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ステゴサウルスの最大級の化石が競売へ 研究機関には手が届かない落札予想額に批判も

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
ステゴサウルス「エーペックス」の化石の組み立て作業をするクーパー
ステゴサウルス「エーペックス」の化石の組み立て作業をするクーパー=2024年5月18日、米ユタ州リンドン、Nina Riggio/©The New York Times

在野の古生物学者ジェイソン・クーパーは2022年5月、米コロラド州ダイナソー(恐竜)という町の近くにある自分の所有地を友人と散策していて、岩から突き出ている大腿(だいたい)骨の一部を見つけた。この町の名前は、その実態にふさわしいものなのだ。

見つかった大腿骨が、ステゴサウルスの化石の発見につながった。これまでに見つかったこの恐竜の化石のなかで最大級かつ最も完全なものの一つで、後に「エーペックス(頂点、極致)」という名がつけられた。

2024年7月、競売会社サザビーズがエーペックスを推定400万ドルから600万ドルで競売にかける。この化石の競売は、民間の化石取引に関する長年の論争の新たな火種になるだろう。

サザビーズが1997年、ティラノサウルス・レックスの「スー」を米シカゴのフィールド博物館に836万ドルで売却して以来、恐竜の化石の価格はオークションハウス(競売場、競売会社)で高騰し続けている。

2020年には、もう一つのティラノサウルス・レックスのほぼ完全な骨格である「スタン」が競売会社クリスティーズで、3180万ドルで落札された。

古脊椎(せきつい)動物学会副会長のスチュアート・スミダは、こうした価格設定が研究機関所属の古生物学者の間で深刻な懸念を呼んでいると指摘する。彼らの多くはここ数十年、科学的な謎を解き明かすかもしれない化石が、研究機関ではなく裕福な個人コレクターの手に渡るのを見てきた。

クーパーと彼のチームは、サザビーズで競売されるステゴサウルスを2023年に掘り出した。クーパーの所有地ではジュラ紀の恐竜の化石が多数発掘されており、彼はそのいくつかを米ユタ州プロボのブリガムヤング大学古生物学博物館や米フロリダ州マイアミのフロスト科学博物館などに寄贈していた。

エーペックスについて、ユニークで科学的に重要な標本だとクーパーは説明した。背中に板状の骨、尾にトゲがある草食動物の骨格標本は、たとえ部分的なものであっても珍しい。それなのにこの標本は、この恐竜の骨格の要素を約70%も残しているのだ。

在野の古生物学者ジェイソン・クーパーと、彼が米コロラド州ダイナソーの所有地で発掘したステゴサウルス「エーペックス」の化石の骨格標本。米ユタ州リンドンで修復・組み立てが進む。
在野の古生物学者ジェイソン・クーパーと、彼が米コロラド州ダイナソーの所有地で発掘したステゴサウルス「エーペックス」の化石の骨格標本。米ユタ州リンドンで修復・組み立てが進む。これまでに見つかったステゴサウルスの化石では最大級で、サザビーズで競売にかけられれば数百万ドルの値がつく可能性がある=2024年5月18日、Nina Riggio/©The New York Times

体高11フィート(約3.35メートル)で、体長は20フィート(約6.1メートル)を超えるエーペックスは、これまで最も完全なステゴサウルスの標本として知られてきた「ソフィー」の2倍の大きさで、まれな体格、驚くほど長い脚、底が四角い骨盤を備えている。

この標本と共に、おそらく首の部分のものとみられる皮膚の印象化石も発掘されており、これも競売にかけられる予定だ。

クーパーは、ステゴサウルスを競売にかける準備と標本の作製を取り仕切り、既存の化石を3Dスキャンし、欠けている部分の骨を模造して欠落部分を埋めた。クーパーのチームは、化石を買い取りたいという人にとって魅力的と思われる広範な背景データも収集した。詳細な現場調査や発掘場所の地図、その他の資料などのデータだ。

また、クーパーは古生物学者を数人、標本の調査に招いた。

「その大きさ、完全性、骨格の保存状態などを総合すると、この化石は私が見てきたなかでも最高のステゴサウルスである」。クーパーの所有地で標本を調べたブリガムヤング大学古生物学博物館の学芸員ロッド・シーツは、そう言っていた。

