1. HOME
  2. World Now
  3. 首の長さは15メートル!でも重くなかった ジュラ紀に跋扈したマメンチサウルスの秘密

首の長さは15メートル!でも重くなかった ジュラ紀に跋扈したマメンチサウルスの秘密

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
マメンチサウルスの想像図=Júlia d’Oliveira via The New York Times/©The New York Times

恐竜の竜脚類ほど体の構造を極限状態にまで押し広げた生き物は、そうはいない。巨大なものになると、超重量級の胴体を柱のような四足で支えながら歩行した。外敵をムチのようなしっぽで巧みに撃退し、長い首を使って周りの木の葉を吸い込むようにむさぼった。

この種の恐竜の仲間はすべて、その特徴からよく「long necks(長首族)」と呼ばれる。中でも、ジュラ紀(訳注=約2億~1億4500万年前。「恐竜の時代」ともされる)の後期に今の中国あたりを跋扈(ばっこ)していた「マメンチサウルス」は、ほかの竜脚類がうらやむほどの長首だった――そんな研究論文が2023年3月、古生物学の英専門誌「ジャーナル・オブ・システマティック・パレオントロジー」に掲載された。

この論文によると、マメンチサウルスの首の長さは、推定で50フィート(15メートル強)近くもあった。平均的な米国のスクールバスより長く、竜脚類の中でも最も長いと推定されている。歴史的にも、既知のすべての動物の中で最長と見られている。

中国北西部(訳注=新疆ウイグル自治区)にある地層・石樹溝層で1987年、竜脚類の骨格の一部を古生物学者が見つけた。恐竜の化石の宝庫とされる地層で、赤さび色の砂岩から骨の化石が突き出していた。骨格はバラバラに崩れており、出土したのは下あごと頭蓋骨(ずがいこつ)の一部、そして椎骨(ついこつ。訳注=連なって脊椎〈せきつい〉を形成する)数個からなる断片的なものだったが、その体の巨大さはすぐにうかがうことができた。1億6200万年前に大型肉食恐竜のティラノサウルスの先祖らとともに湿気の多い平原を地響きを立ててのし歩いていたようだ。

この恐竜はマメンチサウルス・シノカナドルムと命名され、東アジアにいたほかのいくつかの長首の竜脚類と結びつけて分類された。しかし、マメンチサウルスのほかの骨は出土せず、その具体的な大きさは謎に包まれていた。専門家は、出てきたわずか数個の椎骨を精査するしかなかった。

「こうしたことは、超大型の恐竜ではよくある」。竜脚類の体の構造を研究しているニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の古生物学者で、今回の論文作成を主導したアンドリュー・ムーアはこう指摘する。そして、「首が最長クラスの連中に限って、化石の発掘記録が最も少ないことに興味をそそられると同時に、本当にイライラさせられる。そんなにでかいものを埋めるのが難しい、という単純な理由なのは分かっているけれど」とぼやいてみせる。

そこで考え出したのが、マメンチサウルスに近いいくつかの近縁の恐竜を手がかりにする手法だった。中でも、シンチアンティタンに着目した。生息年代がわずかに古い竜脚類で、2013年にやはり中国北西部で見つかっていた。特筆すべきは、その脊柱(せきちゅう)が完全にそろっていたことだ。化石の出土データに基づいて明確に裏付けられるものとしては最長のこの首は、44フィート(約13.4メートル)近くあった。

「体はより小さいが、より完全な化石標本を使い、体の大きさを拡大することで、マメンチサウルスがどんな姿をしていたのか極めて正確に推定できる」とムーアはいう。

こうしてマメンチサウルスとシンチアンティタンを比較した結果、マメンチサウルスの首の長さは50フィートだったとムーアの研究陣は結論づけた。それは、体長全体のほぼ半分にあたった。頸部(けいぶ)の端から端までの長さを比べると、キリンの8倍強にもなった。

そんな首の長さは、セミトレーラー(訳注=けん引タイプの大型トレーラー)ほどもあった。マメンチサウルスがこれをどう使っていたのか探るのに、研究陣はまず脊椎をCTスキャナーにかけて分析した。

竜脚類の脊椎の内部は、重たい骨髄や線維質の組織が詰まっていると思われていたが、調べてみると違った。代わりに、コウノトリやハクチョウなどの現代の鳥類に見られるような大きなエアポケット(中空構造)になっていたことが判明した。この中空部分は椎骨の容積の77%を占め、マメンチサウルスの脊椎の重さは、大幅に軽減していた。

米フロリダ州マイアミのフロスト科学博物館で竜脚類を専門とする古生物学者ケイリー・ウッドラフ(今回の論文執筆にはかかわっていない)は、すべての竜脚類にとって首の重さを軽くすることは絶対的に必要なことだったと話す。「これほど長い首があるということは、体から離れたところで大きな重りを持つに等しい。人間が腕を伸ばして重いハンマーを持てば、腕はあっという間にしんどくなるだろう」

椎骨が空洞でも、マメンチサウルスの首はきゃしゃだったわけではない。その化石が最初に発掘されたときは、何フィート(1フィート=30.5センチ弱)かの長さがある棒状の骨組織の化石が一緒に出土している。これは「頸肋(けいろく)」と呼ばれる、椎骨の延長にある固い組織で、首と同じぐらいの長さがあり、添え木のように重さがさほどない首を(訳注=ふにゃりと曲がったりしないように)しっかりと支えていたと見られる。首の動きの柔軟性は損なわれるが、安定性をもたらすことになる。

「首の骨の数はかなり多かったが、ヘビがとぐろを巻くように丸くできたわけではない」とウッドラフは説明する。「首は、基本的には曲がらぬ棒のようなものだった」

マメンチサウルスは、補強された首を地面に対して浅い角度でおおむね水平に保っていた、と見るのが最も妥当なようだ。ただし、長い首を生かし、多くの木々ではてっぺんにある葉っぱを食べることもできたらしい。そうすることでマメンチサウルスは、巨大な草食動物がほかにもたくさんいた当時の生態系に小さな(訳注=生存競争の)隙間を見つけ、そこに潜り込んで生き残ったのかもしれない。

多くの専門家によれば、竜脚類のいくつかのグループは、ツルのように首を長く突き出したマメンチサウルスと張り合えそうなくらいに首を極端に長く進化させてきた。

「その限界がどこにあるのかを知ることは、本当に難しい。これが限界かと思っても、次から次に新しい発見があり、更新され続ける」と先のムーアは首を振る。

そして、こういうのだった。「もっと大きく首の長い恐竜がまだいるのかもしれない。最初からそう仮定して、われわれは研究すべきなのだろう」(抄訳)

(Jack Tamisiea)©2023 New York Times

ニューヨーク・タイムズ紙が編集する週末版英字新聞の購読はこちらから