大気汚染の原因は、森林火災や黄砂、花粉の飛散など自然由来のものと、工場や火力発電所、自動車による化石燃料の燃焼など人間の活動によるものに分けられる。汚染物質は、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)などガス状のものと、大気中を浮遊する液体や固体状の粒子状物質(PM)がある。
近年よく聞く「PM2.5」は、粒径2.5マイクロメートル以下の微粒子を指す。ぜんそくや気管支炎などの呼吸器系疾患のほか、肺がんのリスク上昇や循環器系への影響も懸念される。
人類の大気汚染との闘いは18世紀後半、欧州の産業革命から本格化した。現在も使われる「スモッグ」(smog)は、「スモーク」(smoke=煙)と「フォッグ」(fog=霧)の合成語で、1905年にイギリスで初めて公に使われたとされる。
英国では1952年12月、二酸化硫黄を多く含んだスモッグで数千人が死亡したロンドン・スモッグ事件が起き、これを機に「クリーン・エア法」が公布された。米国でも1963年に大気汚染の規制管理に関する法律がつくられた。
日本では高度成長期の1950~1970年代に大気汚染による公害が増加。三重県四日市市の石油化学コンビナートが排出した有害物質が原因の「四日市ぜんそく」などが社会問題となり、1968年に大気汚染防止法が成立した。
大気汚染の測定には、さまざまなシステムが使われており、世界的な統一基準はない。以前は、紙のフィルターに大気を通し、1日かけて集まったPMの重さを量ることで汚染度を測定した。現在はベータ線やレーザー、人工衛星を使った測定法が使われ、よりリアルタイムに数値がわかるようになった。
目に見えない大気汚染による健康への影響を示すために、大気質指数(Air Quality Index=AQI)があるが、これも名称や算定方法が定まっておらず、各国がそれぞれ調査、発表している。
例えば米国では、環境保護庁(EPA)が0~500の指数で示すAQIを定め、主要都市について0~50の「良い」、101~150の「敏感な人の健康に良くない」、301以上の「危険」など6段階で観測、発表している。
中国も、独自の6段階のAQIを使用。欧州連合(EU)では、「良い」から、「きわめて悪い」まで6段階の指標が用いられている。
日本では、地点別の大気汚染物質ごとの数値がリアルタイムで公表されているが、国による大気質指数は定められていない。大気汚染に関する注意喚起は、光化学スモッグ注意報など、都道府県が発令する形で行われている。
米EPAの基準で世界各地のAQIを調べ、ランキングを出しているのが、スイス企業「IQAir」だ。精度の観点から地上の測定機器のデータを収集、分析しており、2023年の調査は、134の国や地域にある3万以上の観測地点のデータをもとにした。
ただし、アフリカやアジアを中心に十分な観測データがなかったり、公開していなかったりする国々もあり、特にアフリカでは2023年で54カ国のうち30カ国のデータが分かっていないなど、地球規模で大気汚染の全体像を把握するには、データの偏りも課題となっている。
IQAirの科学マネジャーで調査を担当するクリスティー・チェスター・シュローダー博士(42)によると、大気汚染の測定は、技術的な制約からかつては政府機関などに限られていた。だが、この15年ほどで250~1000ドルほどの比較的安価なセンサー機器も開発され、市民が身近に測定できるようになった。
観測データが増えたことで、人体への影響に関する研究も進み、健康リスクへの理解が広がることで、大気汚染への関心はさらに高まっている。
対策には、何より汚染物質を排出しないことが求められるが、「目に見えない」ゆえの難しさがあるとシュローダー博士は指摘する。「正確な測定によって大気汚染の現状を把握し、原因を特定した上で、対策を立てる必要がある」