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多彩なレインボーファミリーがいるオランダ 親権を最大4人に 法改正を待つ日本人女性

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女性カップルのカタリーナさんと日本人のトモさん、男性カップルのギルバートさんとジョージさん、4人がいっしょに育てている娘のルミちゃん(いずれも仮名)
女性カップルのカタリーナさんと日本人のトモさん、男性カップルのギルバートさんとジョージさん、4人がいっしょに育てている娘のルミちゃん(いずれも仮名)=2023年9月9日、オランダ、筆者撮影

一言で「レインボーファミリー」と言っても、その形態はさまざまだ。

定義としては、LGBTQの親がいる家族を指すが、レズビアンカップルやゲイカップルが精子ドナーや養子を得て核家族をつくる場合もあれば、核家族+共同親権を持つ人、あるいはレズビアンカップル+ゲイカップルのような二つの核家族の拡張型もある。

そんな拡張型を「クローバーファミリー」と呼ぶ国もあるらしいが、オランダではどの形も「レインボーファミリー」と呼ぶのが一般的だ。

2001年に世界に先駆けて同性婚を合法化したオランダでは、子供の人権を重視する法の枠組みの中で、レズビアンカップルの 共同親権や、ゲイカップルの養子縁組などを認め、多様な家族の形を可能にしてきた。

だが現行法で、一人の子供の親権を持てるのは2人まで。代理母出産のケースや、3人目以上の親権者についての法整備がなく、それが「今の時代の実情に合っていない」という声が高まっていた。

そんな中、オランダ政府は2014年に3人以上の「複数親」の親権のあり方などを再評価する国家委員会を設立。2016年には、「21世紀の子供と親」と題した調査報告書を発表し、最多2世帯4人までの親権を認めることを提案した。当時の担当大臣は、これを元に法改正に着手すると確約したものの、いまだ実現に至っていない。

11月22日、オランダでは総選挙がある。

次の政府に法改正の期待をかける、拡張型レインボーファミリー2組に話を聞いた。

「計画的共同親権」オランダのパイオニア

ゲイカップルとの間に2人の息子を持ち、カウンセラーとして活躍するサラ・コスターさん。レインボーファミリー親権の専門機関で理事も務める
ゲイカップルとの間に2人の息子を持ち、カウンセラーとして活躍するサラ・コスターさん。レインボーファミリー親権の専門機関で理事も務める=2023年10月19日、オランダ、筆者撮影

カウンセラーとして活躍するサラ・コスターさんは、2人の息子を産み、育てている。

18歳と16歳になる息子の父親は婚姻関係にあるゲイカップルで、そのそれぞれを父親にもつ息子たちは、遺伝子上は、同じ母と異なる父を持つ異父兄弟になる。

世帯こそ別だが、5人は今も一緒にバケーションに行ったり誕生日を祝ったりする一つの家族として機能しており、息子たちは1週間おきに、父親たちの家とコスターさんの家を行き来している。

「子供を欲しいと願う気持ちは、人間にとってとても根源的な欲求です。どんな理由であっても、それが満たされないと知る時、人は深い悲しみと痛みに打ちひしがれます。ヘテロのパートナーとの間で子供を授かるのが世間一般の『プランA』なら、その方法では子供を授かることができない人が『プランB』を模索するのは自然なことです」という彼女は、35歳の時、シングルでも子供を持てる「プランB」を模索し始めた。

様々な方法を検討した結果、彼女が選んだのは、ゲイカップルと合意の上で共同親権を持ち、共に子育てをするという道だった。

彼女のようなケースならば、精子ドナーでシングルマザーを選ぶのが一般的だった当時、その選択はとても先駆的だった。多くの人から体験談を聞かれたので本に記して出版したところ、とてもよく売れたと言う。

そして13年前。自らの体験が多くの人の手助けになることを悟り、子供を持つためにはパートナー以外の第三者の協力を必要とする人を対象にしたカウンセラーの仕事を始めた。

クライアントの大半は、子供を望むシングル女性やゲイの男性、レズビアンやゲイのカップル。近年、このような家族形態で子供を持つことを望む人は増加しており、コスターさんのカウンセリングを訪れるクライアントも増えている。

コスターさんが自らの体験をつづった本(左)と、2016年に発表された調査報告書「21世紀の子供と親」
コスターさんが自らの体験をつづった本(左)と、2016年に発表された調査報告書「21世紀の子供と親」=2023年10月19日、オランダ、筆者撮影

