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「共同親権」生活のリアルとは?アメリカで離婚した私 考えるのは「子の最善の利益」

働くママのシリコンバレー通信 更新日: 公開日:
イラスト:tanomakiko
イラスト:tanomakiko

アメリカ人の夫と離婚

さて、私こと、カリフォルニア州にて最近、離婚いたしました!

金銭面の代償は大きかったものの、現在の精神的な平穏を得られたことは何ものにも代え難く、人生の大きな決断の中でも最良の選択の一つでした。結果、改善した環境は子供にもポジティブな影響を与えていると信じています。

それでもやはり、筆者が離婚を切り出すまで2、3年かかりました。異国での離婚、慣れない英語の法律用語や制度との格闘がもれなく待っていること、物価が高いシリコンバレーでのこの先の生活、気が重くなる理由はいくつかありましたが、離婚を長い間思いとどまっていた一番の要因は、アメリカでは当たり前の「共同親権 (Joint custody)」の部分。特に、「50/50 Time-Share (フィフティーフィフティー・タイムシェア)」と呼ばれる制度によって、子供と一緒に暮らせる日々が離婚前の半分に減ることでした。

日本でも「共同親権」導入へ

日本でも、離婚したら父親か母親のどちらか一方が親権を失う現在の単独親権の制度を変更し、どちらもが親権を持つ「共同親権」を可能にする民法などの改正案が5月17日に参院で可決・成立しました。根強い反対運動も続いていますが、公布から2年以内、2026年までに施行される見通しです。

写真はイメージです=gettyimages
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筆者が離婚の手続きを開始した際、子供は14歳になっていました。大学で実家を出る可能性が高いので、せめて高校を卒業するまで我慢しようか、お互いが努力したら離婚は回避できるのではないか……。現状の生活を変えることに抵抗があったのには、筆者が居住するカリフォルニア州では共同親権が基本で、子供と一緒に暮らせる日々が半分になる未来を受け入れなくてはいけなかったからです。子供を連れ去って別居するわけにもいかず(誘拐になります)、大きな決断が必要でした。

日本は協議離婚の割合が9割を占めているそうです。日本では当事者双方が財産分与や親権などの条件を話し合って、お互いが「離婚しましょう」と合意すれば(たとえ詳細を協議して決めていなかったとしても)離婚届を一枚提出して離婚成立となります。

カリフォルニア州では離婚はすべて裁判離婚となるので、双方が離婚することに同意していてもどちらかが家庭裁判所に離婚申立て書を提出し、そこから細かい項目の合意が整い「こういった条件で双方合意ができましたので離婚いたします」と書類を提出します。

家庭裁判所が「はい、いいですよ」と認めたら離婚成立となるので、(多くのカップルにとって)合意に至るまで長い戦いの旅となります。筆者の場合はシンプルな方でしたが、それでも半年かかりました。

写真はイメージです=gettyimages
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事前に合意すべきことが多いカリフォルニア州の共同親権

日本でも共同親権が導入されるということで、実際に離婚したら子育てにどう影響するのだろう、と思われている方もいらっしゃるかもしれません。

カリフォルニア州の共同親権の場合、どちらの親がいつ子供と過ごすかの 「Joint physical custody」(共同身上監護)と、 学校や習い事をどうするか、病気やけがの治療方針をどうするかなどを決定する権利の「Joint legal custody」(共同法的監護) があります。

日常生活以外には、夏休みの半々の日数の分け方やその他の長期休暇の分け方、大学の費用、健康保険、課外活動の費用の何と何はどっちが支払うか、にいたるまで細かい項目が話し合われ、合意書のファイルの下書きがお互いの弁護士と我々の間で何度も往復されました。

合意書の中には、日本も含めて海外や州外に旅行に行くときは、必ずメールなどで事前に確認し合うという項目も盛り込まれました。州外や国外にどちらかが引っ越しした場合は、長期休暇の際に過ごす日数、旅費はどちらが持つなどの条件が入ることが多いようです。

共同親権部分だけでも項目が多く、財産分与、年金、税金、養育費、配偶者扶養手当、その他、トラブルを未然に避けるため多くの合意が必要となります。

写真はイメージです=gettyimages
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カリフォルニア州では調停人といっしょに作業を進めていくケースも多いですが、我々の場合は弁護士を通したので、一つ質問したり、交渉したりをやっていくうちに、お互いの弁護士費用がどんどん膨らみ、時間も倍かかるので、最後の方は自分で元夫に直接交渉し、ソフトランディングしたところを弁護士に伝えて合意事項に盛り込んでもらう形になっていきました。

ちなみにカリフォルニア州では、原因や責任を問わず離婚を認める「無過失離婚(No Fault Divorce)」なので、一方に不倫などの“落ち度”や責めがなくても離婚を請求でき、たとえ責めがあったとしても、それによって慰謝料が発生したり、相手に財産を多く分配させたりする理由にはなりません。

移民だろうが、英語がネイティブでなかろうが、アジア人女性だろうが、そういったことも一切考慮されることもありません。婚姻後に築いた共同資産は真っ二つ、収入のある方がない方に払っていくのが基本となります。

