4年後の今年、ウクライナ戦争でロシアからポーランドへの天然ガス供給が止まったため、地元当局は最も空気を汚す旧式ストーブの禁止措置を延期。村の大気汚染は先月、基準値の4倍に達した。
「国から見捨てられ、やるせない気持ちだ。私にとっては一息一息が警告サインに思える」とユリア・トゥカチュクさん(38)は嘆く。
ポーランド2番目の大都市クラクフの状況はさらに悪い。
大気汚染を計測しているカリフォルニアの組織、エアリーによると、この秋初めて気温が氷点下になった11月20日の夜、クラクフの微小粒子状物質PM2.5の濃度はインドのニューデリーに次いで世界で2番目に高くなった。
ポーランドの他にもドイツやハンガリーなど多くの欧州諸国が、電力を賄うために最も大気を汚染する褐炭の使用を増やしているが、専門家によると健康被害が最も大きいのは家庭で褐炭を燃やすことだ。
トゥカチュクさんが住む地方では石炭が暖房の主要燃料であり、40%の家庭が「スモーカー」と呼ばれる旧式のストーブを使っている。有毒な煙を吐き出すことから付いた呼称だ。
クラクフのAGH大学で環境保護を専門とするピオトル・クレチュコフスキ教授は、トゥカチュクさんの州ではこうしたストーブの禁止措置が解除されたことで、この冬に最多で1500人の早期死亡者が出ると推計している。
褐炭は黒炭に比べて硫黄と灰分を数倍、水銀を5倍多く含む一方、3分の1のエネルギーしか生み出さない。家庭で燃やすと、硫黄と水銀という有毒な組み合わせの物質が排出され、ぜんそく、肺がん、心不全、脳卒中のリスクが高まる。
「暖房が必要だ」
ポーランドは長年、欧州で最も大気汚染がひどい国の1つで、地方政府は家庭での有害な燃料の使用取り締まりに努めてきた。
しかしロシア産ガスの供給が途絶えた4月以降、中央政府は2年前から実施している家庭での褐炭と低品質無煙炭の燃焼禁止措置を停止。ひどい大気汚染を引き起こす石炭廃物の販売制限も緩和し、スモッグ対策として石炭関連の規制が強化された2018年以前の状態に戻ってしまった。
与党「法と正義」のカチンスキ党首は9月、ノビ・タルクの住民に対し、「タイヤやそれに似た物以外なら何でも燃やすべきだ。残念ながらこれが現実だからだ。単純な話、ポーランドには暖房が必要だ」と呼びかけるに至った。
子どもの呼吸器系疾患
医師によると、こうした政策転換は既に大気汚染の深刻な地域で呼吸器系の問題を引き起こしている。
チェコとの国境に近いリブニクの州専門病院では気温の下がった11月、子どもの入院が急増したと小児科病棟長のカタルジーナ・ムシオール氏は語った。
エアリーのデータを見ると、氷点下3度になった11月20日夜には、PM2.5の平均濃度が基準の6倍に達している。
「この結果、病棟は子供たちでいっぱいになり、そのうちの90%はスモッグが引き金となって息切れ、呼吸同期ウイルス(RSV)、ぜんそくの悪化、気管支炎、肺炎などの症状が出ていた。中には、生後数週間の赤ちゃんが呼吸困難やRSVを患っているケースもある」とムシオール氏は話す。
「基準を超えることが常態化している。ここ数日はスモッグが激しく、大勢の子どもたちが集中治療を必要としている」
チェコまで調達に
欧州連合(EU)で家庭が暖房に使う石炭の約8割は、ポーランドで消費されている。4月にEU加盟国として初めてロシア産石炭の購入を停止した直後から、ポーランドでは石炭が不足し始めた。
石炭価格は4倍に跳ね上がり、国営の販売会社は配給を開始。国民は冬用の褐炭を確保しようと、夏の間にチェコに車を走らせて同国の卸売業者から購入し始めた。
石炭に手が届かない一部の家庭は、ごみを燃やすという手段に訴えている。クレチュコフスキ教授によると、ごみの方が発がん性の高い毒素を多く含み、地元当局はごみの燃焼をやめさせようと奮闘している。
10月には、ポーランド北部の住民が家具から出たごみを燃やしたとして地元警察から罰金を科せられたが拒否。この住民は、「法と正義」のカチンスキ党首が何でも燃やしていいと言ったではないか、と主張している。裁判は係争中だ。
(Marek Strzelecki記者、 Kuba Stezycki記者)