そんな多忙な仕事の傍ら、彼女はボランティア活動もしている。レインボーファミリーをサポートするMeer dan gewenst(ミーア・ダン・ゲウェンスト=“望みを越える”と言うニュアンス。以下MDG)という財団の理事だ。

レインボーファミリーのサポートや、LGBTQの人々が子供を持つための情報提供、関連の法改正のためにロビー活動などを行う財団である。子供を望む人たちのための説明会やマッチングイベントも主催もしており、その参加者はこの数年で1.5倍に増加した。弁護士や専門家とも密に連携するMDGは、オランダで最も重要なレインボーファミリー親権の専門機関として知られている。

自らの家族構成について、「私たちは、2世帯5人のレインボーファミリー。調和の取れた普通の家族生活を送っている」と言うコスターさん。だが現行法にのっとって厳密に見れば、彼らは名実ともに“普通の家族”になれたわけではない。

現行法に収まりきらない多彩な家族のあり方

コスターさんは息子2人の法的な母親だが、父親たちは、現行法により血のつながった息子1人ずつの親権しか持っていない。

つまり、自分のパートナーの息子とは法律上は他人だ。そのため、その子供のためには親権があれば認められる育児休暇の取得権や、子供の医療行為に対する同意権がない上、親として自動的に遺産を相続させることもできない。

なにより、生まれた時から親子として生活しているのに、法的には「他人」というギャップは、当事者たちの精神面に少なからぬ負担を与えるし、「法律上、あなたのパパは1人だけ」と言う説明は子供には到底理解できない。

そんな法と実情との不一致によって不利益を被る家族が増加する中で発表された「21世紀の子供と親」では、遺伝子でつながる親子関係と、親になるという意思でつながる親子関係を同等に評価し、最高2世帯4名までの親権を認める「多数親」を提案した。

だが子供の利益を保障するために、「多数親」成立までの手続きは厳格に条件付けた。子供の名字や養育費、宗教、育て方など多岐にわたる項目に関して全員が同意した上で弁護士の元で合意書を作成し、それを受精が行われる前に裁判所に提出し許諾を取らなければならない。

またその際には、まだ存在していない子供の後見人を立て、子供の人権や利益が保障されていることを確認することも義務づけた。

法改正先延ばしの背景に保守層の抵抗?

当時の担当大臣は、「このような家族はすでに多数存在し、その数はこれからも増加する。であれば、子供のことを第一に考え、法も実状にあった形にするべきだ」と、法改正の必要性を認めていた。

にもかかわらず、長年審議が保留にされていたのは、キリスト教系与党の抵抗があったからだと臆測されている。先駆的と言われるオランダでも、宗教や保守的な道徳観を理由に、拡張型レインボーファミリーの増加を抑えようと、その権利拡張に対抗する動きが消えることはない。

変化を恐れる超保守派の中には、「プランA」では子供を持つことができないLGBTQの人々が、子供を望むことすら否定的に見る人もいる。

コスターさんは自宅の一室をカウンセリングルームにしている
コスターさんは自宅の一室をカウンセリングルームにしている=2023年10月19日、オランダ、筆者撮影

コスターさんはこう言う。

「現実に目を向けてほしい。一昔前なら想像もできなかった新しい家族の形が、次々と生まれています。そしてその数の増加に伴い、新しい家族構成の認知度が上がり、多くの学術的研究も進んでいきます。それらの研究報告は常に、レインボーファミリーで育つ子供たちと同様の環境に育つヘテロ家族の子供たちとの間に健全さの差異がないことを示しており、今まで懐疑的だった社会も納得し始めています。法律も、もう立ち止まっているべきではありません」

2023年10月、夏の内閣崩壊後に設置された暫定政府は、遺伝子上の親とそのパートナーによる最多2世帯4人の共同親権などに関する法整備に向けた分析調査を始めると発表した。これを1年以内には完了させ、新政府でこれを包括的に導入できるように努力するとした。

「ようやく、ほんとうにようやく列車がゴールまで続く線路の上を走り始めたという感じです」とは、このニュースを受けたコスターさんの言葉だ。

2組の同性カップルが始めた「ファミリープロジェクト」

女性カップルと男性カップルが築いた拡張型レインボーファミリー
女性カップルと男性カップルが築いた拡張型レインボーファミリー=2023年9月9日、オランダ、筆者撮影

「私たちと一緒に子供をつくりませんか?」

2021年1月、年明け早々に女性の同性カップルであるカタリーナさん(41)と日本人のトモさん(44)が、長年の親しい友人である男性カップルのギルバートさん(42)とジョージさん(43)に送ったメールである。(名前は全て仮名)