ステゴサウルス「エーペックス」の化石は米ユタ州リンドンで組み立てられた。クーパーの作業机の上には、ティラノサウルス・レックスのあごの骨も置かれていた
ステゴサウルス「エーペックス」の化石は米ユタ州リンドンで組み立てられた。クーパーの作業机の上には、ティラノサウルス・レックスのあごの骨も置かれていた=2024年5月18日、Nina Riggio/©The New York Times

サザビーズの科学・大衆文化部門の責任者カサンドラ・ハットンによると、サザビーズはクーパーと緊密に協力し、個人間で売買されるこの恐竜の骨格標本の科学的な信頼性を高め、将来の競売モデルをつくることを目指しているという。

「発掘時から私たちが協働してきた標本が、競売にかけられるのは今回が初めて」と彼女は言い、「恐竜の取引としては、これまでで最も透明性が高い」と付け加えた。

しかし、ユタ州所属の古生物学者のジム・カークランドは、クーパーから招待を受けた際、ステゴサウルスの競売の後押しをすることになるので断った。

「この化石はかなりおもしろそうではある」。カークランドは取材に対し、電子メールでそう返事を寄せ、「でも、競売にかけられるものを宣伝するつもりはない。私は、彼を博物館に直接つなぐことはできたかもしれないが、これは別だ」と付け加えた。

公開の競売では何が起きても不思議はないが、クーパーとハットンの両者はエーペックスが最終的には科学的な研究機関に渡ること――それがじかに買い取られるのであれ、購入した個人コレクターからの寄贈であれ――を期待していると表明した。

クーパーのチームがデータと資料を集めたのは、この骨格標本の真正性を購入希望者に保証するためだけではなく、博物館が標本を研究用として円滑に収蔵できるようにするためでもあった。

「これを買い取った人は誰でも、私の所有地に来て背景情報を収集する権利がある」とクーパー。「個人コレクターは、そんなことに気を配らないかもしれないけど、博物館にとっては本当に素晴らしいことだろう」と言う。

作業机の前に座る在野の古生物学者ジェイソン・クーパー。米ユタ州リンドンで、ステゴサウルス「エーペックス」の化石の競売に向けた準備と組み立てを指揮した
作業机の前に座る在野の古生物学者ジェイソン・クーパー。米ユタ州リンドンで、ステゴサウルス「エーペックス」の化石の競売に向けた準備と組み立てを指揮した=2024年5月18日、Nina Riggio/©The New York Times

しかし、スミダによると、このステゴサウルスの推定価格は高額であり、多くの研究機関には手が届かないかもしれない。彼は、すでに組み立てられ復元された標本を研究するコストは、ただ購入するより高くつく可能性があると指摘する。

化石の復元や組み立ては科学であると同時に芸術でもあり、やり方によっては骨のどの部分が本物なのか境界をあいまいにし、不慣れな人を欺くのに使われることもある。

「その標本が、評判通り科学的に重要なものであるならば、競売にかけるというやり方はまったく間違っている」とスミダは言うのだ。

マイアミにあるフロスト科学博物館で古脊椎動物学担当を務める学芸員ケーリー・ウッドラフは、公開競売はしばしば「科学的な墓場」になるとの見解に同意する。

だが、競売にかけられることが決まる前にこの標本を調べたウッドラフは、商業的に売却される化石の詳細な記録や写真、デジタルスキャンをまとめることは、他の販売業者も見習うべきだと提案している。そうすることで、「その標本が最終的に公共物にならなくても、少なくとも科学的なデータは残せるから」と彼は言う。

しかし、ウッドラフはそうした化石は最終的に公共物にされるべきだとの意見に賛同した。
「裕福な人が、科学的な知識や進歩に貢献するために、科学研究機関とどのように協力できるかを考えているなら、彼らの関心がこうした標本に向くことを願っている」とウッドラフは話していた。(抄訳、敬称略)

(Asher Elbein)©2024 The New York Times

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