政府に夫婦別姓を認める法改正を求めたことを、最新のニュースとして報じました。日本発のそういったニュースには注力していくことになります。

多様性について私たちが報じるとき、取締役会のメンバーに多様性があり、社内に様々な声を吸い上げる仕組みがあることは、企業のパフォーマンスを上げますかと聞きます。消費者向けのビジネスをしている企業ならば、女性がもっと経営にかかわれば、多様な視点が製品により反映され、消費者の好みに応えることができますか、といったふうに尋ねます。多様性が、日本の企業や経済を健全なものにするならば、変化は必ず起こるでしょう。

ブルームバーグのニュースアンカー、シェリ・アンさん。東京のスタジオで
ブルームバーグのニュースアンカー、シェリ・アンさん。東京のスタジオで=2024年7月2日、東京都千代田区、小暮哲夫撮影

――アンさんのこれまでの歩みについてもお尋ねします。多様な経歴の持ち主ですね。

私の両親は韓国人で、ボリビアで育ちました。ボリビアに移住したのは4歳のころです。両親が、繊維業などのビジネスをしていました。1980年代は、韓国から中南米にというのはブームだったのです。大学はソウルでした。韓国語はあまり覚えていなかったので、ハードでした。たくさん勉強しました。

自分のアイデンティティーは、ボリビア系韓国人だと思います。ただ、これまでの仕事の大半で英語を使ってきましたし、この数年はニューヨークに住んでいました。20代の大半を日本で過ごしましたので、親友たちはみな日本人です。

――ジャーナリストとしての経験で印象に残っていることは?

国の指導者や経営者など、たくさんの記憶に残るインタビューをしてきましたが、強いて挙げるとすると、2014年に香港に赴任したときのことでしょうか。赴任した最初の週に「雨傘運動」の反政府デモが起きて、カメラマンといっしょに地下鉄の乗り方もわからないまま現場取材に駆け出しました。

東日本大震災のときも印象深いです。地震が起きたとき、東京都多摩市のサンリオピューロランドで、NHKのスペイン語ラジオ放送向けの楽しい取材をしていました。翌朝、NHKワールドのアンカーとして、スタジオにいないといけなかったので、4~5時間かけて何とか都心に戻りました。そして翌朝、ニュースを伝え続けて声がかれました。

――現在の仕事と生活は?

月曜日から金曜日は朝8時からの番組のために、5時に出社します。夜9時までに寝ないといけないので、日曜日から木曜日からの夜は誰にも会えません。金曜日の夜は、旧友たちと会う約束をして、ノミカイ(飲み会)をします。それから日本の生ビールと焼き鳥がとても恋しかったんです。日本に来て、いかに日本がよいかを、再評価しています。世界中の料理がおいしく食べられる日本の食事は世界の中でベストです。

――東京からの番組で、ここまでの視聴者からの反応はどうですか。

私たちが日本に関心を持っていることをたくさんの人々が喜んでいます。私が受け取った電子メールでも、ソーシャルメディアでの反応もかなり前向きで、勇気づけられています。テレビだけでなく、ソーシャルメディアも含めたプラットフォームを通じてより幅広い視聴者に届けていきたいですね。