件名はずばり「ファミリープロジェクト」。

4人は皆アーティストで、メールを受け取った男性陣は、新しいアートプロジェクトの提案かと思ったと言う。

かねて子供を持つことを願っていたギルバートさんと、その気持ちを理解していたジョージさん2人は、即答でこれを受け入れた。

娘のルミちゃんは、もうすぐ2歳だ。遺伝子上の親はギルバートさんとカタリーナさん。ジョージさんとトモさんに親権はない。

このことについてジョージさんは、「合意書では4人の権利と義務を同等に規定したし、実生活では、4人とも同じだけ親であることはわかっている。だからこそ、法的には親になれないというギャップはつらい」と心中を明かした。

ジョージさん(左)とトモさん。ルミちゃんの親権は2人にはない
ジョージさん(左)とトモさん。ルミちゃんの親権は2人にはない=2023年9月9日、オランダ、筆者撮影

ルミちゃんのスケジュールは、現在のところ週4日をママ宅で、3日をパパ宅で過ごす。彼らの最終的な目標は、フィフティー・フィフティーで子育てすること。とは言っても、「それは単にルミと過ごす時間のこと。私たち4人はパートタイムペアレントではない。1日24時間365日、常に100%ルミの親です」とカタリーナさんは念を押す。

生まれたばかりの頃は母親から離すことができないので、パパたちは1週間に数時間ママ宅でルミちゃんと共に過ごすことから始めた。そして成長と共に、パパたちだけと外出をするなどしながら少しずつ一緒にいる時間を増やした。

現在の4日・3日のスケジュールに慣れたルミちゃんにとって、今やどちらの家もが楽しい「わが家」だ。

日本人のトモさん「こんな生き方もあるんだ」

アムステルダムの生活の中で、自分が保守的だと気づかされることが多かったというトモさんは、オランダに来て20年になる。

この街でLGBTQだとカミングアウトしただけではなく、レインボーファミリーをつくって子育てをすることになるとは想像もしていなかった。

「結婚して子供を産むという日本ですり込まれた枠組みに縛られ、それをしていない自分に負い目のようなものを感じ続けていた」というトモさんは、12年前にカタリーナさんと付き合い始めた。

ギルバートさん(右)とジョージさんが傍らに立つイチョウの木は、カタリーナさんの胎盤と共に植えられている
ギルバートさん(右)とジョージさんが傍らに立つイチョウの木は、カタリーナさんの胎盤と共に植えられている=2023年9月9日、オランダ、筆者撮影

周囲のゲイカップルやレズビアンカップルが、自分にあった多様な形の家族を築いていく姿を見て「こんな生き方もあるんだ」と心が解放され、いつしか自分たちも子供を持てる可能性があると思えるようになった。

いざファミリープロジェクトに取りかかると、日々が驚きと感動の連続だった。4人で子供を持つ計画を伝えた婦人科の先生や助産師さんは、「ナイス!頑張れ!」と手放しで応援し、親身になってくれた。

「希望をはっきりと口にすれば、その考えをくみ取ってくれる人がいる。自分が信じてやり遂げようとすれば、それがどんな形であっても応援して力を貸してくれる人がいる。私たちを取り巻いていたそんな環境に、多彩な国籍や思想、セクシュアリティーを受け入れるアムステルダムらしさを感じました。先人たちの“インクルージョン”への権利の闘いの集積がある、この街だからできたことだと思います」と振り返る。

不測のトラブルに備える受精前の合意書作成

拡張型レインボーファミリーは増えているとはいえ、コスターさんによれば、主流は「核家族+共同親権者1人」の3人親。トモさんたちのような二つのカップルのケースはまだ少数派だという。それ故、参考にできる前例もほとんどなく、彼らのファミリープロジェクトの準備は、手探りの中で始まった。

この時に皆が頼りにしていたのが、MDGのサイトだ。法律的なこと、レインボーファミリーに関する学術調査、体験談等々の他に、「実行に移す前に考えておくべき100項目」なども掲載されている。一連の法的手続きをリードしてくれた、レインボーファミリーに特化した弁護士も、このサイトで見つけた。

子供の名字や育て方、金銭面、宗教や学校、食べ物など、多岐にわたる細かな項目に全員で同意し、子供を作る前に弁護士の元で合意書を作成するという2016年の調査報告書で提案された厳格なプロセスは、すでに拡張型レインボーファミリー形成の準備プロセスとして浸透している。

