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電話の声をAIで解析、それが貧困層支援につながる意外な仕組み

私の海外サバイバル 更新日: 公開日:
2021年11月、開発したシステムの導入を決めた地元銀行との契約セレモニー。右端がアーメッド弥央さん
2021年11月、開発したシステムの導入を決めた地元銀行との契約セレモニー。右端がアーメッド弥央さん(本人提供)

■あこがれの「海外で仕事」、でも疑問も

月額40円で、現在約160万人の登録者がいます。発展途上国だけでなく、日本の東京電力のコールセンターで使われたり、インドで大手企業が商店向けに実証実験を始めたりしています。

元々、海外志向は全くありませんでした。大学の交換留学でアイスランドに行き、日本とは全然違う文化や考え方に触れたことで、「海外で働きたい」という気持ちが芽生えました。

大学卒業後、海外展開しているIT会社に就職しました。ただ、そこでは10年ぐらい働かないと海外に行かせてもらえなかった。3年ほど働き、シンガポールの通信会社に転職しました。

現地での仕事は、インターネット回線や電話回線のセールスでした。海外で働くことに楽しさを感じていましたが、すでに誰もがインターネットも電話も利用していて、市場としては飽和状態。他社とただシェアを取り合っているだけでした。次第に、「自分は何をやっているんだろう」と考えるようになりました。

一方、シンガポールで働きながら周辺国を訪ねたり、インドネシアの貧困地域の子どもたちと遊ぶボランティアをしたりする中で、生まれながらに挑戦するチャンスが限られ、自分の努力ではどうにもならない境遇にある人をたくさん見ました。

自分は日本人に生まれただけで恵まれた境遇にいる。厳しい境遇にある母親や子どもたちの生活を少しでも改善できるような仕事がしたい。そんな思いがどんどん強まっていた頃、バングラで起業した後の夫になるズバイア(41)に誘われ、移住を決意しました。

■スマホもネットもない、ならば

ヒシャブのサービスの最大の特徴は、電話回線を使ってデータをインプットできる、という点です。今はいろんなアプリや便利なシステムがありますが、利用するにはインターネット環境が必要で、スマートフォンなどがなければアプリのダウンロードもできない。でも、そもそも、インターネットが使えない人たちもいるのです。

バングラデシュの首都ダッカの街並み
バングラデシュの首都ダッカの街並み(本人提供)

どうすれば誰もが便利なサービスを受けられるようになるか。そう考えて、どんなに田舎にいても、文字が読み書きできなくても利用できる電話回線を使った方法に着目しました。

音声で入力するとデータが蓄積されます。例えば、商店のオーナーが自分の店の業績を確認したいとき、電話で「売り上げはいくらですか?」と聞くと、音声で答えが返ってくる。日々の仕入れ額なども正確に把握でき、今まで審査にすごく時間がかかっていた融資もスムーズに受けられるようになります。日本のような先進国でも、ITを使うのに難しさを感じる高齢者向けに活用できると考えています。

バングラデシュの首都ダッカの街並み
バングラデシュの首都ダッカの街並み(本人提供)

バングラデシュに来たばかりの頃は、時間が守られない、意思疎通ができず5回ぐらい言わないと伝わらない、といった難しさを感じました。でも、よく起きる停電も交通渋滞も、何でも予定通り進まないことも、ここならではのおもしろみだと思っていました。

時間が経つにつれて、表面的には見えない奥底にある闇を感じるようになりました。公的機関でも重鎮が経営する会社でも、訪れる先々で当然のように賄賂やキックバックを求められ、嫌気がさしました。自由を抑圧するような政治体制にも疑問がわくようになりました。

ただ、「私たちがビジネスをしている人たちは違うところにいる。国のためではなく、一人ひとりにフォーカスしよう」と気持ちを切り替えました。一般的にバングラデシュの人たちは、おおらかで、他人との距離がすごく近い。困っていると、知らない人でも積極的に助けてくれるような温かい人が多いです。

バングラデシュの首都ダッカの街並み
バングラデシュの首都ダッカの街並み(本人提供)

新興国ならではの熱気も感じます。新しいビルが次々と建ったり、数年前はなかった外資系のカフェやレストランがどんどんできたりして、すごいスピードで変化しています。

ビジネスをする上で期日が守られないことは大変ですが、それも見越して色々プランを立てることで、想定よりだいぶゆっくりなペースではあっても、確実に前に進める。期待しすぎず、できることに注力して、受け入れながらやっています。

■子育てしやすい環境

Hishabがスポンサーとなったローカルサッカーチームのユニホームを着たアーメッド弥央さんと家族
Hishabがスポンサーとなったローカルサッカーチームのユニホームを着たアーメッド弥央さんと家族(本人提供)

5歳、3歳、2歳の子どもがいて、仕事以外は子育てに集中しています。子どもが3人になったら一気に大変になりましたが、「ワンオペ育児」などと言われる日本より圧倒的に子育てしやすい。メイドさんがいる家庭が多く、うちでも住み込みの2人がいます。私たち夫婦合わせて大人4人で子育てしている格好です。親戚も多くて、急に出張が入っても、普通に泊まりに来てくれます。

みんな子どもが大好きで、どんなに騒いでも人目が気になりません。ビジネスの場に子どもを連れていっても、むしろウェルカムという雰囲気です。

公園の滑り台の上に手すりがなかったり、多様な文化に触れづらかったりという課題もありますが、仕事と育児を両立しやすい環境だと思います。(構成・中村靖三郎)