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「王国」は再起できるのか? インドネシアのバドミントン

Insight 世界のスポーツ
「ダイハツインドネシアマスターズ」でプレーする男子ダブルスのマルクス・ギデオン(右)とケビン・スカムルジョ Photo: Furuya Yoshinobu

「ヤー! ヤー!」

インドネシアの首都ジャカルタで1月下旬に開かれた、バドミントンの国際大会「ダイハツインドネシアマスターズ」。数千人の観客が、地元選手がシャトルを打ち返すのに合わせて、声援を送っていた。自営業グレース・ムントゥ(27)は「バドミントンはこの国の誇り」と力を込めた。

ファンたちの声援は、いつも熱狂的だ Photo: Furuya Yoshinobu

インドネシアで最も人気のあるスポーツはサッカー。だが、国技として誰もが挙げるのがバドミントンだ。サッカーは弱いが、バドミントンは五輪などの国際大会で優勝した実績が多い。男子ダブルス選手のマルクス・ギデオン(27)とケビン・スカムルジョ(21)のペアは、世界バドミントン連盟のランキング1位だ。

そんな「バドミントン王国」の威光に影を落とす、衝撃的な事態が昨年5月に起きた。

オーストラリアで開かれた国・地域別対抗戦「スディルマン杯」。インドネシアの往年の名選手、故ディック・スディルマンを記念して1989年から2年に1回開かれ、国の威信もかかる大会だが、代表チームは格下のインドに敗れ、初めて予選リーグで敗退した。

「衝撃的だった」。チーム代表のアフマド・ブディハルトが国民に謝罪。ヘッドコーチでバルセロナ五輪の金メダリスト、スシ・スサンティも「個人的にこの結果について謝罪します」と述べた。スシに話をきいたところ、「主力選手の一部に故障者がいた。勝ちもあれば負けもある」と、なんとか前向きに考えようとしているようだった。

「結果」だけを求める政府

ただ、国技として期待が大きいだけあってか、先行きには悲観論も多い。「あの結果には本当に腹が立った。代表チームは史上最底辺にある」。危機感をあらわにしたのはルディ・ハルトノ(68)。72年のミュンヘン五輪で公開競技として初めて行われたバドミントンで、男子シングルスの金メダルを取った重鎮だ。

彼によると、多くの国が公的な支援をバドミントンに注いでいるのに比べて、インドネシア政府は「結果を求めるだけ」。練習環境の整備をはじめ若手の育成を怠ってきたという。個人的に国民に謝ったバルセロナ五輪の金メダリストのスシも「目下の課題」と認める。

確かに、低迷ぶりは目立つ。五輪でのメダル獲得数は、バドミントンが五輪の正式競技になったバルセロナは5個だったが、2012年のロンドン五輪はゼロ。16年のリオも1個にとどまった。

強豪国としての地位を築いた原動力は、ハルトノやスシら、「華人」と呼ばれる中国系市民の置かれた苦境だったとされる。65年のクーデター未遂事件後、独裁を続けた当時の大統領スハルトは華人を共産主義の手先として敵視した。華人にとってはスポーツが国民としての存在感をアピールできる手段となった。

インドネシアは98年のスハルト失脚後に民主化を果たした。年5%ほどの経済成長を続け、日本をはじめ世界が注目する新興国の一つだ。「いまの華人の若者のほとんどはビジネスに目を向ける。華人以外の育成も含めて国は何とかすべきだ」とハルトノは言う。

今年は4年に1回のアジア大会がジャカルタなどである。王国の意地は見せられるのか。スシによると国は金メダル二つを厳命している。(文中敬称略)

 

ふるや・まさのぶ 1972年生まれ。社会部、経済部などを経て20149月から現職。バドミントンの試合の取材で、高速で飛び交うシャトルを何度も見失い、加齢を感じた。