2人のパパと2人のママの愛情を受けて育つルミちゃん
2人のパパと2人のママの愛情を受けて育つルミちゃん=2023年9月9日、オランダ、筆者撮影

トモさんたち4人も、じっくりと話し合い、合意書を作った。

「よく当事者の数が増えれば、必然的にもめ事も増えると決めつけている人がいるけれど、それは前提として間違っている。もめ事が増えるとするなら、それは法の整備ができていないからだ。拡張型レインボーファミリーは、すでに多数存在している。法整備をしないでおけば僕らのような家族は存在していないことにできると思ったら大間違い」とギルバートさん。

そしてこう続ける。「僕たちは、あんなにたくさんの複雑な項目も4人の話し合いで合意ができた。今後起きる問題を、解決していけないはずがないと感じている。それに、親の数の多さは、トラブルの元を増やすこともあるかもしれないけれど、解決策のアイデアの多さにもつながる」

するとトモさんが話を割ってこう言った。
「ちょっと待って。合意したのは、4人じゃなく、5人だったでしょう?弁護士さんが、まだ生まれていなかったルミちゃんの後見人となって意見し、合意してくれていました」

これも調査報告書の中で提案されていた条件だ。

彼らのやりとりは、「合意書そのものと同じくらい、その作成のプロセスも重要」と言うコスターさんの言葉を思い出させた。

パパたちの家は、LGBTの人たちが集まるコミュニティーハウス
パパたちの家は、LGBTの人たちが集まるコミュニティーハウス=2023年9月9日、オランダ、筆者撮影

この4人は古くからの友達で互いをよく知っていて、話し合いもスムーズだったに違いない。だが現実には、拡張型レインボーファミリーを作る目的で知り合うカップルも多い。

もちろん、最終的に子供を作ると決めるまでには、互いの人柄や覚悟を確認しあう時間を十分に取る。だが、トラブルがあった時にどんな反応をする人なのか、そんな反応にどう対応すればいいのかといったことまではなかなか見えてこないものだ。合意書作成のプロセスは、そんなことを発見し理解するためにも役立つとコスターさんは話していた。

例えば将来、どちらかのカップルが別れたり、誰かが突然亡くなったりすることも起こりうる。4人は、思いつく限りの“不測の事態”への対策を講じ、合意書に盛り込んだ。「でも、どうしても手に負えない事態だってあり得る。そんな時には、速やかに調停者をたてることを条項に入れました」とカタリーナさん。

それは、どんなに大人たちの感情がこじれてもめる事態になったとしても、子供の最善を最優先するという親4人の覚悟の表明だった。

この日は、パパ宅からママ宅への移動日。迎えに来たママたちに、数日間のルミちゃんの様子を報告するパパたち
この日は、パパ宅からママ宅への移動日。迎えに来たママたちに、数日間のルミちゃんの様子を報告するパパたち=2023年9月9日、オランダ、筆者撮影

必要なのは、今の家族の実状を反映した法改正

ところで、19歳の時に自分の父親にゲイであることをカミングアウトしたら、7年もの間疎遠になってしまったというジョージさんは、子供を持つことを打ち明けるのにもちゅうちょしていた。

だが実際に打ち明けてみると、父親は意外にも肯定的だった。

父の再婚相手であるモルッカ系インドネシア人の義母が、とてもポジティブに反応したからだった。

「僕の話を聞くと、彼女はすぐに、あらー、素敵!たくさんのお父さんやお母さんがいるなんて、私の文化では普通のことよ、と言ったんだ。モルッカ諸島では、子供が生まれると遺伝子上の父親と母親の他に、最低2人のお父さんとお母さんが指名される。それは親族や近所の人だったりするんだけど、共同体の絆が強く、子供は共同体で育てるものという意識が強いから。父も、義母のそんな反応を見て、僕の決断が受け入れられないようなものではないと思えたようだった。聞いた話では、南米スリナムの共同体にも同じような意識があるらしい」

家族のあり方には、なんとも多彩なバリエーションがあるものだ。

再稼働し始めたように見える「2世帯4人までの親権」法改正へのプロセスだが、決してゴール間近と楽観できるわけではない。

総選挙の結果生まれる内閣次第では、再び後退する可能性もゼロとは言えない。それでも、トモさんたちのような親たちが、全員そろって親権を持つ日はいつか必ずやってくると信じられるのは、ここが“プログレッシブ”と名高いオランダだからだ。

アムステルダムらしく、移動は自転車で
アムステルダムらしく、移動は自転車で=2023年9月9日、オランダ、筆者撮影