――ドンバスの親ロシア派武装勢力が11月28日、「バフムートの包囲が近い」と述べたが、その可能性は?
今、ロシアが狙っているのは、バフムート市周辺の村落に陣地を築き、バフムート市を包囲することです。
ロシア軍がある地点で数百メートル前進したりすることはあり、ロシアはそれを、あたかも大戦果のように宣伝しますが、「ロシアがバフムートを包囲しそうだ」という状況では全くありません。今後もないでしょう。
バフムート市内は完全にウクライナ軍がコントロールしており、周辺の村落でもロシアの攻撃を撃退しています。しかし、非常に厳しい戦いです。
――ゼレンスキー大統領が最近、バフムートについて、「最もホットで、痛ましい戦いが行われている場所」と述べた。何が困難なのか。
塹壕戦です。第1次世界大戦に似ています。互いに塹壕を掘って、陣地をつくり、そこを歩兵が守る。それを砲弾で攻撃しあう戦いです。砲弾の量が多い。大砲で撃ちあう砲撃戦が、戦いの9割を占めています。
ロシアの砲撃は目標を定めず、めったやたらと広い地域に撃ち込むのが特徴です。第1次大戦との違いは、ドローンの使用。互いに空から攻撃目標を探っています。
もちろん、ロシアもドローンは使うし、効果的な兵器を十分に持っています。どこかの第3世界の弱い軍隊とではなく、強力な軍隊と我々は戦っているのです。
――けが人が多いのか。
私の所属する大隊では120人が死傷しましたが、地面がドロドロなので、車両でけが人を運びだすことができない場合があります。
ひざまで泥につかりながら、けがした兵士を別の兵隊が肩にかついで歩いて2キロ離れた救護所まで運んだこともありました。
――バフムートの周辺は森林がほとんどない平原地帯。西側では、戦車どうしが動き回り、撃ちあう「戦車中心の戦い」が起きるとの見方もあったが。
第2次世界大戦では、戦車は敵の前線を最初に突破し、その後歩兵が続きました。ここでは全く違い、ロシア軍の戦車は最前線から1~2キロ離れた場所に陣取って、彼らの歩兵の動きに応じ、遠くから援護射撃を行います。
わが方の塹壕めがけてロシアの戦車が突進してきたなら、ジャベリンなど対戦車ミサイルの餌食になります。
今は、対戦車兵器が豊富なので、9割がた、戦車が最初に突進してくることはありません。
――では、どのようにロシア軍は攻撃してくるのか。
夜になると、ロシアの歩兵が15~25人のグループで、我々の塹壕に近づき、攻撃をしかけます。それが1日数回あります。それを撃退する。
ウクライナの北東部ハリキウ州や南部ヘルソン州の解放作戦が注目を浴びる中で、バフムート周辺では何カ月も毎日、こうした塹壕戦が続いています。ウクライナ兵の働きぶりは、超人的だと感じます。
――ロシア軍の弾薬不足や兵員不足が伝えられているが、前線での変化は?
夏に比べ、今はロシアの砲撃数は減っています。(プーチン大統領の)部分的動員令で補充されてきたロシア兵が増えていますが、彼らの損害は大きく、大規模な攻撃をしかけてくることはもはやできなくなってきています。
「Z」マークをつけたロシアの正規軍がたくさんいる一方、「ワグネル」というロシアの傭兵集団が増えています。彼らは高い軍事技術を持った「殺し屋」です。
――ワグネルは、ロシアの囚人を兵士にしたてていると言われるが。
いわゆるドネツク・ルガンスク両人民共和国の兵士はほとんどここには残っていません。代わって、ロシアの囚人や新たに動員されたロシア人兵士がまず斥候として、ウクライナの陣地の方向へ送られます。彼らはほとんど生きて帰れません。ウクライナ軍が攻撃するからです。
その攻撃を見て、ロシア軍は我々の位置を把握します。その後に、より練度の高いロシア軍の歩兵らの本格的な攻撃が始まります。囚人らはいわば「捨て石」です。
――ロシアがバフムート市の陥落にこだわるのはなぜか。
なにより政治的理由でしょう。ロシア軍は首都キーウの攻略に失敗し、ハリキウとヘルソン両州で敗北し、黒海艦隊の旗艦を失いました。とにかくどこかで戦果を(ロシア国民に)見せることが必要なのでしょう。
軍事的には、バフムートは他都市への主要道路が集まる交通の要衝で、ドンバス地方全体をおさえるカギになっています。
また、(プーチン大統領が掲げた)ウクライナの「非ナチス化」や「非軍事化」という理屈が通用しなくなってきたため、プロパガンダの必要性からも、ロシアは本当にドンバスに兵力を集中させたいのだと思います。
――ロシアがバフムートで勝てない理由は?
要因の一つは、ロシア軍の指揮系統が柔軟性を欠いていることです。ロシア軍の司令部は前線から何百キロも離れた所にあり、そこから命令を出します。
前線ではそれを遂行しようとするのみで、現場の指揮官が自分で判断することが少ない。この点、ソ連軍の時代と変わっていません。指揮命令系統がいわば「垂直的」なのです。上から降りてきた命令を現場は遂行するのみ。
ウクライナ軍は反対で、戦場の指揮官が上官の意向に必ずしもしばられずに自ら判断し、自分の部隊を動かします。ほとんどの場合、決定は戦場で行われる。より柔軟なのです。
また、ロシアは「質より量」を重視し、兵隊の命がどうなろうが、気にしない。ウクライナは(兵士も含め)量ではるかに劣るので、最優先は前線にいる兵士。彼らが効率的に戦えるように気をくばることです。
――バフムートの戦いは、どれくらい続くと思うか。
分かりませんが、2、3週間では終わらない。長い戦いになるでしょう。一日も早く勝利が来るよう力を尽くしています。
――国会議員だったあなたが、ウクライナ軍に入った経緯は?
2月のロシアの本格侵攻直後、私が所属する政党「スバボーダ(自由)」を基盤に、軍事組織を作ろうとSNSで呼びかけたところ、数百人が応じ、「スバボーダ大隊」を結成しました。
徴兵ではない義勇軍で、様々な職業のウクライナ人が志願しました。後に、ウクライナ軍に編入されました。軍務経験がある者は6人に1人くらい。私自身、軍隊の経験はありません。
この大隊は最初、首都キーウを防衛、その後、4月、東部ドンバス方面に派遣されました。私自身は、兵士の心理的サポートなど、部隊の管理に当たっています。
――激戦に耐えるモチベーションは何か。
「勝利するか」、あるいは「負けてウクライナ民族が滅ぼされるか」という二つの選択肢しか我々にはありません。戦うしかないのです。
ロシアは「ウクライナという国は存在せず、ウクライナ人は文化、言語、歴史に対する権利は持たない」と公式の文書で述べています。
キーウ近郊のブチャやハリコフ、ヘルソン両州のように、ロシアに一時占領された所では、たくさんのウクライナ人が拷問を受け、殺されました。「ウクライナの国旗を掲げた」とか、「ウクライナ語を話した」といっただけの理由で、ロシア軍はウクライナ人を殺しているのです。