協議は感情抜きで「子の最善の利益」を重視

そもそもフレンドリーに会話が弾む夫婦であれば一般的に離婚する必要もないでしょうし、言い争いが絶えないために離婚するパターンがほとんどではないでしょうか。

筆者の場合も、離婚協議中は心躍る話題でも相手でもありませんでしたが、子の最善の利益を考え、現地の制度にならい、感情を排して(言うはやすしで、非常に難しいですし、いつも成功したわけではありません)実務的にならざるを得ませんでした。対面での交渉時は激しい口論にならないように外のカフェで会うなどの工夫もしました。

経済的にゆとりがあれば、周囲のシリコンバレーの共働きパワーカップルたちのように1000万円以上かけて弁護士を通じて交渉したり、調停などで自分に有利な合意に至るまで永遠に争ったりすることもできるでしょうけれども、筆者にはそんな余裕もなく、長引かせることによる子供への影響も気になりました。

州によっても法律が違うのと、共同親権をどう決めていくのかは、子供の年齢や人数にも大きく影響され、それぞれの家庭の事情によって異なります。

そして、言うまでもないことで、そして、日本でも議論され懸念されているポイントでもありますが、家庭内暴力(DV)や虐待、ギャンブル、アルコールや薬物の乱用など親の素質が欠けていると裁判所が判断した場合は、自由に子供に会う機会は制限されます。

写真はイメージです=gettyimages
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避けて通れない元夫・元妻とのコミュニケーション

単独親権であれば、子供の学校をどこにするか、習い事、スケジュール管理にいたるまで、子供が自分の意思でやりたいことや進むべき道を自己決定する年齢になるまでは、単独でコントロールできますが、50/50の共同親権の場合、大きい教育方針に関しては元妻、元夫と引き続き話し合っていく必要があります。

筆者が住む地域の公立高校は4年制で、離婚手続きを始めた際には子供はすでにどの高校に通学するか決まっていたタイミングでした。また、やりたい習い事や休日の過ごし方などは基本的に子供本人の意思に任せているので、それほどでもないですが、それでも細かいスケジュールの調整が必要なときはメッセージのやりとりが発生します。子供の年齢が小さい場合は、もう片方の親とのコミュニケーションがより多くなるのではないかと思います。

単独親権では意見の相違による対立が発生することはないのでスムースだとは思うのですが、婚姻中の共同親権だから一転、離婚後は「一人で何もかも決めなさい」となっていたら正直、不安に感じたかもしれません。

例えば、日常的な医療ではなく、万が一、大きな手術などが必要になったときに自分一人で判断しなければならないかもしれないと想像すると、気が重くなります。

大手術レベルの話ではありませんが、筆者の子供は今、周囲の友達のように耳にピアスの穴を開けたくて仕方ありません。父親は「ママがOKだったらいいよ」と言ったそうで、母親である筆者不在で勝手に承諾することはなく、そういった点では今のところ婚姻中と変化ありません。

そして、さらに正直に言うと、筆者は仕事がら、夜間のイベントやレセプションに参加することや、友人や仕事の仲間たちとの食事会も多く、完全に1人のワンオペは、やりたくても実質不可能です。ベビーシッターなどを雇わない限り、共同親権でなければ未成年の子供との生活は回らない現実があります。

また、どのように離婚に至ったかにもよりますが、子供が進路に迷った際には両方の意見が聞きたくなることもあるのではないでしょうか。

子供の父親とのコミュニケーションは難しい時もありますが、関わりたくないとは言ってられませんので、やりそこは避けて通れないと最近は腹を括っています。

共同親権は子供が18歳になるまで続きますが、18歳になって突然縁が切れるわけではなく、大学の卒業式や子供の結婚式でも通常両方が参列することがほとんどです。

写真はイメージです=gettyimages
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いいことづくしではない共同親権

もちろん、共同親権になればどの家庭もバラ色な生活が待っているわけではありません。前回の記事では「共同親権あるある」の問題や課題ついて記載しています。

今まで子育てに協力的でなかったのに、離婚するときになって親権だけは主張してきて譲らなかった、あるいは子供と過ごすはずの日でも身勝手な都合で子供を押し付けてくる、それなのに養育費負担は合意した時のまま、というのも時折、耳にする話です。

思春期の多感な時期に親の離婚により受けている精神的ダメージ、うざい母親でもいて欲しい瞬間にいないのはよくないのではないか。家にいない晩はどうしているかな、と常に考えます。スマートフォンの位置情報で居場所を確認したりしています。

子供は、周囲の3割くらいの友達がすでに同じ状況で、学校に通学できる距離にある両親の家を行き来きしており、中には小学校のときからそういった生活をしている友達もいるので、イメージしやすかったためかもしれませんが、比較的スムースに新しい二重拠点生活に馴染んだように思います。

日本の共同親権制度は、カリフォルニア州のように「子供の生活も原則半々」とまでは踏み込まないと思いますが、定期的な面会交流権は導入されるようです。DVやモラハラに不安を抱える人たちも寄り添った制度の構築は言うまでもなく必須です。ただ、どの国のどの法律においてもパーフェクトな制度はおそらく存在しないかもしれません。

宇宙の果てに行って欲しいと思っている相手でも、子供の親であることには変わりなく、2年以上かけて数千万円以上かけて離婚調停している知人家族も、子供の誕生会は2人そろってホストしています。

個人的には、子供は両方の存在を感じながら育つ方が自然な気がしています。日本の共同親権の行方も注目していきます。