こんなリポートを出したのは、第一生命経済研究所の石附賢実(いしづき・ますみ)総合調査部長だ。
東京五輪(2021年)のメダル数の1位は米国(113個)、2位は中国(89個)。各国のメダル数シェアを縦軸に、2020年のGDPの世界シェアを横軸に取ると、多くの国々をつなぐ直線を引けた。経済大国ほどメダルも多い、ということだ。
経済力がある国は、政府のスポーツ予算も民間の支援も充実し、スポーツの環境整備が進み、メダルにつながる。メダル獲得に沸くと、国民のスポーツへの理解が深まり、さらにスポーツへお金が回る――。石附さんは、こんな仮説を立てる。
ロシア(ROC=ロシア・オリンピック委員会として参加)のようにGDPの規模に比べてメダル数が「上ぶれ」している例外もある。背景には、国威発揚のためにスポーツに力を注いだ旧ソ連時代や、組織ぐるみで続いてきたドーピングの歴史がある。
また、英国は多くの近代スポーツが生まれ、英連邦スポーツ大会「コモンウェルス・ゲームズ」(74カ国・地域が加盟)を開いてきたスポーツ文化が根付く社会だ。
いずれにせよ、ここで大切な視点は、ほかの国々より経済成長が鈍ければ、相対的に経済力が劣っていくということ。2020年の日本のGDPシェアは5.9%だったが、昨年のシェアは4.1%に減った。国際社会での経済力が相対的に下がったということだ。
そこで、メダルとの相関を考えれば、日本のパリ五輪でのメダル数は、2021年東京五輪の58個から減ることになる。少子化が進み、GDPの成長にブレーキがかかれば、将来の五輪の成績にも影響してくるのだろう。
石附さんは「米国の強さの源泉は多様性。人を引きつける磁力がある社会は、活力があって経済成長している。日本は人口減で経済が厳しくなり、移民がいないと成り立たない社会になってくる。どのくらいまで受け入れるのかという議論をしていくことが必要だ」と指摘。多様性の大切さは「スポーツでも同じでしょう」と話す。
一方、リポートによると、東京五輪のメダル数上位25カ国の「人口100万人あたりのメダル数」では、様相が変わる。
ニュージーランド(NZ)が4.15個と最多で、オランダ(2.10個)、ハンガリー(2.07個)と続く。米国は0.34個、中国は0.06個にすぎず、日本も0.46個だ。
人口500万人余りのNZは、メダル20個のうち、カヌー、ローイング(ボート)、セーリングの水上スポーツ3競技が9個を占めた。
地元オークランド大学のトニ・ブルース教授(スポーツ社会学)に尋ねると「多くの人々が水辺の近くに住み、水上スポーツが身近にある。子どもたちが興味を持てば、地域に根を張るクラブで親しめる」と答えた。
子どものうちは、いろいろなスポーツをすることが推奨される。サッカーやラグビー、バスケットボールに似たネットボール、陸上も盛んだ。そうすることで様々なスキルや身体能力を育むという。
エリート選手の強化に国から年4300万NZドル(約41億円)が投じられ、五輪のトップ選手への支援は年3万2500NZドル以上の助成のほか、首相名の奨学金も。見えてくるのは「いつでもスポーツを楽しめる風土」(ブルース)が根付き、アスリートが尊敬される社会だ。