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「児童婚」が横行するシエラレオネで根絶へ一歩 厳罰化の新法、大統領が娘の前で署名

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
シエラレオネの首都フリータウンにあるスラム街で、物干しロープにかけられた学校の制服
シエラレオネの首都フリータウンにあるスラム街で、物干しロープにかけられた学校の制服。シエラレオネではこのほど、児童婚の禁止・無効と、児童婚をさせられた少女への金銭的な補償を認める新たな法律が施行された=2022年2月21日、Finbarr O'Reilly/©The New York Times

西アフリカの小国シエラレオネの大統領は2024年7月2日、18歳以下の児童婚を禁止し、成人の配偶者に高額な罰金を科す法律に署名した。これは、広く根付いているこの悪習を根絶するために長年にわたって闘ってきた活動家の勝利といえる。

専門家らによると、新法はアフリカの他の多くの類似法と比べて一段と踏み込んだ内容で、夫や両親や祭司のほか結婚式の招待客さえ含め、児童婚を許容した人たちを処罰することなどが盛り込まれている。

ユニセフ(国連児童基金)は2020年、シエラレオネでは18歳未満で結婚した少女が約80万人おり、その数は同国の少女のざっと3人に1人にあたると報告した。半数は15歳になるまでに結婚していた。また、国際的な人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」によると、少年の約4%が18歳までに結婚している。

新法の下で、児童婚をさせられた人は金銭的な補償を求めることができる。結婚の無効を申し立て、婚姻関係から抜け出す道もある。

アフリカの女性の権利と性の健康を研究するHRWの研究員ベティー・カバリは、児童婚を幇助(ほうじょ)する者を処罰するこの手法を評価し、「私の立場からみて最大の長所は、子どもが孤立した状況下で結婚するわけではないことに着目している点です」と言っている。

児童婚はどれだけ広く行われているのか?

国連の調べだと、毎年18歳未満の少女の少なくとも1200万人が結婚する。6億5千万人以上の少女や女性が子どもの時に結婚している。

児童婚をさせられる少女が最も多いのは南アジアで、世界全体の45%に相当する約2億9千万人を数える。次にサハラ砂漠以南のアフリカ諸国が続き、約1億2700万人で全体の20%を占める。

ネパール東部のラジビラジには、児童婚に反対する看板が立っていた
ネパール東部のラジビラジには、児童婚に反対する看板が立っていた。南アジアは児童婚をさせられる少女が最も多く、その数は約2億9千万人で、世界全体の45%を占める=2019年6月2日、Lauren DeCicca/©The New York Times

児童婚廃絶のために活動している国際人権団体「Girls Not Brides(ガールズ・ノット・ブライズ)」が作った図表によると、児童婚率が最も高い20カ国のうち、16カ国はアフリカの国々だ。

アフリカで20カ国を調査した「Equality Now(イクオリティー・ナウ)」(訳注=フェミニズム系の国際人権団体で、本部を米ニューヨークに置き、英ロンドンとケニア・ナイロビ、レバノン・ベイルートに支部がある)が今年発表した報告書によると、児童婚を全面的に禁止しているのはわずか数カ国で、多くの国では禁止が十分に徹底されていない。

児童婚は、どんな問題を生むか?

児童婚は、しばしば少女の学校中退につながる。また、幼い少女の妊娠は長期にわたる障害やトラウマを引き起こす。

シエラレオネは、出産で命を落とす危険性が最も高い地域の一つで、10代にはより危険性が高い。

「彼女たちは大人になる前に、大人になることを強いられる」とカジジャトゥ・バリーは言う。26歳の学生で、シエラレオネの女性のためのネットワーク組織「Strong Girls Evolution(ストロング・ガールズ・エボリューション)」などのプログラムコーディネーターを務めている。

バリーは10歳のときに家族から結婚するよう迫られ始め、結婚を拒んだために15歳の時に父親から勘当されたという。彼女は、学校をやめなければならないのが心配だったと振り返った。

「児童婚のせいで、女性たちはあまり教育を受けられません」とバリーは言うのだ。

多くの女性は、この国で広く行われている別の文化的な悪習によってさらなる合併症にも直面している。女性器切除だ。世界保健機関(WHO)から人権侵害とみなされているのに、シエラレオネでは、15歳から19歳の少女の約61%が女性器切除の処置を受けており、出産時に深刻な障害を引き起こす可能性がある。

シエラレオネの児童婚禁止はうまくいくか?

