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富士山より高い場所に地熱発電所を 天空の町ラパス、酸素ボンベは必携

私の海外サバイバル 更新日: 公開日:
地熱発電所のプロジェクトサイト。地熱発電所としては世界最高の標高4980メートルで建設計画が進められている。写真中央が野村明香さん

JICA職員・野村明香さんの「私の海外サバイバル」

■私のON

標高3000メートル以上あるボリビアのラパスで国際協力機構(JICA)職員として働いています。「天空の町」とも言われるラパスは、周囲をさらに高い山々に囲まれており、澄んだ空気の中に独特の景色が広がっています。現在は、南部の5000メートル近い高地に地熱発電所を建設するプロジェクトを進めています。

赴任して2年になりますが、富士山の山頂ほどの高地で空気が薄いため、小走りしたり、食事したりするだけでも息が切れてしまいます。職場にも自宅にも酸素ボンベがあるので、気分が悪くなった時や、なかなか眠りにつけないような時に使います。町には酸素を販売している店もあるくらいです。2カ月に1度くらいはボンベを勤務先の事務所に持っていって、補充しています。ほかに、血中酸素濃度をはかる器具も職場にあり、調子が悪いときに使います。

高地生活に欠かせない酸素ボンベ。体調が悪いときに自分の判断で吸引する

発電などインフラ関係の事業は、国の根幹に関わる仕事なので責任重大です。建設予定地の標高は約5000メートル。一番近い空港まで飛行機で行った後、悪路を車で5時間ほど進んだ先にあります。ボリビアは天然ガスを使った火力発電が中心ですが、今後はクリーンなエネルギーで電力の安定的な供給に貢献したいと思っています。地下に眠っている熱をいかに効率よく使える発電所にするか、ボリビア側の担当者や日本の専門家と計画を確認したり、高地での作業になるので事故なく計画を進めるための対策を練ったりしています。予定地の近くにはフラミンゴの生息地や、ウユニ塩湖への観光客が通るルートもあるので、環境や社会にも配慮した発電所になるように検討しています。

地熱発電所の建設計画サイトの近くにある噴気孔

日本との時差は13時間あります。やりとりは頻繁にありますが、こちらが退勤する頃に、日本の同僚が朝になって出勤してくるので、電話やテレビ会議などで連絡を取り合いながら業務を進めています。南半球のこちらは今が冬。冷え込んだ夜にテレビ会議で半袖の日本の同僚から「おはようございます」とあいさつをされると、ここは地球の反対側なんだな、と実感します。

かつてベネズエラで、JICAの青年海外協力隊として子どもたちや学校の教師などを対象にパソコンのインストラクターを2年間していました。教科書を自作して、現地の学校を回ってパソコンの使い方などを教えました。スキルを身につけるのを手助けし、感謝されたときは私もうれしかったです。

その経験はとても有意義でしたが、一歩引いて考えてみると、世界からは依然として戦争や紛争はなくなっていない、世の中は何も変わっていないのではないか、という無力感にとらわれました。自分のやったことは「大海の一滴」にすぎず、自己満足なのではないか、とも思いました。

ベネズエラにいた2011年、東日本大震災が発生し、被害の様子はこちらのニュースでも報じられました。遠く離れた日本のことを心配してくれるベネズエラの人たちと話していると、日本人として、もっと世界に恩返しをしたいと思うようになりました。

世の中を変えるには、草の根レベルの「国際交流」も大事です。でもその一方で、大局的に「国際協力」を考え、政策や制度そのものから物事を変えていくこともまた重要です。そう考え、青年海外協力隊を終えて帰国した後、JICAの社会人採用試験を何度も受け、2015年に正式に職員になりました。

JICAボリビア事務所のスタッフ。日本人と現地スタッフが力を合わせて日々の業務に当たっている

仕事では、国の政策の決める立場にある人に直接、プロジェクトを説明する機会があります。以前関わっていたベトナムの麻疹風疹の混合ワクチンを製造するプロジェクトでは、なぜいま、この対策が感染症から国民を守るために必要なのかを大臣に直接訴え、理解を得ることができました。現在は、ボリビアの電力公社の幹部などと建設計画についてやりとりしています。JICAには農業、保健医療、水、環境、緊急援助など各分野の専門家も多くいますが、私のようにプロジェクトの進行のために準備や調整をして、さまざまな立場の関係者を支える役割もあります。政策を決定する立場の人と直接話ができる、というのは非常に影響力があることで、大きなやりがいを感じています。

■私のOFF

休みの日は時間をかけて料理をしたり、ボリビア産コーヒーをおしゃれなカフェで飲んだりして、のんびり過ごしています。高地だと沸点が低くなるので、パスタは何分ゆでてもアルデンテ。コメを炊く時には圧力鍋が欠かせないので、異動する前任者からもらったものを使っています。他にも、同僚とギョーザを皮から作ってパーティーをしたり、大豆から豆腐を作ったりしています。

治安は悪くないので、普通に出歩けるのはいいですね。町にはチョリータという、独特の服装をした先住民の人もいます。ボリビアは多民族国家なんだなあと実感します。

ラパスで開かれた祭りにダンサーとして参加

日本から出張で同僚が来るときには、リャマの肉を食べられるレストランによく行きます。日本ではなかなか食べられないものですが、わりと抵抗なく食べられました。あとはジャガイモやキャッサバ、コーンが多いです。ただ、内陸国なので新鮮な魚はなかなか手に入りません。魚が食べられないのがこれほどつらいこととは、ラパスに来るまでは分かりませんでした。

運動はしたいのですが、酸素が薄くすぐに息苦しくなってしまいます。ジム通いをした時期もありましたが、あまり行かなくなってしまいました。

ボリビア国内にはウユニ塩湖やポトシ銀山など名所もあります。また、高地での生活が続くと体に悪いので、標高の低い国に移動して過ごすこともあります。同僚は世界中に赴任しているので、休みを合わせてパナマやペルー、ニカラグアにも一緒に旅行に行きました。

ウユニ塩湖の朝焼け。「自然の前では、自分という存在がなんとちっぽけなことか」と感じたという