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LINE資本関係見直し問題「カンタル(強奪)だ」と怒る韓国、浮かび上がる日本の弱点

牧野愛博のThe World Inside Out 更新日: 公開日:
LINEアプリの起動画面
LINEアプリの起動画面=ロイター

日本の対応を批判する韓国メディア

LINEは韓国IT大手NHN(現ネイバー)の日本法人が開発したサービスで、LINEヤフーの中間持ち株会社は、ネイバーとソフトバンクが50%ずつ出資している。ソフトバンクは5月9日、株式を買い増す方針を表明。ネイバーは10日、中間持ち株会社の株式について「持ち分の売却も含めて協議していく」との声明を発表した。

総務省で行政処分の文書を受け取るLINEヤフーの出沢剛社長(右)
総務省で行政処分の文書を受け取るLINEヤフーの出沢剛社長(右)=2024年3月5日、東京都千代田区霞が関2丁目、朝日新聞社

この動きについて、韓国メディアが敏感に反応した。

「ネイバー、13年間育ててきたLINEの経営権を奪われるか」(ハンギョレ新聞)、「日本に技術が奪われる、ライン強奪に韓国大騒ぎ」(韓国経済新聞)、「日本のLINE奪取本格化、国力を使っても韓国政府が動くべき」(朝鮮日報)など、保守・進歩に関係なく、日本の対応を批判する論調が相次いでいる。

最大野党、共に民主党の李在明(イジェミョン)代表は11日、SNSで「伊藤博文は朝鮮の領土を侵奪し、伊藤博文の子孫(松本剛明総務相)はサイバー領土のLINEを侵奪」と投稿。9日に日本旅行の様子を投稿した韓国の有名ユーチューバーの映像が炎上するなど、てんやわんやの騒ぎになっている。

静観していた尹政権も「遺憾の意」

日韓関係の改善を進める尹錫悦(ユンソンニョル)政権も事態を静観してきたが、世論の強い反発に苦慮。科学技術情報通信省の第2次官が10日の記者会見で、株式売却の圧力があったとして遺憾の意を表明。韓国企業の意思に反する措置について「断固として強力に対応する」と述べる事態にまで追い込まれた。

ネイバーは、LINEヤフーとの資本関係の見直しに難色を示していると報じられているものの、持ち分の売却の可能性は否定していないため、「ネイバーが『助けてくれ』と言わない限り、韓国政府としては動きようがない」(政府当局者)という状況だ。

ソウル郊外の城南(ソンナム)市にあるネイバー本社ビル
ソウル郊外の城南(ソンナム)市にあるネイバー本社ビル=2022年5月13日、韓国、ロイター

韓国政府当局者の一人は今回の事態について、「国民の個人情報を他国に握られるという事態を防ぎたいという日本の考えは十分すぎるほど理解できる」と語る。

米国や欧州では今、中国のネット大手バイトダンス(北京字節跳動科技)が運営する動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を規制する動きが続いている。同時に、この当局者は「ただ、日本人には、そもそも、どうしてこういう事態に至ったのかを考えてほしいとも思う」と語る。「外国企業に通信事業を任せる事態を招くほど、日本がデジタル弱国だったことがそもそもの出発点だ」

「デジタル先進国」韓国を作った政治的決断と国民性

韓国はデジタル先進国だ。新型コロナウイルスへの対応は、モバイルアプリ一つですべて事足りた。ワクチン接種では、日本のように利用案内を紙で受け取ることはなく、アプリを通じてどこの病院にどの種類のワクチンの在庫がどの程度あるのかを把握し、接種日時を決められた。韓国人はコロナ禍の際、日本の有名企業トップが「ハンコを押さないと仕事が回らない」と言って出社している姿を見て、「電子署名全盛の時代なのに」と驚いた。

韓国がデジタル先進国になれた背景には様々な事情がある。

まず、韓国人すべてが持っている住民登録番号の存在がある。13桁の番号で、これがすべてのデジタルサービスの基礎になっている。デジタル時代の到来に備えてではなく、北朝鮮の工作員を見分けるための導入だった。朴正煕(パクチョンヒ)政権時代の1970年代に現在と同じ様式の登録番号制度を整えた。

次に韓国の歴代政治家の決断があった。全斗煥(チョンドゥファン)大統領は1980年代に電子交換機(TDX)の更新を進め、情報通信のインフラを整備した。金大中(キムデジュン)大統領は超高速インターネット網の構築、盧武鉉(ノムヒョン)大統領は電子政府の立ち上げに尽力した。

国賓として来日した金大中・韓国大統領(当時)
国賓として来日した金大中・韓国大統領(当時)=1998年10月7日、東京・元赤坂の迎賓館で、朝日新聞社

金大中政権当時は、韓国が財政破綻の危機に瀕した1997年のアジア通貨危機(韓国では通称「IMF危機」)のため、伝統的な製造業やサービス業が壊滅し、新しい産業を興す必要に迫られるという事情もあった。それでも、韓国政府の元当局者は「誰も目をつけていない情報産業の振興にかじを切ったDJ(金大中氏)の決断力は評価されるべきだ」と語る。

そして、何よりも韓国の国民性がある。韓国の人々は、いちいち役所に足を運ばなければならない行政サービスには満足しない。何時間も待たせるような行政に反発し、「もっと便利にしろ」と声を上げる。政治家はこうした声に敏感だから、選挙の際に公約にする。

北朝鮮による侵略、IMF危機などを経験しているため、個人情報保護や情報流出などのリスクがあっても、「変化しないと生き残れない」という意識も強い。

韓国の知人に言わせると、韓国人にとってのLINEにあたる「カカオトーク」は、リアルタイムでやり取りするのがマナーとされる。この知人は「日本では就業時間中はLINEメッセージに返信しなくても問題ないと聞いたが本当か。韓国でそんなことをしたら、相手にされなくなる」と話す。こうした何事も効率よく、早くを求める国民性もデジタル化を助けたのだろう。

韓国人に不思議に映るニッポン

LINEの問題を契機に話を聞いた、韓国に住む知人たちが口をそろえたのは「理解しにくい日本の国民性」だった。

知人の一人は「役所の不便なサービスにはおとなしく従う。一方で、マイナンバーカードなどを巡っては個人情報の保護を理由に抵抗する。どちらが本当の日本の国民性なのか」と話す。別の知人は「日本政府は、秘密保護やデジタル弱者への配慮など、あれこれ神経を使い過ぎる。神経を使い過ぎた結果、個人情報を外国資本に把握されるなんて笑えない話だ」と語った。