2024年7月2日に施行された新法で、子どもと結婚した者は15年以下の懲役刑または5千ドル以上の罰金刑を科せられる可能性がある。世界銀行のデータによると1人当たりの国内総生産(GDP)が2023年は約433ドルだったシエラレオネでは、非常に厳しい処罰だ。

この法律は、結婚にだけ適用されるものではない。成人が子どもと結婚せずに同居し、性的関係を持つことも禁じている。

両親が児童婚に同意することも許されない。祭司は、児童婚をつかさどれない。ゲストは、結婚式に参列できない。それどころか、児童婚を「幇助」した者は誰であれ懲役10年か罰金約2500ドル、あるいは両方を科せられる可能性があるのだ。

この児童婚禁止法は、少女たちを学校に通わせ、女性器切除から守ることで、彼女たちの権利を擁護するシエラレオネの幅広い取り組みの一環だ。

シエラレオネの大統領ジュリウス・マーダ・ビオは国家予算の22%を教育に充て、より多くの女性を政府に採用した。大統領と夫人のファティマ・ビオが児童婚の禁止を推進した。

米ニューヨークの国連本部で2022年9月21日に開かれた国連総会で、演説に立ったシエラレオネ大統領のジュリウス・マーダ・ビオ
米ニューヨークの国連本部で2022年9月21日に開かれた国連総会で、演説に立ったシエラレオネ大統領のジュリウス・マーダ・ビオ=Dave Sanders/©The New York Times

大統領は、彼の幼い娘の傍らで新法に署名したあと、「シエラレオネの将来は女性にあると常々信じてきた」とSNSに投稿した。

Girls Not Bridesのアフリカ担当責任者ネリダ・ヌサンブリは、「私たちは、シエラレオネが他の国々に影響を及ぼすアフリカ大陸のリーダーとなることを望む」と話していた。

児童婚禁止の障害は何か?

ヌサンブリによると、他の国々では児童婚が犯罪となったことでその悪習が地下に潜ってしまい、地域社会が閉鎖的になり、少女たちを児童婚から守る手立てがさらに限られてしまったという。

研究者や専門家らは、新法が実際に効力を発揮するためには、シエラレオネ当局が地域社会、とりわけ児童婚がより一般的に行われている農村部の地域社会と持続的な関係を築く必要があると指摘する。

それは、家族が娘を幼いうちに結婚させることにつながっている貧困を解消することを意味する。また、性と生殖に関する健康について、地域社会を啓発する取り組みを拡大していくことでもあるのだ。

多くの女性や少女は、結婚を拒否したり、婚姻を終わらせたり、補償を求めたりするために、依然として近隣住民や夫、家族に逆らわなければならないだろう。

先述したバリーは、家族からの結婚への圧力をはねのけようとしたため、のけ者にされた。「家族全員が団結して私に反対した」と彼女は言い、「私は家族にとって最悪の人物になってしまった」と振り返った。

彼女は、妹が14歳で結婚するのを止めようとした。しかし、妹は地域社会でバリーがあしざまに言われるのを耳にしていたという。妹は絵の才能があり、ファッションデザイナーになるのが夢だった。

「私は妹を救えなかった」とバリー。「いまでも、そのことを思うと泣けてきます」(抄訳、敬称略)

(Amelia Nierenberg)©2024 The New York Times

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